第4話 魔術士、ただいま帰りました!
「四級魔術士は火、水、風、地の四属性を普通に扱えるレベルの魔術士。
三級魔術士はそこに光と闇も合わさるレベル。中位魔術と呼ばれるレベルは扱えないと資格取得は難しいね。
二級魔術士はサブ属性とも呼ばれるけど、属性を合わせた属性⋯⋯例えば氷やお湯などを扱える魔術士だね。複合属性とも呼ばれる。
一級魔術士は重力や時間と言った概念に作用する魔術を扱える魔術士だね」
「なるほど。勉強になります」
ルルーシュに質問されたので魔術士について少しだけ語った。
私が与えたのはマナとその扱い方だけであり、常識などは与えていない。
あまり学んでこれなかったのか、私に色々と質問してくれている。
「今のアメリア様は一級魔術士ですね!」
「アメリアで良いよ。⋯⋯まぁ確かにそうだね。ファフニールの知識のお陰で、そのレベルの魔術も扱えるようになったよ」
術式の構築が複雑過ぎて昔の私じゃ出来なかったけど、今なら出来る。
「剣士などの場合はどんな感じなんですか?」
「詳しくは知らないけど、マナを全身に巡られせて剣術が一定のレベルだと四級らしいよ」
「なるほど。ありがとうございます」
「こっちからも質問。なんで家名捨てたの?」
ルルーシュは考える素振りすら見せず、言葉を出す。
「決意表明です。僕の家族はタルタロス集団によって殺された。そして友も、他の被害者だって多い。だから僕はルルーシュとして、一人の人間として戦う。その為に家名は捨てるんです。家族の為だけではなく、世界の為にと言う想いを込めて」
「そうか。立派だね」
タルタロス集団が何なのかは正直分からないし、ファフニールの知識にも無い。
だけど、良くない奴らだってのは何となく分かった。
だから応援しよう。彼女を。
「マナは不思議ですね。纏うように操れば身体強化が行われ、武器にも付与して火力を上げる。魔術などの超常現象も起こせる」
「それが神の定めたこの世界の法則なんだよ。まずはそれを解き明かしていかないと⋯⋯神の力の源が分からない」
「神はマナを使わないんですか?」
「神がこの世界を創り出してマナと言うモノを与えた。我々に火を与えたのと同じだよ。与えたモノは神々にとっては些細なモノ。だから違うと思ってる。ま、気長に研究していくさ。そろそろ城壁が見えるぞ」
私達の暮らしていた国がようやく視界に入る。
石造りの外壁に囲まれているが、ファフニールが来たら一瞬で滅びると思う。
ま、ダンジョンの法則に縛られているのでその心配も皆無なのだけど。
正門に近づき、門番に止められる。
「ライセンスを見せて貰おう」
「はいはい」
私はポッケを漁る。
確かこの辺に。
いや、こっちかな?
あれ? こっちのポッケ?
鞄なんて持ってないし⋯⋯あれれ?
「⋯⋯どうした?」
「あれ? おかしいな」
普段持ち歩いているし、この辺にあると思うんだけど。
やばい⋯⋯どこかで落とした。
「その、落としたようです」
「そうか。入りたければ銀貨一枚を貰うぞ」
ダンジョン行くってのに金なんか持っているかあああ!
どうしよう。
今程この制度が憎く思える。
本来なら身分証のライセンスを提示すれば終わりなのだが、それが今回はない。
その場合は銀貨を払って通して貰う事になる。
理由としては身分証を持たせる意識アップの為だ。そこで賠償がないと誰もが意識を高めない。
さて、どうしたものか。
ライセンスもなければ金もない。お、これは詰んだな。
「これで良いですか?」
ルルーシュが銀貨を二枚提出して、門番が太陽光に向けて本物かを確認する。
「よし、通って良いぞ。早めに再発行しておくんだな」
「は、はい」
少し離れて小声でルルーシュに言葉を出す。
「お金持ってたの?」
「悪魔に命を売ったタルタロス集団の人達って、肉体とかは消えても服とか残っていたじゃないですか? 流石に手ぶらはないと思っていたので漁っておいたんです」
「へ、へ〜」
凄いちゃっかりしている。私も回収すれば良かった。
何らかの力があって、それなりの値段で売れたかもしれない。
私よりも冒険者に向いているかもしれない。⋯⋯まぁ私は余裕があれば冒険者なんかしないで魔術の研究をしたかったけど。
「それではここでお別れです」
「⋯⋯え? どうするの? 帰る場所とか無いんでしょ? 一緒に行こうよ」
「いえ。そこまで甘える訳にはいきません。僕を助けてくれて力までくれました。僕は貴女に恩返しがしたいです。そして同じような被害者を生み出さない為に、タルタロス集団の対策の為に更に力を付けます」
「そっか。なにかあったら遠慮なく頼ってね。頼ってくれると嬉しいからさ」
「感謝します」
真っ直ぐな視線を向けられたので、私はこれ以上何も言う事は無い。
頑張ってくれ、そう切に願うよ。
私は孤児院に戻った。
三年経過したからケンケン達は学校に通っている頃か。
ドアの前で止まる。
「いざ目の前にしてみると緊張するな」
元々住んでいたところだけど、やっぱり三年間会ってないからね。
しかも前の髪と違って今は白髪の老婆のような姿だ。
老婆と言っても髪色だけでシワとかはないんだけどね。寧ろ昔よりも若々しく見えるんじゃないか?
「覚悟を決めろ! ファフニールと比べたらへっちゃらだ」
トントン、ドアをノックする。
「はーい。どちら様⋯⋯で」
シャルが顔を出して固まる。
「や、やあ。久しぶりだね、シャル」
「あ、アメリア、アメリアなのね」
「そうだよ! 二級魔術士アメリアさんだぞ」
「アメリア!」
シャルが飛び付いて来た。
私はそれを受け止めて、抱きしめる力が強くなったので私も軽く返す。
帰って来た、そう伝えるために。
「良かった。本当に良かった! 死んだって言われて、信じてなかったけど、何年も音沙汰が無いから」
「あはは。ごめんね。色々とあってさ」
「うん! うん! そうだよねそうだよね! 帰って来てくれて、生きててくれて、ありがとう」
「待たせて悪かった。ただいま」
「うん! おかえり!」
そして中に通される。
数年見ないうちにちょっとだけボロくなったな。掃除が行き届いていない。
「⋯⋯」
少しだけ奥の方を見ると、遮るようにシャルが前に出た。
上目遣いで。
「⋯⋯少し太ったんじゃかいか?」
「胸が大きくなっただけで太ったとか言わないでくれない? これでも体重減ってるんだからね!」
プンプン怒ってるシャル⋯⋯墓穴を掘ったな。
顔ぶれに変化はなかったので、三年間で孤児は増えていないようだ。
ありがたい話だな。
ケンケン達のような今年で十三歳組は学校に行っているのだろう。
義務教育ってありがたいね。金は国が負担してくれる。いっぱい学んで欲しいところだ。
「汚いから早く体洗お!」
「シャルも大概酷いぞ!」
洗い場へと移動して、シャルがお湯を魔術で生み出して溜める。
シャルと私は同年代であり、ここで育った。
家族のような存在である。彼女は試験を受けて居ないから周りに周知されてないが二級魔術士にギリギリ成れる実力はある。
「それじゃ服脱いでね〜」
「シャルは脱がないの?」
「ほほう〜一緒に入りたいとはいつから甘えん坊さんになったのかな〜?」
「確かにそうだね。二十歳超えて何言ってんのやら。ちょっと寂しかっただけだからね」
「別に嫌だとは言ってないし」
ちょっとした冗談が現実になると言葉を失ってしまうね。
シャルも服を脱ぎよった。
洗い場の中を熱風で充満させて暖かくしてから、タオルにお湯を染み込ませてシャンプーを混ぜる。
一度頭からお湯を流す。
「と言うか、なんで平然とシャルは私の髪の毛を洗おうとしてるの?」
「え、今更? 良いじゃん。アメリアが生きててくれて嬉しいんだよ」
「ま、楽だから良いけどさ」
泡立てた手で髪の毛に触れて来る。
「なかなか泡立たない⋯⋯だいぶ汚れてるね」
「そりゃ三年間手入れしてないからね」
「おいおい。マナが無意識に守ってくれているようだから抜けたりとかはしてないね。寧ろ質だけは上がっているような⋯⋯もっと大切にしなさい」
「はーい」
何回もシャンプーを使って髪の毛を洗ってくれる。
「で、何があったの?」
私はシャルに聞く。
私が死んだと事になっている事は何となく予想はしていた。
でもその具体的な事が知りたい。
「そうだね。まずアメリアのパーティメンバーは全員帰って来たよ。そしてこう言ったんだ。『アメリアに裏切られた』って」
なるほど、そう来たか。
どうして私を殺す様なマネをしたのかその具体的な理由は知らない。
別に復讐とかどうでも良いから気にする事でもないけどさ。
でも、事実を変えられるのは腹立つなぁ。
「内容は?」
「ダンジョンの奥地で金品を盗んで逃走したって」
「うんなアホな。金なんて持って行かんだろ。無駄に邪魔になるだけ。それだったらポーションとか持って行くし」
「うん。最初はそう思った。だから問い詰めたんだ。そしたらリーダーのナキミルだっけ? ソイツが『本当の事は言いたくない』って言いだしたんだよ。でもさ、整合性が全くないから他の冒険者も問い詰めて、観念したように語り出したんだよ」
うわぁーそれ絶対嘘だぞ。
最初に適当な事言って本音を聞いてくるように流れを操作した奴だろ。
その内容が深刻な程信じられやすい。嫌な思い出を思い出したくないから伝えないって考えに至るからね。
後はどのように場の説明をするかだ。
喋り方や手振りの動きで言っている言葉が真実なのかをより相手に印象付けるかが変わる。
「内容はアメリアがボス戦になって怖気付いて術式構築が遅れ、重い一撃の先制攻撃が失敗。その後はどんどん追い詰められ、仲間を犠牲にアメリア一人逃亡」
なんだそれ。
「だけど背を向けた最初の敵であるアメリアに攻撃が行き、ボスに敗れた。その攻撃の隙を狙って逃げたって、筋書き」
「そっか」
髪の毛の泡をお湯で落として、次は体を洗う。
「ちょ、体は自分で洗うって」
「良いよ任せて!」
「自分でやるから先湯船に浸かってて!」
体を洗い、先に入ったシャルに続いて湯船に入る。
久しぶりに感じる温もりに肩の力と今までの疲れが一気に抜ける。
「それで、今後はどうするの?」
「そうだね〜その事も含めて、私の事を話すね」
「うん。分かった」
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