第5話 真の決意と覚悟
「結論から言うと、私は冒険者業を続ける予定だよ」
「ダメだよ! なんでまた危険な所に行こうとしてるの! 嫌だよ、もう辞めてよ!」
私を止めるこのように抱き締めて来る。
そのせいで私の心も一瞬揺らいでしまう。だけど、それはダメだ。
最初の理由的にはファフニールとの契約があるからだった。
でも、帰って来て絶対に辞められない理由が出来てしまった。
ま、元々私が冒険者を続けていた理由がここに来て復活したってだけだな。
「子供達、内職してたでしょ」
「⋯⋯ッ!」
先程孤児院の奥を見た時に視界を遮って来た。それは内職している証拠を見せないため。
他にも一緒に湯船に入ろうとしているのに、成る可く私の前には来ないようにしていた。
髪や背中を洗おうとしていたのがその証拠になり得るかもしれない。
言及から逃れるように離れそうになったので抱き締めてそれを阻止しする。
「約束したでしょ。私が外で稼ぐから子供達の面倒を頼むって⋯⋯私が居なくなって、子供達の面倒も見ないといけないからお金がないんでしょ」
「でも、だからって冒険者の必要は⋯⋯」
「安定しないかもしれないけど、これしか選択肢はないんだよ。子供達を満腹にするためには安定した収入だけじゃだめなんだよ。足りないんだよ。普通に稼いでも、皆を満腹には出来ない」
「分かってる。分かってるよ。でも、怖いんだよ。また居なくなったらって、また帰って来ないってなったら」
私はより強く抱き締める。それは安心させるかのような安心感を与える。
「約束は守るよ。絶対に私は帰って来る。シャルを一人にしない」
シャルは面倒見が良くて勉学を教えるのも上手だから孤児達の面倒を見て貰っている。私はシャルよりも魔術戦闘の才能があるから冒険者としてお金を稼ぐ。
そう言う約束でこの孤児院を引き継いで二人で運営して来たのだ。
ここが好きで、子供達が好きだから。
それに私はもう一つ⋯⋯。
私が三年間居なくなった事により資金源が枯渇した。
国からは金が出ない。
だから子供達含めて内職をして少しでもお金を稼ごうとしている。
最年長者達は義務教育があるから内職している暇はない。
「孤児ってだけで周りからは白い目を向けられて、なかなか良い職には就けない。だからなるべく勉強して貰って、良い場所で働いて独り立ちして貰う。そう言う決め事をしていたでしょ」
「そうだけど、そうだけど」
「シャル。私だって死にたい訳じゃないんだ。⋯⋯お願い。私が冒険者を続ける事を許して、子供達の為に、シャルの為に」
そして、自分の為に。
数分間抱き合ったまま時間を過ごし、シャルが力を抜いて隣に戻る。
大きなため息をそれはもう限界まで吐き出して、空気を吸い込む。
そして、控えめにニッコリと笑う。その笑顔も少しだけ窶れて見えた。
心臓がギュッと、潰されたような感情に苛まれる。苦労をかけてしまった。
「最近ずっとお腹空いてるんだ。お願いね。アメリア」
「ありがとう。吐いてしまう程に満腹にしてやるから覚悟しておけよ!」
そして近況報告を行った。
私をファフニールの所で捨てた元パーティは新しい魔術士を迎えたらしいが、私が居た時程の名前を聞かなく成ったらしい。
なんとも複雑な心境になる。
私は悪者として一年間は尾ひれを付けて噂は広がったが、今はそんな噂は無いらしい。自然消滅ってやつ。
その新しいパーティメンバーはどこかの貴族令嬢であり、19歳と言う若さで二級魔術士資格を得た実力者らしい。
「私とシャル並の実力者が貴族の子供に出来るとはね〜」
私達は孤児としてここで育った。とにかくガムシャラに生きるのに必死だった。
常にギリギリの生活をしていて、改善の為に一緒に努力をした。
そこに才能が加わってここまでの実力と成っているのだ。
英才教育を受けてお金の苦労も知らないで育ったような貴族と同等⋯⋯少しだけ悔しいな。
「ま、今の私には勝てないだろうけどね」
「慢心は良くないぞ〜」
「ふふん。それだけの実力があるのさ!」
私はこの場の時間を停止させる。シャルが全く動かない。
そのまま背後に移動して胸を鷲掴みにしてやる。⋯⋯流石は三年されど三年、エルフ族ってここまで大きくなるのか。
腰とか細いからとても心配になる。
「解除」
時間は動き出す。
当然いきなり背後に移動して胸を掴まれているのだから、シャルは一瞬思考を停止させる。
その刹那、顔を真っ赤にして叫んだ。
「キャアアアアアアア!」
「ふげっ!」
マナを手に集中させて顔を引っ張叩かれた。
防御の為にマナを練っていた訳でもないのでかなりの威力を顔面に受けた。
後悔も反省もしてないけど、ちょっと痛い。
「い、今の何?」
「にしし。一級魔術士レベルの時間停止魔術だよ」
言うて十秒程度しか止められないし、そこまで広い範囲は無理だけどね。
このようなイタズラにしか使えない。
私はファフニールとの会話を話した。
「その脱色したような髪色もそれが原因?」
「うん。そうだと思うよ。モンスターのマナを体に馴染ませた時の反動、ストレスかな? それが原因かな」
「にしても神を越えるか。なんか羨ましいな。一応私も魔術士だしね」
「だね〜。だけど、ここ役目は絶対にシャルにはあげませーん」
「危険だから?」
「そう」
そして私達は洗い場から出て体を拭いた。
「やっぱり少し痩せてるね。脂肪が一箇所に集まってるのも原因だと思うけど⋯⋯栄養不足が一番の原因だね」
「言い方に悪意を感じるぞー」
孤児院の方に顔を出す。
子供達が内職をしている。その光景を見るとやはり悲しさが心の奥底から湧いて来る。
私が三年もの時間ここを放置してしまったから⋯⋯満足に食事も遊びも勉強も出来ず、生きる為に働く。
子供達は甘える事が仕事であり、稼ぐ事が仕事じゃない。
「これは早急に冒険者業を回復させないとな。まずはライセンスの再発行か」
「え、落としたの?」
「うん。お陰で検問に引っかかりそうになった」
「ん〜」
シャルが考え込む仕草をする。
どうしたのだろうか。
「アメリアって死んだ事に成ってるし、そのままは止めた方が良いかもしれない」
「そうだね。確かにその通りだ。昔のパーティメンバーを見つかったら面倒そうだし。でもどうする?」
「これ」
シャルが子供達が作っただろう仮面をダンボールから一つ取り出した。
それを私に提出して来る。
受け取る。
「確かに、顔を隠してローブでも羽織っていけばバレないか」
「銀貨二枚です」
「出世払いで良いかな?」
「利子も合わせる?」
「闇金レベルは止めてくれよ〜」
私とシャルは同時にクスリと笑った。
子供達は私の存在に気づいてはくれていないらしい。
悲しいな。でも、仕方ないか。
子供の頃の記憶なんてうろ覚えになるだろうし、三年も経てば忘れてしまう。
しかもシャルと違って冒険者として活動して、あまり遊んでやれてなかったし。
これじゃ働く事が家庭に貢献している旦那みたいだな。男は働いて女が家事! って感じの。
「これは、結構堪えるな」
昼食の準備を手伝った。
火とかはシャルが魔術で生み出す。私も使え無くはないが、下手に使うと暴走してしまう可能性がある。
この膨大なマナに慣れないとな。
「もやし六本、人参一切れ」
これが私の昼食である。家庭菜園も行っているらしく、人参は庭の畑で取れたらしい。
家庭菜園、か。私もやってみたいな。
「ね、皆は今の生活どう?」
答えは分かりきってるけど、聞いてしまう。
やはり返ってくる答えは「お腹が空いている」や「辛い」などと言った答えである。
でも、中には「シャル先生と一緒だから楽しい」とも言っている。
やっぱりシャルは慕われている。嬉しいな。
「昔はアメリア先生も居て、生活が豊かだったんだけどね」
一人の子供がそう呟いた。
私の存在を⋯⋯覚えてくれていた。
「言うなよ。もう忘れないと。ずっと辛いだけだぜ」
「アメリア先生は仲間を裏切ったりしないのに⋯⋯皆、皆、うぅ」
それが連鎖して私の話がどんどんと出て来る。
その会話の中で私のせいで子供達が外で『仲間を裏切る最低野郎が排出される孤児院の子供』として後ろ指を刺されているらしい。
元々評判の悪い孤児院が私のせいで余計に悪い印象を世間には持たれているようだ。
「⋯⋯ハンカチ、使う?」
「え?」
シャルがハンカチを渡して来る。それは私がシャルに渡した黒薔薇の刺繍をしたハンカチだ。
黒薔薇はこの孤児院のエンブレムでもある。
それが分かった瞬間、目元が少しだけ熱く成った。
ポトリ、手の甲に水が当たる。
「あれ?」
私、泣いてるのか。
「お姉さん辛いの?」
子供の一人が私を心配そうに見て来る。
その瞬間、溜まっていた何かが弾けた。止まる事を知らずに涙を流す。
シャルがハンカチを大切にしてくれていた事が嬉しくて、子供達は私を忘れている訳では無い事が嬉しくて、涙が止まらない。
そしてその子供を抱き締める。
「皆ごめんね、私のせいで辛い思いさせて! ごめんね、私が弱いばっかりに。⋯⋯ありがとう。私を信じてくれて」
「え?」
「覚えていてくれてありがとう。アメリア・アメリカ、帰って来てますよ」
そう言うと皆嬉しいそうに泣いて寄って来る。
皆に悲しくも辛い思いをさせてしまった。この傷を埋めるのは簡単では無い。
でも、もう辛いとか言わせない程に笑顔で幸せ溢れる場所にする。
その決意が、神を越えると言う決意を越える。
「皆、待たせたね」
マナの制御技術を上げながら午後四時三十分と言う所まで来た。
今すぐにでも冒険者として働きたいけど、明日まで待って欲しいとシャルに止められた。
子供達も私と一緒に居たいのか、傍で内職をしている。
数人の子供とシャルは何かをしており、私はマナを体に慣らし、残りの子供達は内職をしている。それが今の構図。
そしてドアがゆっくりと開けられる。
「ただいま〜。どこまでやったか教えてくれ。俺達も手伝う、から」
そこで義務教育組が帰って来たらしい。
ケンケン、ヴィティ、ユリユリ、ルーファの男女比1対1の四人組だ。
ケンケンが先に入って来て、私と目を合わせる。
「チャオ」
「ぐっ、はは。ほらな。やっぱり生きてたよ。アメリア姉ちゃん。おかえりなさい。遅いぞ、帰ってくんの」
「めっちゃ遅くなった。ただいまだ、ケンケン。一発で分かったのは君で二人目だ」
ケンケンを蹴飛ばしてユリユリが中に入って来る。
そしてすぐに私を自覚して飛び付いて来る。
「アメリアさん! アメリアさん! よがっだよおおおお!」
「ほれほれ。ユリユリは活発なの、全く変わらないな〜」
寧ろマナを扱えるようになったせいか、マナが込められているいるので昔よりも強い。
だけど来ると分かっているなら防御も出来る。マナを込めれば痛みを感じる事無く受け止められる。
他の二人もゆっくりと入って来て、私を見て嬉しそうにしてくれる。
そう言う顔をしてくれると、私も嬉しくなる。
「⋯⋯はは、頑張らないとな」
今後待ち受ける壁は果てしなく高いだろう。
でも、私は越えて見せる。壊してでも越えてやる。
そうしないと、私自身が自分を殺したい程に許せなくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます