第7話 孤児院魔術士、ダンジョンを最短で攻略する

 「それでは、Cランク冒険者からスタートとなります」


 ライセンスを受けてると、確かにCランクへと昇格していた。

 それが終わると色んな人からパーティやクランからの誘いが来た。

 まぁ、上級冒険者を倒すような有望株は欲しいよね。その気持ちは分からないでもない。

 元のパーティだと足並み揃えれる人が少ないから四人パーティで貴族直属だったのでクランにも加入していなかったけど。


 「ごめんなさいね。私は一人でやりたいんだ」


 仲間なんて作ったらまた死地で置いて行かれるかもしれない。

 いや。置いて行かれるだけならマシだ。

 蹴り飛ばされて帰れない状態に陥られるのが怖い。

 何よりも報酬が分配されるのが嫌だ。絶対に嫌だ。

 金が欲しいし、今ここにいる冒険者全員と戦っても勝てる自信はあるし問題ない。仲間は必要ない。


 「ダンジョンの場所を教えてください」


 「かしこまりました。ご希望はありますか?」


 「出来れば近くて金になる所ですね」


 「成程。それなら何個か紹介出来る所があります」


 受付の人は最初の態度とは見た感じに違いは無いが、内心浮かれている。

 ギルド職員は自分が担当している冒険者の貢献度で内部評価が上がり、給料が増える仕組みがある。

 私の強さを見たから、なるべく下手に出て私との繋がりを強く持ちたいのだろう。

 ま、私的にはちゃんとした仕事をしてくれるなら文句は無い。


 「お待たせてしてすみません。これらがご希望に添えると思います」


 出された資料を一つ一つ確認する。

 右上にでかでかと『B』のマークがある。


 「イメリア様の実力ならば容易いかと思います」


 「一個上のダンジョンを一人に攻略させるのか?」


 「もちろん同ランクもご用意致しましたが、高値で売れるのはやはり高ランクのダンジョンです」


 なるほどね。

 ま、ありがたい話だけど。

 推奨Bランクダンジョンをひとつ選んでそこに向かう事にした。そこでは既に攻略しても問題ないと判定を受けている。

 人気らしく、急いで向かわないと他の冒険者に先を越されるかもしれない。


 急いで外へと向かってダンジョンの場所へと向かう。

 マナを下半身に集中させる事によって脚力が大幅に上がる。

 さらに重力魔術で体重をギリギリ地面に足が着く程度まで軽くして加速する。

 風魔術はあまり得意じゃないので、それを使っての加速は出来ない。

 だけど電気魔術は得意なので、体に纏わせて電磁加速でさらに加速する。


 「ははは! くっそ速いな!」


 目の前の景色が流れるように消えて行く。ここまでのスピードを出せるとは⋯⋯凄いなファフニールのマナは。

 魔術士でありながらマナの身体強化をここまで出来るとは。


 「と、到着した」


 お目当てのダンジョンに到着した。

 そこでは少しばかりの列が出来ている様に見える。


 「人気だとは聞いていたけど、ここまでの人が来るのか。急がないとボスに間に合わないな」


 順番抜かしは良くないので並ぶ。

 私を見ては笑ってくる奴らしかいなかった。そりゃあそうか。

 見るからに魔術士の私が盾役なども無しの一人でダンジョンに挑もおうとしているのだから。

 そんなのは自殺行為にしか成らない。


 ま、それが普通の魔術士の場合だけどね。


 私の番が来て中に侵入した。

 それと同時に一気に加速する。

 目の前のパーティやいつからか視界に入ったバトル中のパーティも追い抜かす。

 最短最速でボスまで向かう。


 ダンジョンはダンジョンボスのマナによって構築されている。

 今の私はマナを目視で精密に見える。マナの流れを辿ればボスまで一直線に迎えるのだ。

 デメリットととしては雑魚の素材が手に入らない事、ダンジョンで生成されるアイテムなどが手に入らない事だ。


 「この辺かな?」


 さらになる時短のために私は壁に手を向ける。


 「電光総撃」


 電光が壁を焼き貫く。

 穴が出来たらそこを通ってマナの流れを伝ってボスへと向かう。

 迫り来る雑魚は無視。アイテムなどを見つけたら拾いたかったが、流石に一直線に進むと見当たらないな。

 どんどん壁を破壊して時短して行く。こんな方法は昔は出来なかった。

 純粋な火力不足と、出来たとしてもマナ切れを起こして本番で置物に成る可能性がある。


 そろそろボスの居る場所へと到着するのだが⋯⋯最悪な事に他のパーティと鉢合わせてしまった。

 しかも二パーティである。

 代表戦を行っている所らしい。

 本来冒険者同士の争い事はご法度だが、このように取り合いの場合は争う。ダンジョンの中で互いに口を割らないので問題には成らない。

 ま、それらもちゃんとギルドは把握してるけど何も言わないって感じだな。


 代表戦とはその争いの定番的なモノだ。

 パーティメンバーから一人を代表と選び、タイマンの模擬戦を行う。

 そこで勝った方がボスと戦える。ちなみにボス部屋には一緒に入る。

 もしもの場合は助け合い、報酬は分ける。

 それが冒険者同士の助け合いだ。


 「あのー、始まる前なのなら私も入って良いですか?」


 「ん? 君は? 他のメンバーはどうした?」


 「いません。だけど報酬は独り占めしたいので、代表戦参加して良いですか?」


 一人は長剣を使っている様子。もう一人は戦斧か。

 このような狭い場所で大きな武器を扱って⋯⋯相当の手練なのかな?


 「⋯⋯俺は構わんぞ。な?」


 私に話しかけて来ては無い方の代表が呟いて仲間も同意した。

 もう一人の方も同意した。


 「それじゃ、初め!」


 両パーティの審判が開始を宣言する。

 ちなみに一人で居る事をとやかく言われる事はなかった。変なモノを見る目では見られたけどね!


 「紫電!」


 まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだけど⋯⋯綺麗に二人とも私から狙いに来た。

 そりゃあそうだろうね。魔術士から狙うよね。

 わざわざ近距離戦でバトルしながら魔術士の攻撃をどうにかしないといけないからね。

 それだったら魔術士を倒して遠距離攻撃の心配が無くなってから戦うわな。


 「それじゃ、私入りますね」


 まぁだから攻撃はとても容易かった。

 黒い煙を出しながら二人は地面に突っ伏している。

 紫電、私の得意魔術の一つである。紫色の電気が対象を包み込む。


 「え、ちょ、一人で!」


 誰かの声が聞こえる。

 流石に一人で入るのは予想外なのか。


 「もしかして死霊術を使えるの?」


 「死霊術か。圧倒的に専門外だから頭から抜けてたけど、今後はそれも研究しないとな」


 この世界の様々なモノを研究しないと神を超える事は不可能だ。

 神の作り出したモノを理解して、そして神の領域に向かい、越える。


 「その、私回復魔術とか使えないので、ポーションがあるなら使ってやってください。思っていた以上に火力が出てしまいました」


 ポーションは冒険者なら常備している薬だ。

 私は持ってない。高いしね。

 回復魔術を使える人の方が少ない。大体神官とかじゃないと使えない。

 学べないし神に信仰しないと使えないらしい。これも専門外だ。


 「さてと、ボスはなんなのかな」


 扉を開けて中に入る。

 そこでは唐紅の剣を二本所持したワーウルフが立っていた。

 私に気づいて武器を構える。


 「ちょ、危険ですよ!」


 後ろから至極真っ当な言葉が飛んで来るが無視して扉を閉めた。

 ワーウルフはそこまで強くないモンスターだ。だけどこのダンジョンの推奨ランクはB。

 何かしらあるのだろう。相手のマナを確認する。


 「私の五分の三くらいはあるのか。はは。昔の私よりもマナ量は多いのか」


 だけど負ける気はしない。

 私が一歩踏み込むと一瞬でワーウルフが迫って来た。


 『ガル!』


 「へ〜良い武器持ってんじゃん!」


 唐紅の剣に炎が纏わりついた。

 魔道武器マジックウェポンなのだろう。マナを込めたら魔術的な力が顕現される。

 これは高く売れそうだ。


 『ガル!』


 「これで君は私に勝てないと証明されたね」


 結界の魔術でシールドを展開して攻撃を防いだ。

 シールドを貫けないならワーウルフに勝ち目は無い。

 私はワーウルフに触れる。


 「天雷!」


 黄金の雷がワーウルフを襲う。あの試験官よりも素早いワーウルフは一気に距離を空けて回避した。

 天井や壁などを利用して、私の意識を拡散させるように動いている。

 今の私には意味無いけど。


 『ガル!』


 炎の斬撃を無数の数飛ばして来ながら、ワーウルフは背後から迫って来る。

 少しだけ練習したい気持ちはあるけど、今は一秒でも速く金が欲しい。

 時間を操る魔術も使いたい。

 色々とやりたい事はあるけど、今はそれすらも置き去りにして金が欲しい。


 「一撃で決めるぞ」


 術式を構築し、魔術を使う。

 その速度は炎の斬撃が数センチ動く程度。


 「雷帝!」


 私を中心に広がる電撃が炎の斬撃とワーウルフを包み込む。

 塞いでも包み込まれるので意味が無い。

 体を焼き焦がす雷はワーウルフに大きなダメージを与える。

 それでも倒すまでには至らなかった。


 しかし、この一撃でワーウルフは満身創痍。

 立っているだけでもやっとな筈だ。


 「⋯⋯武器が無事で何よりだ」


 一番高値で売れそうだからね。


 「え?」


 そしてワーウルフは仰向けに倒れた。

 その顔は意外にも⋯⋯笑っていた。

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