第22話 ルルーシュ、戦いますその2

 「ああああああああ!」


 溢れ出すドラゴンのマナ。

 体を蝕んでいく。

 アメリア様と違って肉体構造を変化出来る段階じゃないから、このマナに体が合わない。

 身に合わぬマナは僕の体を崩壊させていく。


 「な、なんだそれ」


 「はぁ。なんとか落ち着いた」


 マナが増えるだけでは無いけどね。

 この龍の心臓ドラゴンハートはマナの総量を増やすだけではなく、体力なども向上させる。


 「行くぞ」


 僕は動いた。


 「⋯⋯あああああ!」


 相手⋯⋯この場に居る全ての存在が僕の動きを見る事は出来ない。

 それだけのスピードで僕は動いたのだ。

 それだけじゃない。

 相手の爪だけを剣で剥がすと言う器用な事をした。


 「お前は女をいたぶるのが好きで、戦いが楽しいのだろう? 楽しませてやろう。僕はお前の体を止血しながらミリ単位でスライスして行く。それをお前は反撃も出来ずに耐える、そんな戦いだ」


 「ふ、ふざけるな」


 「ふざけてないさ。お前はもう、僕と戦闘出来る領域に居ない」


 もう一歩動いてミリ単位で手と足の指をスライスした。

 それをゆっくりと繰り返す。

 血が流れないようにきちんと止血は行う。


 「あああああ!」


 「お前らが作ろうとしているのは人工魔人だ。人間から魔人に変えるだけの技術を研究している」


 その魔石の種類によって強さが変わったりするけど。


 「そしてお前らが真に求めているのは魔人ではなく、半魔人だろう。その完成系の一人が僕だ」


 半魔人が暮らしている村には勇者も魔王も近づかない。

 それだけの力が隠されており、それをこいつらは調べあげていた。

 それ故に村直接は襲わない。

 だけど、たまたま村から離れて両親と遊んでいた僕を見つけて、僕は捕まった。


 「お前達が求めていたのは半魔人の心臓、魔石心臓」


 人間の心臓の形をした魔石が内蔵に成っている半魔人。

 半魔人の一番の特徴と言っても差し支えないだろう。


 「僕は自分の体を実験体として調べたんだ。回復魔術が使える者が仲間に居たのでね。躊躇いはなかった」


 「うがああああ!」


 高速でスライスしていると、いつの間にか足と手がなくなっていた。

 ふくろはぎや腕には行かずに次は耳、頭皮を削って行く。

 頭皮は少し削ったら放置だ。脳を切断しないように注意する。


 「自分の心臓を抉り出して、魔石心臓をこの目で確認した。師匠の協力を得て、その性能を研究した」


 「あ、あぁ」


 「なんだ。もう廃人となるか? ま、別にお前に言っている訳では無いが」


 適当なポーションを取り出して投げかけた。

 ポーションでは怪我や病気は治るが、破損した部分は治せない。

 エリクサーなどと言う万能薬や回復魔術くらいしか出来ない。

 ポーションで回復出来る病気に精神障害も含まれる。

 痛みで廃人と成っていた男を回復させた。


 「魔石心臓はモンスターの血肉、或いはマナを得る事によってその性質を変更する事が出来る。ま、体に馴染めないと拒否反応が出て自滅するがな。僕が獲得したのはこの世の最強の種族ドラゴンの心臓」


 ま、正確にはまだ完璧じゃないから契約して借りていると言う表現が正しいけど。

 僕の魔石心臓は内部に眠らせた師匠のマナを起こす事により、龍の心臓へと姿を変える。

 その心臓は師匠と共有になっており、まだ僕の力と言う訳では無い。


 龍の心臓はマナへの親和性が悪魔レベルに高く、保有出来るマナの量も凄い。

 この世界で生きる災害、最強の種族と呼ばれている所以である。

 アメリア様はこれを時々無意識で解放出来るのだが、僕には無理だ。

 アメリア様がこの力を使うと、龍の鱗が身体中に現れて、翼などが生えたりする。


 その半龍人のような姿が適合している証拠と成っている。

 僕は姿が全く変わらない。

 龍の心臓に適合していない証拠だ。


 「半魔人はモンスターの特性を自由に扱う事が出来る。お前が求めている完成系の姿だぞ!」


 ただ、そこまで万能な事では無いけど。

 その特徴を出しても、体に慣らすには訓練が必要だし、体ごとに合うモンスターが違う。

 僕とアメリア様はたまたまドラゴンと適合する半魔人だっただけである。

 ドラゴンの力を使うには素の肉体とそれ相応のマナが必要。

 今の僕はその二つとも欠けている状態だ。


 「終わりか」


 死んだ。

 地獄の苦しみを与えてやる事も考えたが、それは地獄の閻魔にでも期待しよう。

 死ぬまでミリ単位でスライスした。

 僕の出来る事はこれまでだ。


 「眠れ」


 心臓の力を抑えた。

 刹那、反動により身体中の血液が逆流する。


 「かはっ!」


 やっぱり外で使うには速すぎたか?

 一秒でも速くこの力を扱えるように成りたくて、事を焦ったか。


 「ルルーシュ様」


 「アイン。助かる」


 肩を貸してくれたアインに感謝を述べながら、回復魔術が扱える人達が使ってくれる。

 世間では回復魔術は神官じゃないと使えないと成っているが、それは違う。

 確かに信仰心は必要となる。

 誰かを崇める心が回復魔術の一番最初に必要な条件だ。


 我々は神など崇めてはいない。

 崇める対象は必ずしも神にする必要は無い。

 ただ崇める心さえあれば、適正次第で回復魔術は使える。


 「他の者は研究資料の回収と解析、マナの総量が多い者は被害者の解放に務めてくれ」


 人工魔人は普通の人間のような生活には戻れない。

 それを伝えた上で我々の仲間となるか、元の生活に戻るかを問う。

 まぁ、絶対に元の生活には戻れないのだがな。特に子供は。


 回復魔術を三分間は受けてないと体がまともに動かないな。

 取り敢えず、僕と言う存在を奴らに知らしめる事は出来ただろう。

 口の中に含まれている血にマナを込める。


 「ぺっ」


 ずっとこの空間の中にいた、透明化している『ルードアイ』と言う召喚獣を貫いた。

 ここも本部と言う訳では無い。あくまでも研究施設の一つなのだろう。

 僕の存在を知らしめる理由に至ったのは、そろそろ存在が勘づかれる時期だと判断したからだ。


 小さな研究施設を何個も襲っているので、敵の存在には気づく筈だ。

 なのでこちらから大々的に宣戦布告した訳だ。

 これでこちらの対策に時間をかけて、研究を遅らせてくれたら良いのだけど。そこまで人数は少なくないか。

 それと僕を狙うように仕向けた。


 こいつらがこのままのペースで研究しても半魔人には数百年は辿り着けない。

 人間の心臓と魔石を組み合わせる技術がないと不可能だ。

 しかも、その完成系は簡単には見る事の出来ない。見れなければどのようにしたら良いのかも分からない。

 僕達はこれからもコイツらを襲撃する。ならば、迫って来るネズミを捕まえる方が速いと分かるだろう。


 僕は自分自身を最高の囮として奴らを誘き寄せる。

 タルタロス教団、コイツらを殲滅する為に。

 半魔人の性質を無意識で使っているアメリア様ならきっと既に本質に気づいて使いこなしているだろう。

 龍の心臓に付いてなど、アメリア様が知っている事は報告しなくても良いか。


 「もう動ける。皆も探索に当たってくれ。生け捕りにした使徒共は拠点に連れて行け。影移動が使える筈だ」


 影空間に入るだけでも難易度が高く、そこから違う影に出るのも難しい。

 入った事、行った事の無い場所は影移動での移動は出来ない。

 アメリア様と師匠の影なら、マナが強力なので行けるのだが。


 「お、お前達! こんな事して、どうなるか分かっているのか!」


 「⋯⋯連れて行け」


 僕も探索に加わろう。

 全力を使ったせいでマナが麻痺して万全には使えない。


 「ルルーシュ様これを」


 仲間の一人が僕に示して来た物があった。

 流石は本拠地では無いにしろ大きめの基地なだけはある。

 まさかこれ程の新たな情報が手に入るとは。


 「昔に描かれた絵に⋯⋯邪神教とはな」


 タルタロス教団は邪神教と言う、邪神復活を目論む組織の一部隊でしかなかったようだ。

 タルタロスが邪神と呼ばれる存在に直結しているしていると思ったが、タルタロスが邪神と言うカテゴリを持っていただけだった。

 ここで分かったのは邪神教と言う本質の存在と、ロキ教団、タナトス教団⋯⋯この二つが新たに存在が発覚した。


 「でも、これはあくまでタルタロス教団との物品取引の履歴書で分かった事⋯⋯他にも教団が存在する可能性はあるか」


 「敵が想像を絶する程に巨大でしたね」


 「ええ。でも、大きかろうが関係ない。このような悪事を続ける奴らを野放しにはしない」


 「ええ。もちろんです」


 奥の方に放置されていた死骸は完全に肉が腐った骨だけや、腐った肉が残ったモノもあった。

 生きている人は残念ながら存在していなかった。

 人工魔人に使われた人以外は漏れなく、殺され放置されていた。


 「運び出しましょう。せめて、広い世界で安らかに眠って貰おう。ここで材料として使われていた人達の家族もいるかもしれないから、この子達が起きてから埋葬しましょうか。資料も全部運び出して」


 僕達の戦いは果てしなく長そうだ。

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