第34話 孤児院魔術士、再会する
あれから数日が経過していた。
私達は警戒をして敵を撃退しながら、獣人達を襲う輩を私が捕え、違法的に売られた奴隷をルアが解放していた。
徐々に私達の存在が貴族の中で問題視されるようになり、今はこの国の大半が敵となっていた。
「まさか貴族がこちらを敵視するとは思わなかった」
「本当ね。で、どうするのじゃ?」
「ん〜流石に国王が関わっている訳じゃないし、貴族達は小さな嫌がらせしか出来ないだろうから放置かな」
そもそも貴族が私達に出来る事は少ない。
なぜなら、既に補助金は打ち切られているし、買い物も市場と言う個人事業者が集まる場所で行っている。
土地などの税金が免除されているが、そこを廃止したら国がそこを見つけ出す。
と言うかそうなったら直接文句言いに行く。昔と違い今は力がある。
「そうだね。そろそろ根っこを引っこ抜こうか」
「ついにか」
もう十分だろ。
孤児院に手を出したらどうなるか、その身に刻まさせて貰おう。
今晩、私達はすぐに奴らのアジトに乗り込んだ。
力が強い存在が複数存在するが、私達の敵では無い。
「さぁて、どうなっているのかな」
「楽しみじゃな」
門番らしき男達を適当に気絶させる。
中に侵入すると、全体的に会議っぽい事をしていた。
資金が足りなくなっているらしい。ざまぁ。
「やっほー」
皆がこちらを向いた。
「悪を成敗する正義の冒険者だよぉ」
「その付き添いじゃ」
「黒薔薇白狐」
その名前定着してんの?
と言うか、今仮面着けてないのにその名前はおかしいと思うのだが⋯⋯この白髪のせいかな?
まぁ良いけどさ。
「悪いけど、こっちは会話をする気が全く無いんだ。だからさ、人生を悔やんでよ」
私は術式を展開する。
迫り来るスピードの速いアタッカー集団。
「悪夢の砦」
ルアの魔術により全員が眠り夢に囚われる。
「バイバイ。天雷断絶」
轟音と共に辺りを電撃で埋めつくして、気絶させていく。
しかし、一人だけ生き残った人がいた。
「クソが。なんでこんなマネをする!」
「それはこっちのセリフだボケ! 孤児院に手を出しておいてそりゃあねぇぞ!」
「俺達は雇われただけだ」
「知るか。お前の都合も感情も考えも全部、全部、全部ひっくるめてクソほどにも興味は無いんだよ! 自己中だと思いたければ勝手に思ってろ。ムカついた、だからお前らを潰す、それだけだ!」
ルアが一瞬で接近して殴った。
ピンポン玉のように面白く跳ねて壁に激突する。
私の魔術を受けて立って居られたのは装備のお陰だろうか?
「何たる力。ここで我々を潰しても、お前を狙う存在は多い。貴族がどれだけ裏社会に手を染めているのか知っているのか! お前らのような国に寄生している存在が生き残れる段階じゃないんだぞ!」
「ぴーぴーうるさいな。殺してないだけ感謝しろ」
知った事か。
貴族が国の運営をしているのは誰でも知っているし分かる事だ。
そして私達は児童養護施設、国が身寄りのない子供を育てる場所として用意した所だ。
土地、建物は無料だし税金は掛からない。生活に困らないように補助金が出て、教育者は免税制度がある。
奴隷と言う生きる道具が合法化しているこの国で身寄り無い子供は格好なカモだ。選択の出来ない子供を守る為に用意された場所だ。
孤児院の上には当然、この場所を管理している貴族が存在している。
その貴族がどれだけの補助金を出すかを決めているのだ。
結果として、国から出るはずの補助金は貴族が横から独り占めして、周囲には出していると言いふらす。
貴族の言葉を脳死で受け取る愚民が多いから、私達のような被害者が訴えても変わらない。
だから昔から必死に学んで稼いで生き繋いで来た。
国王はともかく、殆どの貴族は子供でも身寄りが無いなら生きる価値無し、奴隷として使われるべきだと判断する。
養護しても誰も引き取ってくれず、親無しと言う肩書きを永遠に背負って生きるしかない。
なので同じ孤児同士で結婚する事が多く、その時に家名を得たりする。
それでも、私達はそれらを理解した上で生きているんだ。
「依頼されたから? 金が欲しいから? そんなんで孤児院汚されたらたまったもんじゃねぇんだよ。お前達も生きるのに必死で、大金を稼ぐためにした事かもしれない。いくらそれが違法であってもだ」
「そうだ。冒険者のお前なら分かるだろ!」
「あぁ。私だって、お金が欲しいからね。闇カジノに手を染めようとした事も何度だってあった。甘い誘惑に乗って楽な道を選ぼうとした事は何度もあった」
「だ、だろ?」
「アメリア?」
「そんな時に毎回、シャルが私を止めてくれた。お前達のような犯罪者にならないように、何回も止めてくれた。シャルや子供達は私にとって大切な家族なんだ。誰も引き取ってくれないから、一緒に孤児院育ちと言う業を背負うから、家族なんだよ。⋯⋯だから傷つけられたら、許せないんだよ」
「⋯⋯止めろ」
「お前は金が欲しいから孤児院に手を出した。だから私は、自分の感情に従ってお前らに復讐する。分かるか、お前らは直接命を取ろうとした訳では無い。ただ孤児院に落書きをしただけだ。⋯⋯でもな、私にとってはその『だけ』が許せないんだよ。貴族が敵になったら生き残れないって言ったよな?」
私は口角を上げて笑った。
「貴族だろうか国王だろうがな、私の家族に手を出す奴は⋯⋯地獄だろうが天国だろうが追い掛けて、徹底的に潰してやる!」
私の解放したマナに当てられた相手は泡を吹いて気絶した。
「随分饒舌だな」
「ついつい熱くなっちゃった。でもスッキリ。⋯⋯ルア」
私はルアの頭に手を置いた。
身長が同じくらいなので、子供にしてやれるような形じゃないけど。
「ん?」
不思議そうに顔を向けて来るルア。
「お前も家族の一人だからな。何かあったら私を頼れよ」
「⋯⋯ふん。妾がお主のような化け物に縋る事は無い」
「そうかよ」
私達がコイツらを拘束して運びだそうとした所だった。
アイツらが現れたのは。
「アメリア⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯ナキ、ミル」
私をファフニールの所で蹴り飛ばした男、ナキミルが私の目の前に現れた。
霧の森で会ったけど、あれは私が一方的に見ただけだった。それに仮面も着けていたし。
でも、今は完全に顔を見られている。
「やはり、生きていたのか」
コモノやマゾ、後魔術士の女が私を見てくる。
「ん? 妾はコイツらをまとめておくぞ」
「待て」
「なんじゃ貴様、それは」
四人の所を通り過ぎようとしたらナキミルが止めた。
「お前は死んでいる、良いか?」
「別に構わんよ。興味無い」
「コイツらは俺達が捕縛依頼を受けている。渡して貰うぞ」
「⋯⋯嫌だね。手柄だけ横取りするのは冒険者的に嫌だろ」
ナキミルが静かに大剣を私に向けて来る。
あぁ、そうかい。そうかよ。クソが!
元仲間に向かってそれですかそうですか。
「ルア下がれ」
「む? 分かったのじゃ」
関わらないようにしたのに、そっちが引かないならこっちも引かない。
別に手柄を渡しても良いかもしれないけど、これは警告でもあるんだ。
私達に手を出したらこうなると、知らしめる為に。
だから、私がやったと言う結果が必要なんだ。
「ナキミル、コモノ、マゾ。教えろ。何故私を殺そうとした」
私は目を背けていた事に向き直った。
興味無いと、関係ないと、見て見ぬふりをしていた。
アメリアは死んだ。それで良いと思った。
でも、やっぱり無理だわ。
だって、私を犯罪者にしないように守ってくれたのはシャルだけじゃないんだもん。
ナキミル達も同じだから。
だから、踏ん切りがつかない。
「お前を殺せば俺の出世は確定してくれると言ってくれた」
「なぜ?」
「答える義務は無い」
「あるだろ。あってくれよ。なぁナキミル。あの日のアレは本心か? それとも私の判断力を鈍らせるため?」
「本心だ」
「そうか」
ナキミルが貴族に成りたいと思っている事は知っていた。
自分の心を押し殺してまで、成りたいのか。
私はナキミルの覚悟を甘く見ていたのかもしれない。
「コモノ、君は私にどんな思いを抱いていた」
「特にない。興味なかった」
「私を仲間って、思ってくれてた?」
「⋯⋯無い」
コモノは嘘をつかない。
「マゾ、君は?」
「少しは憧れていたよ。でもさ、反対に劣等感もあった。だって傷も負わずに倒すから回復の意味ないしさ。強化も君の方が強いじゃん? だからずっと自分の存在理由が分からなかった。正直さ、アンタを始末するって話になって心がスッキリしたんだ」
「そう」
はぁ。そうか。
皆にとって私は『元仲間』ですらなかったのか。
そっか、そうなのか。
「ナキミル。功績が欲しいなら来なよ。私を皆の全力で倒してみてよ! 名ばかりのSランクと言われた君達と君達を元仲間だと思っていた滑稽な私、どっちが強いか比べようよ!」
これは過去との決別だ。
自分の気持ちに区切りを付ける。
「さぁ、来いよ。ナキミル」
「あぁ。悪いが殺す気で行かせて貰う」
魔術士以外が攻撃態勢に入った。
向けられる殺気。
「私はアメリア・アメリカ、蘇りしソロの冒険者だ」
名を隠すのも、もうやめだ。
今日から本当の私で生きてやる。
その為の対決を今、ここでする。
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