第35話 ナキミル.アメリアと戦う

 俺はナキミル。

 今は殺そうとしたアメリアと戦いを始めるところだった。


 「あ、あの」


 「ルナアは見ていてください」


 ルナアの実力では邪魔でしかない。

 アイツは何らかの手を使って黒龍のダンジョンから生きて帰って来ている。

 力は俺達が知っている時よりも上がっているだろう。

 だが、戦い方が変わっている訳では無いだろう。


 「マゾ!」


 「筋力強化、敏捷強化!」


 強化魔術は重ねがけ出来る。

 何回も同じ魔術を俺にかけて貰い、アメリアに向かって接近する。

 アメリアを殺す俺の刃に迷いは無かった。


 「クソがっ!」


 防がれたらすぐに後ろに下がる。


 「紫電!」


 涙を流しながら魔術を繰り出すアメリア。

 俺はマントを前に壁として出す。


 「⋯⋯ッ!」


 「このマントはマナを分散させる効果がある。魔術への対策は必要だろ」


 昔と変わらずに電気の魔術を使用するか。

 純粋なスピードはまだ相手の方が速い。

 俺がアメリアを知っているように、アメリアも俺達の事を知っている。

 ⋯⋯果たして、それはどうだろうか。


 今までもアメリアの活躍で俺達は使ってこなかった技術が存在する。

 アメリアを殺すにはそこを上手く使う必要がある。


 「くらえ」


 「電龍!」


 雷の龍が襲って来るが、剣にマナを流してソレを斬る。

 魔術はマナの塊だから、マナを込めた武器なら破壊する事が可能だ。


 「コモノッ!」


 「何を泣いてるんだ? 甘いんじゃないのか!」


 コモノの斬撃がアメリアの頬を浅く割いた。反撃の魔術も遅い。

 今のアメリアは術式の構築がとても速い、だが焦りか混乱か、何らかの理由で今は遅くなっていた。

 分かる。俺にはアメリアが何を考えているのか。


 昔の仲間との思い出を思い返しているのだろう。

 言葉ではああ言っていたが、やはり思う事はあるのだろう。

 その証拠に涙を流している。途切れる事がなく。

 良い思い出しか相手の中にはないのだろう。


 認識の違いと言うのは、とても大きいな。


 「紫電!」


 「くだらん」


 コモノが魔術を近距離で躱して攻撃を繰り返す。

 俺は相手の背後に回って大剣を振るう。


 「ぐっ」


 腕で守ろうとしていたが、そこそこ切れた。

 血を流しながら距離を取るアメリア。


 「⋯⋯クソ、なんで、なんで」


 「アメリア、手伝おうか?」


 「良い! ルアの助けは要らない。これは私の問題だ」


 「⋯⋯そう」


 マナの強い女性と会話をした。


 「ナキミル、俺が先に行く」


 「わかった」


 俺は呼吸を整えた。


 「分身」


 コモノが分身を使ってアメリアに迫る。さらに本体が煙玉を床に投げて濃い煙で覆い隠す。


 「雷帝!」


 この魔術は使用者を中心に広がる広範囲攻撃。

 コモノがバックステップで俺の元に来るので、俺はマントを盾に突っ込む。


 「アメリア、お前は見えなくなったら全面を攻撃するよな」


 「ナキミルッ!」


 「雷帝は確かに強力な魔術だが、対策を取っていたら、大した攻撃では無い」


 全体的な攻撃だからこそ、火力が少しだけ落ちている。


 「熊爪!」


 マナを使った同時三斬撃がアメリアを襲う。


 「あぐっ」


 アメリアは多少の体術を使えるから、あまり手を伸ばす事が出来ない。

 なので下がる。


 「はぁ。はぁ。まさか人間にここまで攻撃されるとは、ね」


 「お前の癖は知ってるからな。コモノ! マナブレイド!」


 俺は斬撃を飛ばし、それを追いかけるコモノ。


 「邪魔だ!」


 マナを込めた拳で斬撃を弾いたがコモノが襲う。


 「なんで!」


 「気配を誤魔化す技術は俺達の分野では基本だ」


 やはり術式の構築スピードが段違いだ。

 不意に迫って来たコモノに向かって反撃の魔術を放った。

 だが、それすらもコモノは躱す。


 強化魔術によりスピードが六倍以上に跳ね上がっているから出来る芸当。


 「ペッ」


 「あっ! ちぃ」


 コモノが口の中に用意してあった酸を放った。

 歯の隙間にカプセルを入れておく事で、いつでも不意打ちが可能と言う。

 素晴らしい技術でありながら、度胸がないと酸を口の中で放置は出来ない。

 だからこそ決まる不意打ち。

 この戦い方は基本的に対人戦であり、アメリアが居る時は使う機会が無かった。


 だからアメリアは知らない。

 今ので右目は完全に潰れた。

 つまり、右側から攻めれば簡単に死角に入り込め、コモノはそれを瞬時に可能とする。


 「そんなの!」


 「俺の方が速い!」


 術式を構築した手を掴み持ち上げた。

 そのまま蹴り飛ばした。


 壁に激突して落ちる。

 口と腹から血を流す。酸で潰された右目からも。

 マナを使って耐久力を上げなかった? 魔術を使おうとしたせいか?


「靴にも隠し刃か。深く刺さったよ。⋯⋯本気過ぎるだろ」


 「すまないナキミル。心臓を刺そうとしたが直前で避けられた」


 「ああ、だろうな」


 昔のアメリアなら既に何度も死んでいる。

 だと言うのに生き残っている。

 強い。俺達の想像よりも遥かに強い。

 しかし、かなりのダメージを与えたのは確かだ。


 アメリアは回復魔術を使えず、金は孤児院に流すからポーションも持ってない。

 そもそも、ソロで活動する実力があるならポーションなんて必要ないと思う奴だ。


 「黒薔薇白狐をパーティに加えろと言われたが、やはり無理だな。過去のミスはここで払拭する。アメリアはここで死に、黒薔薇白狐はこの国から消える」


 ゆっくりと立ち上がるアメリア。


 「いつから私が黒薔薇白狐だと?」


 特徴的な仮面はつけてないが、ローブを着ている。

 ローブにも黒薔薇の刺繍がある、それも特徴の一つだ。

 それに、俺がアメリアを見つけた日と黒薔薇白狐が名を広めた時期が重なる。


 「どうでも良いだろ」


 「ああ、そうかもね。真面目にやらないと死んじゃうね」


 「もう虫の息だろ」


 俺とコモノはアメリアに警戒しながら近づく。

 アメリアは刺された腹を抑えて必死に血を止めていた。

 こいつはまだ人間のようだ。


 「⋯⋯私は、皆との冒険、好きだったよ」


 「ッ!」


 「おいナキミル!」


 「分かってる。油断しない」


 俺は自分の感情よりも未来を優先する。

 未来の為なら俺は、自分の感情だろうが切り捨てる。


 「ふぅ。龍眼、開眼」


 「「ッ!」」


 あの黒龍のような気配がアメリアからする。

 瞳が変わった。右目も開いている。


 俺達は同時に突き進んだ。

 このままでは危険だと本能が告げたから。


 「遅いよ」


 「なに!」


 「速い」


 俺達はアメリアの殴りで吹き飛んだ。

 速い⋯⋯それは強化魔術を重複してかけられている俺達よりも何倍も。

 目では追えない。見えたとしても体が追いつかない。

 今の一撃で防具が破壊された。コモノは俺の装備よりも軽装だ。

 それでも骨が折れずに機能していると言う事は、程よくそれぞれに手加減を加えていると言う事だろう。


 「皆、俺はアレを使う」


 「なら、俺も」


 俺とコモノは懐からポーションが入った瓶を取り出した。

 回復魔術が使える範囲に無い場合で回復したい時にポーションは使う。

 体を回復して、タブレット型の薬を取り出し、口に含んだ。

 そして噛み砕き飲み込む。


 「う、うおおおおおお!」


 膨れ上がる筋肉とマナ。

 これはドーピング剤だ。

 しかも違法の物となっている。

 自分の命を削るが、それで得られる力はまさに絶大だ。


 この場でアメリアを葬るにはこの手しか存在しない。

 この一撃に全てを乗せる。


 「行くぞ、アメリアあああああ!」


 俺とコモノは同時に駆け出した。

 そのスピードは先程の二十倍。

 既に人間と言う領域を超えた俺達の攻撃はアメリアに⋯⋯届かなかった。


 「なんだ、それは」


 「化け物、かよ」


 「⋯⋯⋯⋯⋯⋯化け物? はっ! それは良いね。そうだよ私は化け物だよ! それで満足か?」


 アメリアの背中からはドラゴンのような翼が生え、手足が同様な鱗に変貌する。


 「これ以上攻撃されると、ローブが切れる。これは命と同じくらい、大切な物なんでね」


 俺の剣が片手で受け止められ、コモノは頭を握られている。

 一ミリも動かない。硬い。強い。なんだこの力は。

 俺達は、人間の領域を超えているんだぞ!

 なのに、なんで。


 「あははははははははは。はははははははは! バカみたいだよね。こんなに本気で私を殺しに来てるのに、まだ仲間だった頃の記憶が鮮明に残ってる。おかしいな。なんでまだ、こんなに辛いんだろうね」


 俺達は理解出来ないうちにマゾの所まで吹き飛ばされていた。

 身体中に流れる電気により、意識が薄れていく。


 「回復してやんな。死んじゃうから」


 「そうね。死なれたら困るね。『仲間』だから」


 「ま、ぞ」


 「寝てな。どうやら、アメリアは既に人間じゃないみたいだよ。モンスターを倒すのは、冒険者の十八番よ」


 俺はその言葉を最後に、意識を暗闇に落とした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る