第3話 さぁ、帰ろう(寄り道)

 熱い⋯⋯なんて言葉じゃ収まらない程の灼熱感を感じる!

 しかも吐き気などの副作用まである。

 苦しい。今すぐにでも吐き出して楽になって、泣き出したい。

 でも、これを否定していては前には進めない。踏ん張れ、もっと耐えろ。

 耐える⋯⋯違うか。


 「受け入れろ、私」


 この禍々しい膨大なマナを自分の物だとして受け入れるんだ。

 これは与えられた力、それでも私の力。

 そしてこの力はさらなる高みへと至る為の道具だ。受け入れろ、私、そして体!


 「ああああああああああ!」


 ⋯⋯受け、入れた。

 マナに抗っていた体にマナが順応して行くのを感じる。


 『良くやった。アメリア、今のお前には我の三分の一以上のマナが宿っている』


 私が元々持っていたマナ量と与えられたマナ量。

 だけどその総合はファフニールの三分の二にも及ばない。

 まだまだ先は長い。と言う事は、まだまだ成長出来るし研究出来ると言う事。


 にしてもこの体なんだ?

 腕とか足がドラゴンのようになってる。人間ってよりも龍人?

 なんか翼も生えてるし⋯⋯うわ、動かせた。なにこれ気持ち悪いけど安心感と言うか、元々あったようにしっくりくる。

 気持ち悪。


 『我のマナの影響だろう。目も与えておるから、お主が黒龍眼ファフニールアイを使ったら黒と金、我と同じような瞳に変わる。性能は分かるだろう?』


 「良かったよ? 黒と赤だったら悪魔みたいだしね。あと、ダサいので龍眼りゅうがんと呼ぶね?」


 『⋯⋯そうか。まぁ、名前など決まっている訳ではないし、好きにするが良い』


 龍眼、これも凄い。

 暗いダンジョン内部なのに朝よりも明るく見える。細かい壁の荒さも分かるぞ!

 他にもマナの総量がより鮮明に見えるようになった。ファフニール、やっぱアンタバケモン過ぎるわ。

 あ、でもなんか頭がクラクラして来た。


 「凄い。私の知らない魔術やまだ試した事のない魔術の術式がこんなにも鮮明に分かるなんて⋯⋯凄いけど気持ち悪い!」


 『ハハハハ! 最初はそんなモノよ。さぁ、行け。我の夢を叶えてくれ、見せてくれ!』


 「ま、簡単じゃないけど、やるだけやってやるさ。魔術士として、興味深いしね」


 そして私は外へと出た。途中襲って来るモンスターが居たけど、ぶっちゃけ弱過ぎた。

 おかしいだろ。徘徊するモンスターとファフニールの強さのランクが何十段階も違い過ぎる。

 ここを知らない人は居ないと思うけど、もしも迷い込んで徘徊するモンスターが弱いからボスも問題ないって思って挑んだら⋯⋯絶望するだろうな。


 「外だあああああ!」


 ああ、さっきチラッと浴びたけど、やっぱり太陽って素晴らしい!

 緑ってこんなにも気持ちを落ち着かせてくれるんだね。

 と、ドラゴンのような腕どか翼は消しておかないと。

 マナを操作すれば⋯⋯おっけ消滅した。龍眼はファフニールとの会話中に元の目に戻している。

 あれ使ってると手に入る情報量が多くて、脳が処理オーバーして頭が痛くなる。


 「そんじゃま、帰りますか」


 マナを全身に巡られせて身体強化、そして重力魔術でさらに加速。

 後は走るだけ。風に成った気分だ。


 「誰か、助けて」


 そんな声が微かに聞こえたので止まる。

 近くにそれらしい気配はしない。

 今の私は体が作り替えられたように変貌している。よって聴覚も強化されている訳だ。


 「あっちかな?」


 憶測混じりだけど、取り敢えず行ってみよう。

 まだ自分の事を理解出来ていないので、どんな魔術が使えて、どんな能力があるのか全てを把握していない。

 ファフニールに与えられた知識も全てが分かっている訳じゃないからね。

 徐々に解読して自分の知識にして行こう。


 「お、見つけた」


 盗賊っぽい人が数十人⋯⋯フードを羽織っているので顔が見えんな。

 そして檻があり、中からは弱った人の気配が一つ。


 「盗賊なら懸賞金がかけられているかもだし、捕まえますか」


 相手のマナ量的にそこまでの強敵じゃないだろう。

 もちろん、マナだけでは測れない技術があるかもだけど。


 「む? なんだ貴様!」


 「そこを止まれ!」


 剣を抜いて私に向けて来る。


 「君達は盗賊? 一応聞くけどさ」


 「だとしたらなんだ?」


 「全員まとめて捕まえます」


 その言葉と同時に襲いかかって来る。

 今の力を試したいのはやまやまだけど、弱っいる気配が心配だ。

 一瞬で終わらせる。

 ファフニールのマナのせいか、火炎系の魔術が扱いやすいが、元々私は電気系の魔術が得意だ。


 「紫電」


 術式が自分でも驚く程に早く組み立てられ、紫の稲妻が迸る。

 それは盗賊を包み込んで麻痺させて動きを拘束させた。

 そのまま順番に地面に倒れ、一番強そうな人がギリギリまで耐えていた。


 「クソが! いきなり来て何者だ! その白髪⋯⋯ヴァンパイアか!」


 「は? 魔族と一緒にしないでよ。私は人間よ」


 ちょっと怪しいけど。

 と言うか今の私って白髪なの? モンスターのマナを吸収したからかな?

 なんかおばさんっぽくて嫌だな。これでも二十三か四なのに。

 瞳の色は無事かな?


 「そんなのはどうでも良い!」


 「⋯⋯は? 女性に取って髪の毛は命って聞かない?」


 ま、ここ三年は全く手入れなんてしてないから何を言ってんだった話だけどね。

 それを相手は知らないので怒る。

 理不尽? それはファフニールの事を言うのだ。


 「クソ、ぶっ殺してやる」


 「えーと、紫電の次に強めの魔術は⋯⋯あれか。蒼電」


 蒼い雷が立っていた奴を包み込んで攻撃する。


 「アバアバアバアバアバ」


 「まじで死ぬなよ?」


 術式構築の早さが早すぎて自分じゃ制御が効かないな。

 力に慣れる所から始めるべきか。一気に強くなりすぎて体が付いていけてない。

 と、最後の一人も気絶した事だし檻の中の人を助けようか。


 「ほら、出ておいで」


 檻を火炎魔術で溶かした。うん、やっぱりこれが一番しっくりくるような気がする。

 私の得意分野が変わってしまった。


 「う、うぅ」


 中からゆっくりと出て来たのは黒髪をした人間のようだった。

 黒髪の人間はとある村出身と言われている。

 それだけ珍しく、数が少ない。その村でしか現れないと言われている。

 詳しくは知らないのだが、私も元は黒髪だったのでその話は噂半分だ。物心ついた時から孤児院に致し、シャルとずっと一緒だった。

 自分の出生にも興味がなくて調べてないしね。

 悪魔とか言われて嫌われて、肩身の狭い想いをしていた。


 「⋯⋯あ、りが」


 やつれて声が上手く出せないみたいだ。

 水魔術で水を顕現させて飲ませてあげる。

 非常食として持って来たなんかのモンスターの肉を火炎魔術で良い感じに調節して焼いて渡す。

 取り敢えず丸焦げに成ってしまったので、焦げた部分をちぎってから渡した。

 その時にはあまり残っていなかったのは言うまでもない。


 「やっぱり力の扱いを慣らさないとな」


 「あ、ありがとうございますありがとうございます」


 嬉しそうに食べてくれる。良いよね、子供は。

 そんな歓喜の涙を流さなくても良いのに。余程辛い目にあったんだね。


 「君はジャパン村出身?」


 「あ、いえ。トウキョー村です」


 知りない村だ。

 ジャパン村も名前しか知らないけど。


 「そっか。大変だったね。送り返そうか?」


 すると彼女は顔を横に振った。


 「親、居ない。帰る場所、ない」


 「そっか」


 じゃあ孤児院に連れていこうかな?

 そう思っていると、彼女は土下座を始めた。


 「僕、ルルーシュ、家名はこの場で捨てました」


 「君、男の子だったんだね」


 「いえ、女で合ってます」


 僕っ子か。


 「お願いします。僕に、力をください」


 ⋯⋯そう来たか。


 「顔を上げて」


 ルルーシュはゆっくりと顔を上げる。

 その目には強い覚悟が雇っていた。


 「君はなんの為に力を望む?」


 膨大なマナを放出して威圧する。

 圧倒的な力の差を見せつけるには、ある程度のマナを放出すれば可能だ。

 身をもってそれは知っている。


 だけど、ルルーシュは怯える素振りすら見せなかった。

 頑固とした意志を持って言葉を繰り出す。


 「復讐、です。こいつら、タルタロス教団に僕は家族を友を奪われた! 奴らは人体実験を繰り返して邪神復活を目論んでいる! 僕はそれを止めたい! 僕の家族のような人達を再び出さないように、僕のような悲しい想いをしないように!」


 「その先に何を見る?」


 「怯える事のない、平和に溢れて笑顔が満ちる世界! その為なら僕は、悪魔にでも魂を売ります!」


 「悪魔じゃなくて龍にしな。良いよ。私の目的は神を超える力を得る事。⋯⋯君に力と技術を授けよう」


 ま、その力は私の力じゃない気もするけど。

 モンスターのマナを私の中で人間でも扱えるようにする。

 そのマナをルルーシュの中に流し込み、馴染ませる。

 自分の体では難しいけど、他人にするのは案外簡単だな。

 後は彼女次第で与えたマナを使いこなすか呑み込まれるかが決まる。

 この辺の扱いもファフニールから貰った技術が大きく作用している。


 「凄い。力が溢れて来る」


 そんな事をしていると、一番強そうな人が起き上がった。

 あれ程の攻撃を受けて立ち上がるのか。私の見込みが甘かったか。

 と言うか放置しないでちゃんと縛ったりとかすれば良かった。紐ないけど。


 「世界に終焉を!」


 「ん?」


 「こ、これは。危険です! アイツ、自分と配下の命を犠牲に悪魔を召喚します!」


 盗賊達の体が消滅していく。

 そして術式が虚空に現れて、そこからゆっくりと悪魔が出て来る。


 「おお、ここが現世か」


 「⋯⋯なんだ。世界に終焉を〜とか言うから身構えたのに。下位悪魔じゃんか」


 「なんだと人間。我は200年生きた中位悪魔、ハイデーモンだぞ!」


 あーダメだこいつ。

 ファフニールから貰った知識の中に悪魔に関する情報がある。

 中位悪魔は生まれたての悪魔が強くなろうと努力すると、数年で到達出来るラインらしい。

 百年間、魔界でぼーっと過ごしているだけでも溜まったマナによって下位から中位に成れるとの事。


 んで、こいつは200年物らしいので中位にしては下位に位置する。

 あくまで感じるマナからの憶測に過ぎない。

 隠している感じでもないし、あながち間違いでは無いだろう。

 ファフニールレベルにマナ総量を隠蔽出来る技術があるのなら、それはコイツらの命では呼び出せない。


 「正直、この力を得る前の私でも倒せるぞ」


 一人じゃ無理だけど。


 「人間風情が⋯⋯調子に乗るなああああ!」


 「我とかなんとか、偉そうな口調を使って良いのはな、偉い人だけなんだよ、強い奴だけなんだよ! 相手の力量も分からぬ愚か者がうるさいんだよ! 気炎万丈!」


 火炎魔術の中でも二級に位置する高位魔術の炎で悪魔を包み込んだ。前の私では使えなかった。

 その肉体が朽ち果てるまで焼き焦がし、断末魔すら出せない状態で消えた。

 悪魔は現世、この場で死んだら魔界へと帰還する。魂になって、悪魔に戻るまで魔界を漂うのだ。

 他の悪魔に取り込まれたら終わりだけどね。


 「す、凄い」


 「私はアメリア・アメリカ、ルルーシュ、よろしくね」


 「は、はい!」


 「元気でよろしい! さて、本当に次こそ帰ろう」





【あとがき】

お読み下さりありがとうございました!

補足です

マナを他者に与える技術は凄く難しいです、

ファフニールは長年ダンジョンで暇な時を過ごしていたので、マナの鍛錬を続けていました。

結果として、外にファフニール程のマナ制御を持つドラゴンはいません。

その技術をアメリアは手に入れてますが、完全には使いこなせていない状態です。

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