第23話 孤児院魔術士、精霊神に会う

 エルフの里があるとされる森に到着した。

 ここからはマナを使わずに歩く事にする。

 すんなり通してくれるとありがたいところではある。

 ま、それは無理なご様子で。


 後ろに三人、前に一人エルフの気配がある。

 後ろの一人が弦を引いて矢を放つ準備をしている。


 「何者だ! この先になんの用がある!」


 「あー。まず敵じゃないって事を伝えておくよ。目的は精霊神に会う事です。少しお話を聞けたらなと」


 「怪しい者め。直ちに立ち去れ! さすれば命は取らん! 二度もない警告だ!」


 「そんな! 私のどこが怪しいって言うんですか!」


 ローブを深く被り、狐の仮面を着けているだけではないか。

 武器は何も持ってない。冒険者なのに武器を持ってないのが怪しいかな?


 「貴様のような魔族がここに立ち入れと思うてか!」


 「だぁ! エルフの皆様方は! そーんなに私を魔族の一員として捉えたい訳ですねそうですね!」


 仕方ない。

 信頼を得る為にもローブを外す。


 「いきなり狙撃とはナンセンスだよ」


 「いつまでもそこに居るからだろう」


 初撃を躱した。

 そんな、立っているだけでも容赦無く撃たれるのか。

 ローブを外したので、これで少しは信用してくれるだろうか。


 「ヴァンパイアか?」


 「角が無いだろ!」


 後羽も!

 仮面も外しておくか。

 なにかあったら嫌だしね。


 「これで少しは信頼してくれたか?」


 「白い髪に紫色の瞳だと? 人間ではないな」


 「私は自分の事を強く人間だと思っているけどね」


 正確には紅桔梗色の瞳だと思って貰いたい。

 今の私のマナの性質、色は紅桔梗となっている。

 そのマナが龍眼を得た効果により、目に集中して集まるように成った。

 結果、黒色の瞳が紅桔梗色の瞳に変わったのだ。


 「それで、精霊神に会わせてくれないかな? 聞きたい事があるんだ?」


 返って来た答えは無言の狙撃。

 四本の矢が各々の方向から直線的に迫って来る。

 魔術での加速効果が見られる。


 「エルフの里のエルフは精霊魔術を使うんだっけ?」


 精霊と契約して魔術の行使をする精霊魔術。

 その特徴はなんと言っても術式構築を必要としない点だろう。

 使いたいと思ったら精霊にお願いするだけで一瞬で発動可能。

 まぁでも、精霊の強さに依存してしまうから対処などは楽なんだけどね。


 「ちぃ。これじゃ貫けないか」


 シールドで守ってしまえば全く問題ない。

 これで相手方は実力差をしっかりと理解してくれると思うのだけど⋯⋯私は横に軽くステップした。


 「まさか薙刀を使って来るとは思ってもみなかったよ」


 「弓矢だけで戦う訳なかろう」


 前方に居たエルフが薙刀を突き出しながら肉薄して来た。

 こっちは魔術士だけど、その身体能力は物理戦闘職に匹敵する。

 避ける事は造作もない。


 「てか、本気で殺しに来てるじゃん」


 だが、連撃は止まる事を知らずに私を襲い続ける。

 しかも後ろからは矢が迫って来るのだ。

 結界に閉じこもっていても、この薙刀で貫かれてしまう気がする。

 エルフって私の想像以上に荒い性格をした種族なのかもしれない。

 シャルが特別なだけかな。


 このままだと埒が明かない。

 少しだけ攻撃してみるか。


 「止めなさい」


 「⋯⋯ッ!」


 マナを解き放って術式を構築した瞬間、風が人の形へと変わった。

 ここまでの現象、そして風と一体化したようなその存在。

 力はファフニールに及ばないモノの私が全力を出して、ようやく互角と思える程の威圧感と存在感。

 間違いない。あいつは上位精霊だ。


 「⋯⋯白髪の女よ。それ以上の力を使う事は許さん。信者達よ、矛を収めよ」


 その一言で殺意を放っいたエルフが引き下がった。

 凄いな。エルフ達が何も言わずに従っている。

 ただの上位精霊って訳では無い。

 もしかしたら、風の精霊の頂点、原初精霊シルフかもしれない。


 「ソナタは何用にここに来た」


 「精霊神に会いに来た」


 「ほう」


 マナを解放して私を威嚇して来る。

 潰されてしまうかもしれない程の重圧を感じる。

 目には目を、歯には歯を、マナにはマナを!

 私も今出せる最大限のマナを解放して威嚇に対応する。

 ただで引き下がる気は毛頭ないと、そう伝える為に。


 「止めなさい」


 「それ以上続けるなら敵と見なします」


 「あーこれは無理!」


 一体だけならなんとかなると思ったんだけど、四体相手は無理。

 火、水、地の三種が加わった。

 あまり力の格差を感じないので、同等の力が四体揃っていると思って間違いない。

 二体以上は私は確実に負ける。


 ここは引き下がるしかないのか。

 折角ここまで来て、ハザールさんを途中まで付き合わせてしまったのに収穫ゼロかよ。


 「お主から龍族の気配がするのは何故か、答えて貰おう」


 「おいおい。火の上位精霊さんよ。こちらの要求を呑まずに貴方方の要求だけは呑めと? そんな都合の良い話がありますか?」


 「我々の前でその減らず口がどこまで動かせるか、試すか?」


 はぁ。

 精霊神の直近だと思われる精霊さん方は心が狭い事で。

 これは精霊神の器の広さも見えたも同然だな。

 精霊は精霊神から原初精霊が生まれ、原初精霊が精霊を生み出す。

 そんな仕組みに成っているので、コイツらの器の広さが精霊神の広さと差程変わらないと見ても問題ないだろう。


 これは足を運んでも、精霊神が私に何かを教えてくれる事は無さそうだ。

 一応、この森には無い珍しい果物を取引材料に待って来たけど、意味なかったな。


 「何か言いたげだな」


 「あぁいや。精霊神様は力で相手を屈服させて要求を呑ませる暴力的思考の支配者なんだなぁと思いまして」


 あ、やべ。口が滑った。


 刹那、精霊やエルフ達から強烈な殺気を浴びせられた。

 まぁ、敬愛する主様を貶されたらそりゃあ怒りますよね。


 「あ? 手錠?」


 マナの制御を妨害する魔術が施された手錠をされた。


 「貴様を連行する!」


 わお。


 エルフの里の中には入れたけど思っていたのと全然違う。

 手錠に繋げられ、上位精霊が傍にいるせいで、他のエルフからの視線がとても冷たい。

 やめて、そんな目で見ないで。


 「ジロジロ周囲を見るな」


 「エルフさんに強い言葉を使われてもねぇ」


 「見るな」


 「火の上位精霊さんに言われたので見ませーん」


 なんか皆、シャルよりも少しだけ耳が短いな。

 だから少しばかり観察していたのだが、叱られてしまった。

 裁判所にでも連れて行かれるかと思ったが、場所は木で作られたそこそこ広い建物だった。

 木製なので簡単に壊れそう。


 「なんだこれ。木か?」


 ちょっと集中して見ると、ただの木では無い事が分かった。

 マナが浸透しており、普通の木よりも何倍も丈夫に感じた。

 精霊やエルフが頭を垂れた。頭の方向を見ると、玉座らしい物が置かれていた。


 「⋯⋯ッ! はは。これは最悪だね」


 玉座の中心にマナでは無い何かが集中して形を形成する。

 間違いない。

 この異質な気配、そして確実に勝てないと思わせる威圧感。

 ファフニールとはまた違う圧倒的な強者の風格。


 「精霊神」


 形が形成し終わったのか、その姿を表した。

 それは両手で持てる程の大きさ。もふもふとしてとても可愛らしい小さいアニマル。

 モモンガだ。


 「⋯⋯精霊神」


 感じる力は正しく神なのだが、見た目がペットとして扱われているアニマルのモモンガだ。


 「して、この子は?」


 「は! 主神様、この者は主神様に対して愚行を働いたので、連れて参りました」


 「愚行?」


 「はい! 器が狭いと、侮辱なさいましたので」


 「そんなの言わせておけば良いものをわざわざ⋯⋯」


 「ですが!」


 「いやね。本当は知ってるよ? そもそも僕がそう言われた原因は君だろ? 君がわざわざ聞かなくても良い事を聞いて、反論されたから脅し文句を使った。その結果、返って来たのは正論だ。違うか?」


 「⋯⋯」


 精霊神呆れてらっしゃる。

 この神は器は広いのかもしれない。

 私の基準はファフニールの器と成っている。

 あのドラゴンは約束を果たしてくれるなら命を奪っても構わないと言い放つ程だ。

 それと同じくらいとは思えないが、悪口程度なら流せる程には器は広いようだ。


 「まぁある程度の事は把握しているさ。我が子達の目は我が目だからね」


 私と同じか。

 私の龍眼はファフニールの目に共有されている。

 龍眼で見た景色はファフニールも見ているのだ。

 それと同じなのだろう。


 「それで、君は僕に何が聞きたいのかな?」


 「あ、よろしいんですか?」


 「うん。君は僕の機嫌を損ねない為に、ギリギリまで信者達の攻撃を躱して反撃はしなかった。自然を壊さない為に使おうとした魔術も小規模な物だったしね」


 術式構築段階でそこまで見破られるのか。はは。やばいな。

 初めて神を目にしたけど、これりゃあ戦ったら瞬殺だわ。


 「部下の非礼も詫びる形になるけど。何が聞きたかったの?」


 「⋯⋯貴方様を殺せる力について」


 刹那、場が凍りついた。

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