第6話 孤児院魔術士、昇格試験に挑戦す

 今日の夜はシャルと一緒に寝た。別に私から頼んだ訳では無い。

 でも、嬉しかったので便乗した。

 明日の朝まではまだ僅かな食事しか出来ないけど、すぐに解決する。

 そう意気込んで私は眠った。久しぶりの睡眠だ。


 翌朝。


「じゃじゃやーん!」


 シャルと子供達が胸を張って渡して来たのはローブと狐の仮面だった。


 「ん?」


 「これで身元を隠せるでしょ?」


 「⋯⋯まさか昨日作ってのコレ? わざわざ私の為に? 仮面の方まで新しいのにしたの?」


 やばいすごい嬉しい。


 「そうだよ。だからいっぱい稼いで来てね」


 「もちろんだよ!」


 再発行の手続き料金などを貰って私はギルドの方に向かった。

 ギルドに入り受付の方に向かう。やはり朝早いからクエスト掲示板に冒険者達は群がっている。

 人それぞれの思想の元、依頼クエストは受けられる。


 「あの、すみません」


 「はいなんでしょうか」


 「ライセンスを無くしてしまったので、再発行をお願いしたいのですが」


 「分かりました。それではこちらにお名前などをお書きください。それと顔写真の方を撮らせて頂きたいので、あちらに移動してください」


 「この仮面を着けたままでも良いですか?」


 「構いませんが、それだと身分証明として扱いにくいですよ。顔が見えないのに信用する人が居ますか?」


 「実は顔に大火傷を負ってしまい、醜いのです。それを人に見られるのが嫌でして」


 咄嗟に嘘を吐く。名前をイメリア・アメリキにして、資格の欄には何も書かない。


 「お金も無くて治癒も受けられない。⋯⋯それにこの仮面は世界に一つしかないので問題ないです」


 子供達が仮面に黒薔薇の模様を描いている。ローブには同じような刺繍だ。

 シャルと子供達が私のためだけに作ってくれた物だ。世界に二つと無い。

 深い愛を表現する黒薔薇は我が孤児院のエンブレムマークだ。


 「そうですか。それは災難でしたね。それではそれで行います」


 証明写真を撮ってライセンスを発行する。

 これで銀貨8枚取られてしまう。今の孤児院ではこれでも大金だ。

 一般家庭が1日は過ごせる金でも、だ。

 それだけ期待されていると言う事だ。


 と言うかこれ多分借金だ。

 シャルが子供達に隠れて貯金する訳ないし、あそこまで困窮しているからしていても絶対に使った後だ。

 私は貯金なんてしていなかった。

 孤児院で貯めていたお金、そう言っていたが確実に嘘だろう。


 「ついでに冒険者登録をお願いします」


 「はい。冒険者としてはどのように登録していましたか?」


 これで私の情報を流すと死んでいる事がバレてしまうか。

 絶対に登録されてない名前などでやらないとな。


 「えっと、イメリア・アメリキで、魔術士です」


 結局ライセンスに書いた名前にしてしまった。

 ま、問題ないか。


 「はい。ただいま調べますね⋯⋯登録されていないんですか?」


 「は、はい。今回が初めてで」


 「分かりました。冒険者についてはご存知ですか?」


 「はい」


 「分かりました。それでは最低ランクのFランクから登録を開始します。ギルドに貢献したらその分ランクが上がるので、頑張ってください。貢献しない日が一定数になると冒険者資格を剥奪されるのでお気をつけてください」


 貢献度と実力は比例しない。これだけは覚えておいた方が良い。

 ひたすらに雑務をこなしてDランクに上がったからと言って、Dランクレベルのモンスターと戦えるかは別なのだ。


 私は一気に金を稼ぎたい。

 だから向かうのはダンジョンだ。

 この場で一番近くて金になるダンジョンはどこだろうか? 三年も経っているんだ。攻略されたり発見されたりして変わっていてもおかしくない。

 ボスモンスターを倒したらダンジョンは活動を止めてしまうから、倒されてない場所に行く必要がある。

 いっそファフニールのダンジョンで雑魚共を倒して稼ぐか? ファフニールにたのんでアイテムを生成して貰うか。それは怖いな。ファフニールに頼りすぎているし、この案は却下だな。


 やっぱり効率的にはダンジョンボスを倒す方が早い。

 だけどダンジョン情報はランクに応じて教えて貰えるし、他の冒険者や情報屋に聞こうとすると金が掛かる。

 滅多にする人が居ないアレをやる事になるとは。


 「あの。昇格試験を受けたいです」


 「⋯⋯昇格試験をきちんと理解していますか?」


 受付の目が変わる。


 「はい。私はいち早くお金を稼ぎたい。だからなるべく高ランクが良いんです」


 昇格試験はCランク以上の冒険者と模擬戦を行い、そこで実力を測ってランクを上げる仕組みだ。

 雑務をやりたくなく、一気にランクを上げたい人がやる。

 実力だけでその人の冒険者ランクを判定するので、他の面は考慮しない。


 大抵の人は自信満々で実力自慢したい人が行うのだが、経験豊富の上級冒険者相手にはすんなり負ける。

 当然だ。

 実戦などで培った経験や努力は決してマネ出来るようなモノでは無い。

 殆どは返り討ちにあってボコボコにされて、実力不足と判定を受けて心を折られた上でランクは上がらない。これがオチだ。


 「⋯⋯はぁ。分かりました。冒険者を呼びますので少しだけお待ちください」


 私が譲らないと思ったのか、受付の人は呆れながらも奥に向かって行く。

 昇格試験にはお金が掛からない。

 なぜなら自信満々の大バカ者の心を追って慎重に冒険者をやらせる心を新人に刻めるし、試験官の上級冒険者は自尊心が保てる。

 冒険者同士の争いはご法度とされているが、これは別だ。故に見世物としての価値が高いのだ。


 「はぁ。見ていた側からやる側になるとは。やっぱり周りからは実力あると勘違いしている馬鹿野郎に見えるのかな〜嫌だなぁ」


 でも、これで実力が高いと判断されればランクは上がる。

 実際に新人が上級冒険者を倒したって噂はチラホラ聞くし、私が初めてって訳じゃないだろう。

 それに私は元はSランク冒険者の魔術士だ。経験はあるし、実力もあると思う。⋯⋯ま、そのランクもパーティに居た時の話だけど。

 ファフニールから貰ったマナや知識がある。今の私はそんじゃそこらの事では負けない。


 決まった試験官は軽装の短剣を使う剣士だった。


 「いやいや! 魔術士相手に近距離速度特化の戦闘役はアカンでしょ!」


 「実力を測るのはちょうど良いと思いますよ? 速い相手に魔術が当てられる。近寄られた時の対処法など。異論は認めません」


 審判が私の反論を正論で返す。

 始まりの合図と共に相手が動き出し、野次馬の冒険者達が盛り上がる。

 元パーティメンバーのコモノも同じスタイルで戦っていた。

 コモノと相手のレベルは全然違う。低い、相手の方が。


 三年間のブランクがあるとは言えどファフニールの力によって強化されている。

 負ける要素は無いだろう。


 「魔術士がこの攻撃をどう受ける!」


 「普通に受け流す!」


 突き出された短剣は正確に首を狙っていた。

 前方に向いている力を利用して相手の体を前に倒す。


 「のわ!」


 さすがは相手も上級冒険者。

 崩された体勢も一瞬で立て直して距離を取った。野次馬が盛り上がる。


 「なんだアイツ!」

 「本当に魔術士かよ!」

 「体術使ったぞ!」


 試験官が短剣を構えながら顔が真剣になる。


 「お嬢ちゃんようやるな!」


 「どうも」


 体術はファフニールの知識の中にあったモノと元々少しだけ学んでいたのを利用した。

 懐に入られた時の対処方法は叩き込まれたからね。

 ⋯⋯なんで、あの場所で放置されたんだろう。

 でも、もう関係ない。関わりあいたいとも思わない。

 今はやりたい事ややらなくてはいけない事が明確にある。


 「ほんじゃ、行くで!」


 その為にはこんな所で時間を無駄にする訳にはいかない。


 「後ろだな」


 背後に迫って来た試験官に向かって小さな火球を飛ばす。

 すぐに反応して避けられる。


 「スピードが速い人って後ろを狙いたがるよね」


 「はは。経験豊富アピールか?」


 相手に当たっても問題ないくらいの力を一瞬で攻撃に使えた。

 マナの扱いを慣らした結果だろう。

 それでも全てのマナを完全に操れる訳じゃないけど。


 「ならこれでどうだ!」


 近寄って来た相手の対処方法は見せつけた。背後に迫って来ても対処した。

 次は幻影か?


 「これも後ろだろ!」


 「残念横だ!」


 最初に目の前に迫って来た試験官は蜃気楼と言うマナを利用した幻術の一種。

 偽物の試験官である。

 そして気配が背後からしたので先程と同じような魔術を放ったが今度は横に居た。


 「これで終わりだ!」


 「まだ!」


 突き出された短剣を裏拳にマナを集中させて弾き、反対の手を向ける。

 一瞬で構築した魔術もすぐに逃げられて当たらない。


 「⋯⋯すごいな。蜃気楼を見破られた時の保険も用意したのに、それすら無意味にしたのか」


 「過剰評価し過ぎですよ」


 「いや。そうでも無いだろ。分身」


 相手の体が数十体へと変わる。

 一体が本物で他は偽物か。


 「さぁ、どう来る!」


 いっせいに迫って来る。

 本物がどれかは分かっている。⋯⋯さて、もう終わりにしようか。

 これでCランクは固いだろ。


 「インフェルノ!」


 地面から炎が噴火する。

 それらは全ての分身体を焼き尽くす。本体は私に攻撃を仕掛けて来る直前だった。

 焦った様子になりすぐさま逃げようとする。


 「もう逃がさない!」


 同じような動きで距離を詰めて、右手に構築していた魔術を発動させる。


 「天雷蒼撃」


 青い稲妻が右手に宿り、そのまま相手に向けて突き出す。


 「し⋯⋯」


 何かを呟いて相手は腰を抜かした。

 私は当たる直前で魔術を解除して殴るのも寸止めで終わらせた。


 「私の勝ちですね」


 「分身を見破った上で全てを破壊して来るのかよ。アンタ、何もんだよ」


 「ただの冒険者志願者の魔術士ですよ」

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