第32話 孤児院魔術士、闇カジノに参加する

 「デスマッチって名前だっけか? 王と駒に分かれている。大体は王が貴族で、腕自慢の奴らを駒として使っている。駒と駒とのなんでもありの戦いが行われる、んで、どっちが勝つかに賭ける。勝った方の王と駒に集まった総額の三割手に入り、賭けた分もきちんと手に入る。もちろん、賭け金によって変動はあるけどね」


 「アメリア、なんか詳しいのじゃ」


 「まぁ、ね。とりあえず一気に金が欲しいから借りるぞ」


 「⋯⋯闇金?」


 「十日で二倍になる。その代わりいくらでも金を借りられる。勝てばチャラだよね!」


 「アメリア⋯⋯」


 私も昔、この世界に足を踏み入れようとしていた。

 だけど、シャルに全力で止められたので止めたのだ。

 こう言うのは主催が確実に勝つようなシステムがあるのでどうしても堕ちる。

 そこを危惧してくれたのだ。


 「とりあえず私が駒として行くから」


 「おい待て、お主だけ暴れてストレス発散する気じゃろ」


 「私が家族に危険な事はさせられないよ」


 「安心せい。妾は悪魔じゃ」


 ⋯⋯。

 とりあえずお金を借りる事にする。


 「チップ30枚」


 これは金貨300枚を意味する。

 ここでは金貨を賭ける用のチップとして変える。

 ちなみに金貨10枚で1チップだ。怖いね。


 「こちらにサインを」


 「へいへい」


 法的に意味の無い書類。

 だけど、これで逃がさない事と言う意思表示となる。

 チップを30枚借りて私達はデスマッチ受付に向かう。

 ここで選手に賭けるのも良いが、やっぱり自らが駒と出る方が効率が良い。確実性も上がるしね。


 「妾も暴れたいぞ」


 「悪魔の力を使うのは良くないからね」


 十分くらいの討論の後、私が駒、ルアが王として登録する事に決めた。


 「⋯⋯どこの貴族様だ?」


 「貴族じゃないさ。一般プレイヤーさ」


 盛り上がるなら問題ないのだろう。問題なく審査は通った。

 後は私達の出番が来るまでは待機で、チップは使わない。

 私が出た時に全部私に賭ける。


 「来たか」


 私に与えられた数字が呼び出されたので、中央のステージに向かう。

 結界の魔術が施された鉄格子の壁に囲まれている。


 さて、別に対人戦を楽しみに来た訳では無い。

 宣戦布告の為に行うのだ。⋯⋯ついでに吹っかけられた金を取り返してやる。


 「よう。嬢ちゃん。誰だか知らねぇが、ここに上がったのは運の尽きだぜ?」


 「へ〜」


 「⋯⋯お前、緊張感がねぇなぁ」


 「そうだね。弱い相手に警戒する程私は初心者じゃないからね」


 「弱い?」


 「うん。弱い!」


 私が笑顔で言うと、相手はめっちゃキレた。


 「俺はここで99連99勝だ! お前で100勝目だ!」


 ルアの方を見ると、すけべなジジイに囲まれていた。

 ルアは毅然とした態度をとっており、優秀な貴族令嬢に見える。

 角とかは隠しているけど、もしも出したら皆はどんな反応をするのだろうか。


 「私に賭けたのはルアだけか」


 「それりゃあそうだろ。俺が勝つんだからなあ! 負け確定の奴に金は出さねぇよ!」


 「ふーん」


 賭けが終わったのか審判が声を上げる。


 『いきなり現れたルーキーVS最強の男、レリーファイ!』


 刹那、対戦相手が剣を抜いて迫って来る。


 「四肢を切断して皆の前で甘い声を出させてやるよおおお!」


 その剣に炎が纏わる。


 なんでもありだとは知っているけど、魔道具もありなのか。

 本当にルール無用⋯⋯殺しも問題ないか。

 昔に来ていたら私はきっと、あの世でシャルに説教されているだろうな。


 「まぁでも、今は今か」


 魔術を使う必要もない。

 こんな奴は、マナを込めた拳で十分だ。


 「せい」


 「ぐはっ」


 腹を殴って壁まで一気に飛ばした。

 この一撃で沈んだと思うけど⋯⋯立ち上がりやがった。


 めんどくさいなー。

 さっさと倒れてくれたら楽で良いのに。

 ルアしか賭けてないから、沢山チップが貰える。

 そうなれば簡単に金貨60枚は取り返せるだろう。

 まぁ、今回の目的の為にももっと金は貰うけどね。


 「死ねぇ!」


 「当たらないよ」


 相手の攻撃を躱しながら挑発を繰り返す。

 実力差をきちんと見せつけるのも、大人のやり方だ。


 必要分は貰って、他の金はどうしようかな?

 あまり闇カジノで手に入れた金を孤児院で使いたくはないんだよな。

 どこかに投資する手もあるけど⋯⋯それも利用と変わりないしな。

 警察に報告してついでに渡せば良いか。もしかしたらそれで表彰されるかもしれない。

 国に黙認されてるからもみ消される可能性はあるけど、建前上は何かしらあるだろ。


 「くそ、なんで当たらねぇ!」


 「遅いからよ。魔術士に攻撃が当てられないなんてね」


 そろそろ終わりたいので、相手の喉を殴って終わらせた。

 殺してはないけど、こいつの王の鼻っ柱を折ったと思うので、何かしらの処遇は受けるだろう。

 さて、次の番まで休んでおくか。


 そう思い私は出ようとしたが、誰かが入って来る。


 「勝ち残り戦だ。続きをしようぜ」


 「なかなかに強そうね」


 身長3メートルはあるかな? そんな男が入って来た。

 他の駒のは一線を介する実力はあるようだ。


 「ルアぁ、全部私に賭けろよ」


 「もちろん、全額ベットよ」


 さて、賭け金が動くまで少しだけ待機か。

 さっきの奴みたいにペラペラ会話するのかなぁ。


 「⋯⋯」


 何も無いみたい。

 もしかして主催者の回し者かな?

 私の存在が一回戦だけで邪魔になった?

 もっと泳がせて盛り上がらせると思うのだけど⋯⋯警戒されてるのか?

 だったらここで不用意に情報を聞くのはやめておこうか。


 ルルーシュ達の集めた情報でも完璧に組織の場所が分かった訳じゃないからね。

 もっと具体的な情報源が欲しい。

 ルアに念話を送る。後はそっちの貴族様に股でも開いて聞いてくれと。

 こっちはちょっとだけ遊べそうなので、遊んでみる。


 『それでは、レリー⋯⋯』


 「行くぞ!」


 おいおい、審判に被せてやるなよ。

 ルアの情報収集まで遊んでやるか。

 魔眼の許可も出しているので、すぐに集まるだろうけどね。


 「少しだけ速いね」


 「ちぃ」


 相手は槍だ。

 私は槍相手と戦う事はあまりないので、少しだけ警戒しておく。

 あまり距離を離すのは良くないか?


 「お前、なぜ魔術を使わない」


 「使ったらつまらないでしょ。それに、魔術だけでは強くなれない」


 だから最近は体術に拘っている。

 私もハザールさんから技術を教わりたいけど、それをやってしまうと凄く時間がかかりそうなので諦めている。

 後二ヶ月程したら私はファフニールの三分の一の力を完全に扱えるようになる。

 そしたら再びファフニールの元を訪れて、マナを新たに貰う予定だ。


 その後は霧の主を倒す。


 「くそっ!」


 高速の連撃も、アーティファクトを使った攻撃も、私には当たらない。

 これが純粋な素のスペックの違いだ。

 私は見た目以上に素の力が強いのだ。


 「ぱーんち」


 「ぐっ」


 マナを込めて拳を突き出すと、相手の槍を粉砕して吹き飛ばした。

 壁までは行かなかったが、そこそこ距離が離れた。


 「くらえ、ファイヤーエンブレム!」


 私の足元に術式が構築されて、炎が登る。

 炎に包み込まれてしまうが、服にマナを流して燃えないようにすれば問題ない。


 「この程度の魔術じゃ、私には通用しないよ」


 一瞬で肉薄して、拳を突き出した。

 ギリギリで避けられたよ。凄いね。


 「くら⋯⋯」


 「空中に身を出したらすぐに体勢を直した方が良いよ」


 じゃないと、このようにキックが顔面に入るからね。

 これで終わりかな。気絶して立ち上がらない。


 「まだ、終わってないぞ」


 「⋯⋯ッ! おいおい。コレは本当に主催者の回し者だな」


 相手から開放されたマナ。

 感じる力は⋯⋯悪魔と類似する。

 しかも、その実力は悪魔のルアよりも勝る。

 ⋯⋯だけど、今のタルタロス教団が用意した肉体に受肉したルアには劣るな。問題ないか。


 「まぁでも、警戒した方が良いか」


 悪魔は何をするか分かったもんじゃない。

 と言うか、観客達はなんでこんなに平然としてるの? 寧ろ「殺れ殺れ」と盛り上がっている。

 悪魔だって知った上での参加か。


 『俺は力に植えている。だからお前のような強者を待っていた!』


 「なるほど。この場は闇カジノでありながら、悪魔との契約の場でもあったのね」


 さて、ルアの方は。

 ジジイに太ももを触られながらも親指を上げている。

 うん。問題なさそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る