第19話 孤児院魔術士、仲間を得る
「はぁ。退屈だ」
冒険者として今はやっているので仮面を着けている。
今は暇な時間を持て余し、帰るにしてもなんとなく気が引けて、無料公演のピアノを聞いている。
後一日走ればエルフの里に着くのだが、その為に渡る大きな川が昨日の嵐によって渡れなくなっていた。
この付近ではなく、川の村付近である。
なので一日待たないといけない。
ならば金でも稼ごうかと思ったのだが、特に良い感じの依頼もモンスターも居ない。
この辺のモンスターを狩り尽くしたら他の冒険者に迷惑だしね。
まぁ、そんな様々な理由で現在は暇な時間を謳歌していた。
ただ、このようにベンチに座ってだらけていてもマナを練り込んでいる。
マナを操作する練習は呼吸と同様に出来るので、常に行えている。
無意識でもマナを練り込める、これが重要だ。
「すまない。こちらの勘違いだったら申し訳ないのだが、ソナタは黒薔薇白狐で間違いないか」
「あー自分で名乗った事ないので間違いですね」
「なるほど。ならばソナタがソロの魔術士なのだな」
私は声をかけて来た方をチラリと見た。
コイツは強い⋯⋯何故なら気配が全く感じ取れなかったからだ。
私の気配感知はマナを察知すモノとなっている。
私でも感じ取れない程にマナを隠せるとは⋯⋯本当に凄い。
しかも足音や武器を揺らす音すらも出さないで背後を取って来た。
武器は⋯⋯刀か。
これもまた珍しいな。
「それでなんの御用で」
「ああ。自分はソロの剣士をしていてな。出来ればパーティを組まないかと言うお誘いだ」
「⋯⋯クランには?」
「はは。残念ながらどこも門前払いさ」
これ程の実力者を門前払い?
一体どこのクランだよ。
まぁ答えは決まっているけど。
いくら強くても私に冒険者としての仲間は要らない。
「すまないが他を当たってくれ」
「ん〜他も全滅中だから、最後の綱としてソナタを探していたのだよ」
「そこまでマナを隠せるなら相当の実力者でしょ? 必要かい? 裏切る危険性のある仲間なんて。最大の敵は格上の敵よりも裏切る仲間だぞ」
「ふむ。それも違うな。自分は生まれつきマナが存在しないんだ」
「冗談キツい」
マナは生物たる者全ての存在が少なからず持っている。
そこには才能なども挟まれるが、本気で努力をすれば限界はあれど総量も増やせる。
戦うにも確実にマナは必要となる。家具などの生活にもマナは必要だ。
生まれつきマナが無い? それは生物として成り立っていない。
「バカバカしい」
「そう言わないで。もっと自分を見て欲しい。何したって構わない。信じてくれるまで調べて欲しい」
「じゃ遠慮なく」
もしもそれが本当なら興味の尽きない事である。
生物なら持っているマナを持っていない。
それに何らかの理由があるとしたら、きっと神への道をまた一歩進む機会になるかもしれない。
やっぱり見ただけでは分からないか。
龍眼開眼。
龍眼を持ってしても相手のマナを見る事は出来ないか。
ならば⋯⋯。
私は相手の手を握った。
そして自分のマナを対象に流し込んで引っ張り出す。
最近は遠隔操作も練習中なのだよ。
「⋯⋯無い」
「言ったろ?」
「おかしい。おかしいだろ! なんで動いているのにマナが無いんだよ!」
「それは自分が一番知りたいな」
「⋯⋯と言うか、それでどうやって冒険者なんてやっているんだ。死にかけるだろう」
「それは自分の戦い方を見てもらいたいな」
私達は外に移動して、モンスターを探した。
一番最初に見つけた低級のモンスターであるゴブリンだ。
「でも大丈夫なんですか?」
「ああ。証拠になるか分からないけど、これなら少しは信頼してくれるかな?」
彼女は私との距離を30メートル程空けた。
そして三秒程動かない彼女を見つめていると、いつの間にか私の目の前に来ていた。
マナの気配は全くない。
つまり、身体強化も魔術での瞬間的な移動も使ってはい証拠だ。
私が彼女を認識した時には既に攻撃態勢。ボーッと見つめていた私は彼女の動きに対処出来ない。
「これでどうですかね?」
「はは。なんですかコレ」
「油断大敵って奴ですよ」
動く素振りすら無かったのに、気づいたら目の前にいた。
しかも武器を抜いたと思っていたが、それは彼女が発する殺気で私が見た幻覚。
肩を触られている。
刀を抜いていたら間違いなく私は死んでいた。⋯⋯いや、身体強化とかマナが無いなら私の首を落とせる力は出せないか。
ゴブリンに向かって彼女は鞘と柄に手をかけて、駆け出した。
「なんだあれ」
マナは使われていない。
だから身体強化がされていない。
それ故にスピードはお世辞にもモンスターと戦うレベルには速くない。
だけど、その走り方が独特な気がするのだ。
例えるなら空気。
横から見ているのに、少しでも意識から外したら見失ってしまう。
生活している上で全く気にかける事の無い物体に今の彼女はなっているような気がした。
しかも一歩の踏み込みが私の知っている剣士の誰よりも強い。
マナが使えないから身体強化が出来ない。
だからこそ作られた戦うための歩行術⋯⋯そう例えるのが良いかもしれない。
その自然体での動きから繰り出される一閃はゴブリンの首を飛ばした。
反撃も反応もさせない一撃。
それはナチュラル過ぎる動きに人間としての気配を消して、マナが全く存在しないが故に完成された技。
私の知っている剣士よりも、ファフニールの知っている剣士よりも、彼女の技術は高かった。
生きる為にはそうしないといけないかのように、磨かれた技。
「どうだろうか? 自分の力で出せる程度のモノしか斬れないから、オーク辺りになると倒せなくなるけどね」
「⋯⋯冒険者以外の道は無かったのですか?」
「ああ。良く聞かれるよ。自分の村では剣の腕前が全てでね。本当なら常識や最低限の学問を15歳に学べるんだけど、自分は呪われた子供として15歳に成ったら村から追い出されしまい、常識も学もないからまともな所では雇ってはくれず、結局は独学で磨き上げた剣しか、残されてはいなかった」
「そこからの話を聞いても」
「自分は戦える仲間が欲しいのでね。もちろんさ。その後は腕前を認めた人達に雇われたさ。傭兵として。⋯⋯そこでも剣を磨いて今ではこうだ。時には裏社会とも関わった。ただ、胸糞過ぎて全員斬ってから逃げたけどね」
「そうですか」
この人の人生は私よりも壮絶だ。
私にはまだ孤児院って言う居場所や生活出来る空間が存在した。
しかし、彼女はそれすらも無かった。
独学の剣術と言う事は、誰からも剣術を教えられていないのだろう。
そんな中で外で生きて来たのだ。
「分かりました。良いですよ」
「本当か! 本当に力不足で、Dランク推奨モンスター以上の奴は柔らかい奴以外には勝てないからな!」
「まぁ。そこは強化とか色々と試してみましょう」
そして私は彼女、名前がハザールと言う女性と仲間になった。
村から追い出されたのと同時に家名は剥奪されたらしい。
勘当されたようだ。
だからただのハザールと言う女性。
私達はパーティ登録の為にギルドに向かった。
ハザールさんのランクはE、私はCなのでパーティ単位のランクはDとなる。
「昇格試験か。知らなかったな。そんなのがあるのか。自分もやってみようかな?」
「おすすめはしませんよ。相手も普通に戦って来ますからね。あ、普通って言うのは一般的な普通なのでマナでの身体強化を使います」
「そうか。なら止めておこう」
冒険者登録などの知識は傭兵時代に培ったのかな?
傭兵と言っても色々あるし、何をしていたかは具体的に分からないけど。
「お、おい見ろよ」
「最近見てない黒薔薇白狐じゃねぇか」
「そ、その横にいるのって⋯⋯」
「ああ、
周りからの言葉が聞こえてくる。
私も有名人になったモノだな。
昇格試験に単独での上位ランクダンジョンの突破、嫌でも目立つか。
冒険者の間でハザールさんも有名だったのには驚きだ。
「どうしてあのような呼び名が?」
「ああ。弱いモンスター以外には絶対的にマナが必要だけど、人間相手ならマナはあんまり必要じゃないんだ。確かにマナを使った身体強化をされたら太刀打ちできないし、防御に回されたら斬れない」
「ああ。あの独特な技術を使えば、正面からも不意打ちが可能で、マナを練られる前に制圧出来るのか」
「そう。だから基本的に盗賊とか、対人戦をして来たんだ。その結果があれだね。生外はマナが無いって意味」
「そうなんですね」
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