第18話 ナキミル(2)
俺はナキミル。
現在は貴族、カルシリ公爵に呼び出されているので来ていた。
俺達のパーティに支援をしてくれている貴族である。
俺はこの人に逆らえない。
なぜ呼び出されたのかは容易に想像が出来た。
先日、Bランク推奨の新たに発見したダンジョンに向かった。
Sランクだからそんな所には行かない、なんて選択肢はなかった。
名誉挽回のチャンスでもあり、Bランクなら足でまといのカルシリ公爵の娘、ルナア・カルシリと一緒に居ても問題ないと思ったからだ。
それはきちんと公爵にも伝えていた。
結果は失敗。
正確にはバカが現れてダンジョンが攻略され、アイテムなどは先取りされる。
よってダンジョンにすら踏み入れてはいなかった。
「失礼します」
「来たか」
ドアを開けて中に入る。
中では椅子に深く腰掛けたハゲアタマ・カルシリに対面する。
その男の後ろにはメイドが立っている。
メイドは多分、ただのメイドではなく戦闘の教育を受けている。
立ち方が素人ではないし、目線が俺の下半身に向いている。
下手に動きたら一瞬で行動出来るように警戒しているようだ。
しかもそれがバレない用にしっかりと訓練されているらしい。瞳は真っ直ぐ向いている。
メイド服の中は戦闘服や武器のオンパレードだろう。
「貴様を呼び出した理由は分かっているな?」
「はい」
「何か言い訳はあるか?」
「⋯⋯バカが現れまして、ダンジョンの攻略が」
刹那、近くに置いてあった資料を掴んで俺に投げて来る。
その資料はどこかの情報屋を使ったのか、俺達の情報が記されていた。
情報屋がどのように情報を集めているのかは知らないが、本当に精密だ。
これ程の情報屋がこの国に居るのか? まさか国王陛下直属の情報調査部隊じゃないだろうな?
一冒険者を調べる為にそれ程の金は出せないだろう。
「少しでも戦えば良かっただろう。なんだ最近の貴様らは! わたしがどれだけ金を与えたと思っている! このクズめ! Sランクならそれ相応の働きをみせろ!」
「申し訳、ございません」
俺達が活躍をすれば、支援しているカルシリ公爵家の名声も上がる。
逆に活躍しなければ、カルシリの当主は見る目の無い奴だと思われる。
コイツはプライドが人一倍高いしな。
「このまま続くようなら、今後の関係を考えさせて貰うぞ」
「はい」
「そうなったらお前達は終わりだな」
貴族からの信頼を失う。
しかもそれが公爵家なら色んな所にそれは影響する。
『名ばかりSランク』から『無能のSランク』へと落ちるのも時間の問題になるだろう。
「もっと強いモンスターを倒したらどうだ無能」
怒りをぶつけたいのか、俺に近づいて来て床に頭を着けさせた。
足で頭を踏まれ、グリグリと押し付けられる。
俺はその行動に逆らう事は出来ない。
「そうしたいのは山々ですが、そう簡単な話ではないです」
大体、そんな強力なモンスターの所にお前の娘を連れていく事が出来ない。
そんな事も分からないなら、どっちが無能か分かったもんじゃない。
しかし、こいつもただのバカじゃない。
多分だが、ただのストレス発散に俺は利用されているのだろう。
「お前らのせいでわたしが貴族達の間でなんて言われているか知っているか? 無能に餌を与えている愚か者だ!」
「申し訳ございません」
「お前はそれしか言えないのか。全く。これだから無能は。お前に我が娘を任せたのは失敗だったか」
俺達もお前の娘を任されたくて任された訳では無い。
戦いには慣れてないし、無理に戦わせる訳にもいかない。
俺達の冒険者として在り方としてはとても邪魔だ。
しかし、その旨を伝える訳にもいかない。
「貴様のせいで、我が娘の評判は上がる所か下がる一方だ。わかるな?」
「はい」
「ここらでそろそろ手柄を上げないといけない」
「はい」
ハゲアタマは自分の椅子に戻って行く。
再び深く座って、息を深く吐いた。
そして俺に心臓を握り潰す事も出来るんじゃないかと言う程の鋭い眼光を向ける。
「最近、黒薔薇白狐と言う冒険者が名を急速に上げている」
「存じております」
「そいつの実力は単騎の魔術士でありながらダンジョンを攻略出来る程らしい。しかも一つ上のランクを。それを証言した冒険者パーティは二つも存在する。信憑性は高いだろう」
冒険者は上に登り詰めたい生き物だ。
自分達と同等以上の存在の叩ける部分があれば叩き、とにかく蹴落とす。
だと言うのに好評に繋がるような情報を与えると言う事は、それだけの価値があると言う事だ。
もしかしたら広めた訳ではなく、広まってしまっただけかもしれないが。
そのような人材は自分のクランで手に入れたいだろう。外に漏らすとは思えない。
「ソイツは金を積めば下水掃除から人攫いまでなんでもするそうだ」
「はい」
殆どは比喩だろうが、それだけ金にがめつい冒険者と言う事だろう。
金を与えればどんな依頼でも受け取る。
詳しいことはギルド内で隠されているが、完璧に隠蔽なんて出来ない。
現状はCランクらしいが、実力はSランクレベル。
昇格試験にも合格すると言う注目の的のような成績も残している。
「金はいくらでも出す⋯⋯お前のパーティにソイツを加えろ」
「⋯⋯ッ!」
「それ程の有名人かつ強力な冒険者だ。もしもわたしの下に就いたら我が株も上がると言うモノ」
「で、ですが。そうなると⋯⋯」
「なんだ。我が娘の立場を心配しているのか? 心配するな。ソイツに魔術での戦い方を教えて貰えば良い。パーティの最高人数は八人、問題なかろう」
金の問題でもルナアの問題でもない。
ソイツは実力がありながらクランにも所属しないで独りで冒険者として活動している事が問題なのだ。
それは何かしらの問題か性格の問題かで、群れる事を嫌っている人種を意味する。
金を積んで、人と群れるとは思えん。
それだったら既に大型クランの中に入っている。
「出来るか?」
五人目のパーティ。
ギルドの規定で1パーティ八人が限度と成っている。
俺達はSランクだから、足並みを揃えて戦える存在が簡単には集まらない。
だから四人で活動しているのだ。
そこに五人目を追加する⋯⋯それが出来るかも分からないが。
出来た後も問題だ。
それだけの実力者、もしかしたら俺達よりも上の存在かもしれない。
そうなったら結局は昔と変わらない状態になる。
「出来るのかと聞いている?」
答えを悩んでいる俺に対して強く言葉を出して来た。
答えは決まっている。一つしか存在しない。
「もちろん。ご期待に応えてみせましょう」
「ああ。失敗は許さない。その事を強く頭に刻んで行け。もう良いぞ」
「失礼しました」
俺は外に出た。
はぁ。憂鬱だ。
俺は鬱憤晴らしに草原にやって来た。
強いモンスターは少ないが、それでも居ない訳では無い。
懐のアイテムバックから『甘い匂い袋』を取り出した。
これはモンスターが好む甘い匂いを出すアイテムであり、モンスターを誘き寄せる効果がある。
その効果は鼻の利く奴を中心に集めて来る。
数はざっと13匹。
「なんで俺が、こんなに苦労しないといけないんだ。⋯⋯舐めやがって、クソっ!」
溜まったストレスを吐き出しながら俺はモンスターを駆逐する。
この辺にいるモンスターなんてパーティで連携しなくても殺せる。
マナを体全身に巡らせて身体強化をして、大剣にも流して強化する。
それさえ出来れば、高精度の技術を使わなくても雑魚モンスターは殺せる。
「はぁ。やっぱりこれが一番ストレス発散になるな」
匂い袋の効果が切れた時には死体が50ほど転がっていた。
回収するのも面倒なので捨てておく。
適当なモンスターがよって来て食べて、骨は時間と共に消滅するだろう。
俺は国に帰って仲間達に今日の事を伝える事にした。
失敗は許されない。
俺は貴族に成りたい。強い存在に成りたい。
爵位を得るにはそれだけの功績を国に与えないといけない。
その為にも貴族の後ろ盾が必要になったりする。
だからカルシリ公爵家との関係はこれ以上悪くしてはいけないんだ。
──しかし、俺はこの先中々黒薔薇白狐と呼ばれている冒険者と会う事が無かった。
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