第31話 孤児院魔術士、いざ参る

 まずは孤児院を綺麗にしよう。

 生活する場所が貶されるのは最悪だ。


 「さて、まずはどうやって調べるか、だ」


 「どうするんじゃ?」


 我を水の魔術で洗いながら会話をする。

 私はあまり水の魔術は得意ではないので、効果は薄い。

 悪魔であるルアは問題なく普通以上には使えており、素早く綺麗にしている。

 一番早いのはシャルだ。


 「宛がある。少しだけ聞いてみるよ」


 「わかった。こっちも市場の人達に聞いてみる」


 「うん。よろしく」


 私は掃除が終わったらファフニールの所に向かう。

 もしかしたらルルーシュ達なら何かしらの情報を掴んでいる可能性が高いからだ。


 ファフニールのダンジョンに到着して、さっさとボス部屋に入る。

 中では前と同じようにファフニールと戦いながらの訓練をしていた。


 「アメリア様。どうなさいましたか?」


 「休憩に入っていたのか。実はさ、孤児院が何者かに落書きされて、少しだけでも情報を知らないかなって」


 「なるほど。少し資料の方を探って来ます。アメリア様はゆっくして行ってください」


 「ん〜そうさせて貰うよ」


 あまりゆっくしたくないが、ファフニールが何をしているのか見てみたい。

 なので、ルルーシュが奥に行って待っている間はファフニールを観察しようと思う。

 ⋯⋯このダンジョン、地形が変わっているな。拡張されている。


 「なんやかんやでファフニールも寂しかったのかな」


 ルルーシュの仲間がお茶を出してくれたので、お礼を言って受け取る。

 なんか、皆私に対して一歩引いて接している。

 別に卑下している訳ではなく、寧ろ敬うような態度だ。

 やりにくい。


 『そこまでだ! なかなかに動けるようになったな、ハザール』


 「はい、ありがとう、ございます!」


 疲れた様子のハザールさん。

 まぁあんなに動いていたらね。

 にしても、ルルーシュからではなくファフニールから直接マナを貰った感じだね。私とマナの性質がとても近い。

 マナの量はまだ少ないが、徐々に上げて行くだろう。

 マナか無いと言う長所がなくなってしまうが、やはり限界はあるよね。ファフニールもそれは分かっている筈だ。


 「⋯⋯落ち着いて分析してしまった」


 予想外な出来事過ぎて一周まわって冷静になってしまった。

 お陰で冷静な分析が出来た。

 ⋯⋯なぜ、ハザールさんがルルーシュ達の仲間になっているんだ?


 「ふぅ。まだマナを使った時の反動が体に来るな」


 「お疲れ様、ハザール」


 「ありがとう、アイン」


 誰かがハザールさんにタオルを渡していた。

 ハザールさんはタルタロス教団の被害者なのだろうか? 大抵そう言う人達の集まりの筈だ。

 ハザールさんが冒険者を辞めた理由はこれかな。


 「やっほーハザールさん」


 私はハザールさんの背後に肉薄して声をかけた。


 「え、な、なんでアメリアが?」


 「ん〜まぁ色々ね」


 基本的にルルーシュに丸投げしているので、ここの事は知らない。

 ただ、私とファフニールの出会いについては話した。

 あれ? これを具体的に話したのってシャルだけなんだよね。ルルーシュにも話してないや。

 だからだろう。周りが聞き耳を立てている。


 『懐かしいな』


 「言うて二ヶ月そこらですけどね」


 そんな会話をしているとルルーシュが奥から資料を持って戻って来た。


 「これらが近いかと思われます」


 「ありがとうね」


 まずは孤児院を襲った奴らから調べてみるか。


 内容を追っていると、黒薔薇白狐の単語が出て来た。

 私が冒険者として活躍しているせいで、恨みを買ったらしい。

 冒険者としての妬み、援助している冒険者が活躍しないからの八つ当たりなどなど。

 それらの理由で孤児院が標的にされたらしい。


 ⋯⋯ここには違法犯罪組織が関わっているらしい。

 邪神教とは関係ないのだが、拉致した人達を奴隷として貴族達に売っている、そのような犯罪組織だ。

 そいつらが一枚噛んでいるらしい。


 「貴族を潰すと国の運営にも関わるけど、裏組織は問題ないよね」


 「そうですね。我々の管轄では無いので放置していましたが、アメリア様に敵対行動すると言うのなら、全勢力を持って⋯⋯」


 「あー良いやめて。情報を貰いに来ただけだから。これはこっちの喧嘩なので、手出し無用ですよ〜」


 裏組織の奴らには今後、孤児院に手を出したらどうなるか身をもって知って貰おう。

 そして他の奴らの知らしめて貰う。

 孤児院に手を出したら身を滅ぼすとね。


 「情報感謝するよ。何か必要な時には私を頼ってね」


 「感謝します」


 「良いって、今日感謝するのはこっち。ハザールさん。またね」


 「あ、ああ」


 私は一度帰り、子供達と遊んでいるルアを分離させる。


 「そっちはどう?」


 「皆寝てる時間帯で分かんないってさ。だけど、その事を聞いて激怒はしてくれた」


 「そう。それは嬉しい事だね。こっちは情報ありよ。首謀者の貴族と裏に潜んでいる組織の情報を捕まえた」


 「よし。じゃあそいつら殺して万事解決じゃな!」


 「そうしたいのは山々だけど、貴族は流石にまずいから裏の組織だね。殺しはしないけど徹底的に追い込もうかなとは思ってる。昨日の輩もその組織所属だ。殺して終わりなんて嫌だろ?」


 「⋯⋯確かに」


 「夜9時、動くぞ」


 「分かったのじゃ」


 夜9時となったので私達は移動を開始する。


 「どーこ行くのかなアメリアさん?」


 「これはこれはシャルさん。⋯⋯え、このノリ何? ちょっと野暮用でね」


 「止めはしないよ。でも、危険な事はしないでね」


 「しないよ」


 ルアは子供達の方なので抜け出すのは簡単だったようだ。

 シャルの許可は得た。

 存分にやってやろうじゃないか!


 まず、私が来たのは夜の酒場、ワインなどを提供するバーだ。

 昔は金も時間もなくて来てないが、今は普通に来ない。興味が無い。


 「妾、見た目年齢的に入れんぞ?」


 「本来の姿に戻っとけ。その方が今回は便利だ」


 「やった!」


 妖艶な姿へと形を変えて、私のルアはバーに入った。

 ファフニールのダンジョンから帰る途中で適当なモンスターを倒して小金は稼いでいる。


 「いらっしゃいませ」


 中にいる男達の視線がルアに集まり、彼女は少しだけ嬉しそうに笑っていた。

 ファンサービス如く、妖艶な笑みを浮かべて対応している。

 女性も少しだけ見ているな。


 「何になさいますか?」


 「左から一番右側のをちょうだい。二杯ね」


 「⋯⋯かしこまりました」


 ちなみにどんな物かは知らない。

 ただ、これが合言葉となっており、とある場所への案内になっているだけだ。


 「これが組織のアジトに繋がるのか?」


 「そうだけど、そうでは無い」


 「ん?」


 渡されたワインをそれっぽく飲み干す。

 ん〜美味しいけどまた来たいとは思わないな。

 そもそも、こう言うのは関わらないように生きていきたかった。

 ワインを飲み干すと、グラスの奥に刻まれた小さな傷がある。

 それが座標だ。


 「ありがとう」


 お代の金貨三枚二人分をカウンターに置いて私達はバーを後にする。

 刻まれた座標位置に移動する。


 「ここは⋯⋯雑貨店か?」


 「そうみたいだね。えっと、確か六回ノックして」


 六回扉を叩いた。


 「月明かりに照らされる金」


 合言葉を呟く。

 すると、誰も操作してないのに勝手に扉が開く。

 奥に行くと、床の一部が不自然に階段となっていた。

 その下に向かう。


 「ここは?」


 「金と欲望が渦巻く最悪な場所」


 「は?」


 「誰もが命を金を削り、一攫千金を狙う場所。表上動くのは金だが、裏で動くは人の体」


 「⋯⋯」


 「国はそれを承知の上で見逃している、実質合法の賭け金自由の賭博」


 光に照らされ、その中に入る。


 『おーと、ここでキング選手ダウン! 勝者、ナグモおおお! なんと言うダークホースだあああ!』


 アナウンスの声。

 今回やっているのは対人戦の賭け事か。

 それはありがたいね。私達にとって最高の場所じゃないか。


 「ここは闇カジノだよ」


 「⋯⋯」


 「場所はコロコロ変わり、月事に場所を教えてくれる酒場が変わる。この闇カジノは国に黙認されており、賭け事の内容はいちいち変わる」


 「で、今回がこれと」


 「そう。今回に限っては私達にとって考える必要のない、圧倒的金稼ぎの場所さ」


 「それは、最高じゃな」


 「だろ? さぁ、組織の財布を軽くしてやろうか!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る