第33話 孤児院魔術士、闇カジノを後にする

 さてさて、悪魔と戦うとなるとこの場所は狭すぎないか?

 それに他の人たちも巻き込んでしまうんだが⋯⋯一番気をつけるのは上か。

 ここは地下なので、上を攻撃してしまうと街に被害が出る。

 全く、面倒な事をしてくれた。


 『何を笑っている』


 「いやね。ちょっと楽しそうかなって」


 『ふむ。デスストーム!』


 黒い竜巻が私を包み込む。


 目が霞むくらいでそこまでのダメージはない。

 まだ、息苦しいかもしれない。


 「雷帝!」


 私の中心に広がる紅桔梗色の電撃が竜巻を薙ぎ払う。

 刹那、私の懐に悪魔が入り込む。


 確実に魔術は間に合わない。

 悪魔に体術が通用するかは分からない。

 それに、この距離で出来る事は限りなく少ない。そうだな、出来る事はこれだけだ。


 「とりゃあ!」


 『何!』


 相手の拳を受け止める!


 「紫電!」


 『ファイヤーストーム!』


 相手の悪魔を紫色の電気が包み込み、私は炎の竜巻に包まれる。

 互いにダメージは無し、次に繰り出す魔術は少しだけランクを上げる。


 「電光総撃!」


 『バーニングフレイム!』


 先程よりも強い電気と炎の竜巻が衝突し、周囲を高い熱で包み込む。

 私には熱さは感じないけど、フィールドの壁が壊れそうだな。

 壊れてしまったら人にも衝撃などが行ってしまう⋯⋯か。

 仕方ない。私がここを結界で囲んで周囲に被害が出ないようにしよう。


 『次元加速!』


 「強化魔術か。電光石火!」


 空間が歪む速度と姿が見えなくなる速度。

 互いにスピードを強化して肉薄する。

 相手は拳を私は手刀を繰り出す。


 私は魔術士だ。

 単純な体術で戦う訳が無い。

 私の手に電撃がまとわりつく。そこには術式がない。


 「雷刃!」


 『ふんっ!』


 相手の腕を切り裂こうとしたが、バックステップで距離を取られる。

 すぐさま肉薄しようかと思ったが、右手が焼き付くように痛む。

 やっぱりダメだったか。


 最近研究している術式を使わない魔術。

 マナを直接魔術のような超常現象に変えるのだ。

 その反動がこれか。全く右手が動かない。


 「ちぃ。無理そうか」


 『我相手に使った事のない技を使うか!』


 「良いだろ別に!」


 ポーションを取り出して右手にぶっかけ、治しておく。


 『ファイヤーソード!』


 「剣術も使えるのね」


 相手は炎の剣を取り出して向かって来る。

 私は剣術はさっぱりであり、何も出来ない。


 「まぁ、防ぐ事は出来るけどね。電壁」


 電気の壁が相手の行動を制限し、後退させる。


 『同じ属性ばかりだな』


 「得意分野なのでね」


 相手はかなり筋骨隆々と言う感じで、巨漢だったのだが、段々と痩せて行く。

 エネルギー消費と言う訳ではなく、自ら体の形を変えている感じだ。

 ルアをちらりと見ると、優雅に酒を飲んでいた。


 「ま、文句はないけども」


 『もうお前は我のスピードについて来れない』


 そう言って、悪魔は壁をぴょんぴょんと跳び回る。

 確かに速いけど⋯⋯それは悪手だよ。

 私の動体視力は飛び抜けて高くなっているので、多少速くなった程度では意味が無いのだ。


 「さぁ行け悪魔! そいつを殺せ!」

 「面白くなって来ましたなぁ」

 「見えんぞ! ははは!」


 野次馬の声が聞こえて来た。

 ウザイなぁ。


 「せっかくだ。コレを使おう」


 私は術式の構築を始めた。これは一瞬では出来ない。

 相手がその隙を狙って攻撃しに来るが、ひらりと避ける。

 避ける、避ける、避けます!


 『クソ、なぜ当たらん!』


 「⋯⋯終わりだね」


 私は術式を展開して魔術を発動する。


 「時間停止タイムロック


 この地下空間の時間が止まる。

 止まっていられる時間は十秒と短いが、それだけあれば十分だ。

 悪魔に対して術式を展開させる。


 「天雷紫龍!」


 紅桔梗色の龍が悪魔を包み込むように動き、私がマナの繋がりを離す。

 そして時間停止空間に入るので、龍は止まる。

 同時に同じ術式を構築していたので、紅桔梗の龍は二体存在している。


 「時は、動き出す」


 十秒経過すると停止空間は終わり、時間が動き出す。

 当然、悪魔を囲んでいた龍も動いて悪魔を攻撃する。


 『な、なんだコレはああああああ!』


 「スピードがいくら速くても、止めてしまえば関係ないね」


 あのスピードに魔術を当てるのは面倒だったので、止めて倒させて貰う。

 恨みは無いが、魔界に送還させて貰う。


 「さて、大勝だね」


 悪魔に沢山賭けられておかげで、沢山の金が手に入った。

 ルアと共に出る。

 皆さん、悪魔を倒した私に恐れおののいて動きを止めるような事はしなかった。


 「ルア、場所は?」


 「面白かったわ。フルチ伯爵家の地下に本拠地があるそうよ」


 「へぇ。そこを潰して問題は?」


 「ここの闇カジノは色々なところが出資しているし、自費でも経営出来ているから、一組織が潰れても問題ないってさ。そこを消したら奴隷が手に入らなくなるだけらしい⋯⋯違法のね」


 「オッケ、じゃあさっさと行こうか」


 「ええ」


 まずは伯爵家の屋敷へと接近した。

 もちろん門番が居る。


 「行けルア」


 「はいはい」


 ルアがゆったりと進み、門番の前で少しだけ倒れ込む。


 アイツ、なんであそこまで演技が上手いだんよ。

 もしかしたら、魔界での生活を思い出しながらやっているのかもしれない。


 「どうしましたか!」


 「少し、貧血で」


 悪魔が貧血て。

 相手の心を奪うかのような表情と声音で甘く呟く。

 見てると吐き気が込み上げるが、ギリギリで耐えて見学する。


 門番はルアを中に連れて行った。

 再び門番が戻って来るまで10分程、内部で休んでいるようだ。


 「後は転移魔術で」


 ルアの傍に転移した。

 すると、鼻の中に生臭い臭いが突き刺さる。


 「優しいのは初めてだったわ」


 「そんな感想は聞きたくなかった。この臭いどうにかしてくれ」


 「分かったわ」


 臭いも液体も含めて全部吸収してくれた。

 さて、ここはどこら辺かな? 客人をもてなす場所らしいけど。


 「さて、地下への道を探すか。⋯⋯マナが流れてくれたら楽なのに」


 「ダンジョンが国内にあったら嫌でしょ。下にマナの気配が沢山あるけどね。どうするの?」


 「⋯⋯ルア、頑張って」


 「ふふ。食べても良いかしら」


 「それはダメ」


 「⋯⋯そう。地道に洗脳して聞くわ」


 「そうしてくれ」


 ルアが外に出て行き、メイドらしき声が叫び声を上げたが、一瞬で聞こえなくなる。

 そしてこの部屋にメイドを連れて戻って来る。


 「尋問を始めるぞ」


 ルアが質問をして、聞き出す。

 結果として、組織の存在は丸々分かっておらず、当然繋がる道も分からない。

 下っ端には何も知らされてないのだろう。当たり前だが。


 「ここでの記憶を消して、定位置に戻しておく」


 メイドは私達が目の前に居ながら、空気のように扱い部屋を出て、どこかに向かった。


 「知っていそうな人をどう探る? いっそ伯爵を襲うか?」


 「時間がかかりそうだな。手当り次第ってなるし。せめて伯爵のマナが分かればなぁ。後は地下へ繋がる道を進む人が居れば楽」


 「まぁ仕方あるまい。急げば回れって言うしの」


 今回の目的は組織の場所の正確な把握だし、気長にやろうかな。

 こっちはじわじわ追い込んで行くつもりだ。

 さっさと終わらて安心したい心はあるのだが、そんなあっさり終わったら怒りが収まらない。


 「場所を把握したら明日、奴隷を誘拐する奴らを全員捕まえる」


 「じゃあ、妾はその間に売り払われた子達を調べあげて、解放する様に手を動かそう」


 そうすれば、奴らの信用はガタ落ちだ。

 ⋯⋯まぁ、本来なら警察とかが動く案件なのだが、亜人相手だとそうもいかない。

 それにこの国で誘拐されている訳じゃないから、調べる事は絶対にない。


 「今日中に道が分かれば良いんだけどね」


 攻めたい時にはいつでも攻められる状況にしたい。

 ついでに奴らに警戒させて、戦闘員を一箇所に集めて貰いたい。

 そして一気に潰す。


 「下手に動けば勘づかれるかもしれない。慎重に行こう」


 「分かったわ。とりあえず、寄って来ているメイドにも尋問するわ」

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