第8話 孤児院魔術士、ボスを配下に加える

 「何故お前は笑う?」


 私に殺されて何故笑っていられるんだ?

 ダンジョンボスと言う事はそれなりに知性も高かっただろうに。

 それにB評価を受けたのだ。コイツはかなりの実力者。

 だと言うのに人間の私にあっさりと殺されて、何故笑っていられるんだ。


 「殺した私が言うのもなんだけどさ。プライドはないのか?」


 コイツも剣を使うのなら剣士だろう。

 自分の磨き上げたスキルが膨大な力に押しつぶされて、なんで笑っていられるんだ。

 悔しくないのか?


 「モンスターの考える事なんて、私には分からないか」


 この時先程の冒険者の一人の言葉を思い出した。

 『死霊術』これはネクロマンサーなどが得意とする死体を操り傀儡とする魔術。

 術式を構築して発動するような一般の魔術士が使う魔術とは違い、詠唱によって発動する魔術。

 中にはそれを魔法と呼ぶ人もいる。


 「試してみるか」


 ダンジョンからマナの気配が消えて一箇所に集まって行く。

 それは脱出用のゲートとボス討伐の報酬と姿を変えていく。

 すぐには報酬は創り出されない。


 「ダンジョン。そう言えばマスターになったら縛られるんだっけ? ファフニールも長い時を一人で過ごしたんだよな」


 ファフニールから貰った知識の長さは一万年を超える。

 もしかしたら十万も行くかもしれない。

 まだ全てを把握している訳ではない。そんなのすぐにやったら処理オーバーする。

 しかもダンジョンマスターとなってからもアイツはかなりの努力をしていた。

 その結果がマナの操る技術だ。


 対象にマナを与えて馴染める技術はもはや伝説級の魔術士。

 その技術は私にも受け継がれている。

 知識、マナ、技術、私はファフニールからそれを貰って神を越えようとしている。


 「でもお前には無かったんだろうな」


 アイツ程世界を見て回れる程、ワーウルフは偉大な存在ではない。

 ダンジョンに縛られたからにはきっと自殺も出来ない。


 「お前は死にたかったのか。ダンジョンに縛られて不自由な身に成ったから、解放されたかったのか?」


 自由に成れるからお前は笑っていられるのか?


 「お前が何年前にダンジョンマスターとなったかは分からない。でもきっと長いんだろうな。人間に見つかるまでの時間、攻略されるまでの時間、お前は何をしてたんだ」


 私はワーウルフの頭に手を置いた。


 「自由に成ったら何をしたいかの目標はなかったのか。世界を見たいとか、草原を走り回りたいとか、そんな欲望はなかったのか? 未練はないのか? 自分の技術をあっさり防がれたのに悔しくは無いのか」


 私はマナをワーウルフに流す。

 そして詠唱を始める。

 これは実験の一つだ。研究の一環だ。神を超えるには神の生み出したモノを全て理解しないといけない。

 死霊術なんて、二級魔術士試験の筆記問題突破の為に少しだけ勉強した程度しか知らない。

 でも、今はそこにファフニールの知識がある。


 長年世界を見て来たんだ。知っている筈だろ。

 探れ、深く探れ。


 「汝の欲を語れ、その命その魂を今一度我を授けよ、誓え我に服従すると、願え生きたいと、強く祈り強く望め、輪廻に逆らい地獄道を飛び越えて現世に今一度目覚めよ、その為の仮初の命を今ここに、我が授けよう」


 詠唱と共に浮かび上がる術式。奇妙な感覚だな。


 「輪廻転生リーインカーネーション


 激しい光がワーウルフを包み込み、マナによって私達の魂が繋がる。

 ドクン、燃え尽きた命が再び燃え始めたのを感じた。

 丸焦げに成った体が治って行き、息を吹き返す。


 「この術は生前の未練を媒介に蘇生して人形にするモノだ。初めてにしては上出来だな。生前よりかは少しだけマナ量が減っているけど、見た目は変わらずだ」


 コイツの未練が何なのかは分からない。でも、死んで笑えるなんておかしいな事だろ。

 少なくとも私は死んでも笑えない。

 未練がありすぎる。


 ゆっくりと立ち上がるワーウルフ。

 そして私を見て頭を垂れた。


 「ダンジョンの活動は始まらない。マスターとしての役目は終わった。ダンジョンボスとしてお前は倒された。お前は自由だぞ」


 これは実験だし、何かを強要する気は毛頭ない。


 「⋯⋯なんでそんなに見てくる?」


 報酬を獲得してから出て行こうと思ったのだが、ワーウルフがずっと見てくる。

 立ち上がる素振りも見せない。

 少しだけ気まづい空気に包まれながら私は報酬の宝箱を開けた。


 「これは⋯⋯ローブか。質感も良いしマナの通りも良さそうだな。でもBにしては性能がイマイチなような⋯⋯蘇生させたせいか? ま、金貨2枚はするだろうから良いかな」


 私は着ないよ?

 世界で一つしかない最高のローブがあるからね。

 マナとの親和性は無いから魔術の強化にも成らないし、衣服用の普通の糸で作られているから耐久性にも不安はある。

 でも、黒薔薇のエンブレムはあの子達とシャルが縫ったモノだ。私の為に。

 それはどんな高級品やレアアイテムにも変え難い宝物だ。


 「さて、私は帰るけど⋯⋯」


 ワーウルフが期待するかのような目で私を見て来る。


 「もしかして私と一緒に居たいの?」


 そう質問するとワーウルフはこくりと頭を下げた。


 「それで良いのか? 今度はダンジョンと言う概念ではなく、私と言う人間に縛られるんだぞ?」


 『ガル』


 「殺された相手にお前は忠誠を誓えるか? 私は裏切る奴を仲間にしたいとは思わないぞ」


 マナを解放して威圧する。

 今の私が出せる最大限のマナを解放して威圧する。

 それはAランク指定モンスターに匹敵する。

 今住んでいる国なら四分の一程度は破壊出来る程の力がある。あくまで私の中の認識と常識での予測だけど。

 ワーウルフの中で上位程度の奴でこの威圧に耐えられるか?

 しかも蘇生で少しだけ弱体化している。


 『ガル』


 「死を覚悟しても尚その真っ直ぐな目を向けるか。良いよ。今日から君は正式に私の配下であり仲間だ。殺して蘇られせて、命を弄ぶような事をしてすまんかったな」


 『ガル!』


 そうだな。

 だったこれはアイツに返すか。


 「ほれ」


 私はアイツが持っていた武器二本を投げ返す。

 抱え込むようにキャッチして、訳の分からないと言った様子で私を見て来る。


 「元々君のだ。私に忠誠を誓うと言うのなら、私との戦いで破れなかった結界を破れる程には強くなれ。剣の腕を磨け。磨いて極めろ。世界中のワーウルフを集めても尚、届かない高みに居ると示せる程には強くなれ」


 『ガル!』


 再び頭を垂れた。

 コイツなかなかに従順かもしれんな。

 あーでも、モンスターを街中に持って行くのは良くないかな。

 確かにモンスターを使役している人も居るけど、そう言う人って街とかは避けるんだよね。

 問題が起きたりするし。モンスターを使役する人って温厚は人多いから問題を避ける。


 「私がもっと死霊系に精通していたら、影とかに隠す事は出来るんだろうか?」


 まだファフニールの経験して来た知識の一パーセントも見れて無いから、後々に期待だな。

 私はワーウルフと一緒に外に出た。

 そして街に向かって歩く。


 「ん〜あ」


 そこで私の視界に入って来たのは『霧の森ミストフォレスト』と呼ばれている白い霧に覆われている森だ。

 何故霧に覆われているかは未だに不明だが、大きなマナを感じるのでモンスターの影響だろう。

 霧の現況を見つけて戦いに出向いても、今の私では勝てないと分かる。

 離れていてもそのマナをビンビンに感じるのだ。


 「あそこって浅い部分しか冒険者も行かないしな」


 奥に行くにつれて危険度は増す。

 だから浅い所にしか殆どの冒険者は行かない。

 行く理由も殆どは薬草採取なので、霧で国の外壁が見えないって所までは潜らない。

 ワーウルフは嗅覚に優れてるし、問題ないかもしれない。


 「よし、自分よりも強い奴にはあんまり手を出すなよ。死にに行く事は許さん。後は剣を磨きながら自由に生きろ。森を出て行っても構わんが人間は殺すな。襲うのもダメ。正当防衛はアリだ。善悪は自分で判断しろ。私が用事ある時はあの森に行くからよろしくね。まぁ覚えておいて欲しいのはその程度かな。今日からあそこで暮らしくれ。面倒見てやれなくてすまんな」


 『ガル!』


 「良い返事だ。悪いついでにもう一つの実験を最後に付き合ってくれ」


 モンスターにマナを与えるとどうなるのか、これをやってみたい。

 ルルーシュは同じ人間だったからかあまり変化はなかった。あるいは与えるマナが少なかったか。

 私は姿に少しだけ変化があるし、内部にも変化がある。

 身体能力は基本的に底上げされているし、筋肉質にもなっている。


 「モンスターに人間のマナを与えたらどうなるのか、やるけど良い?」


 『ガル!』


 良さそうだ。

 ファフニールに与えられたマナも私の中で人間のマナに変わっている。

 ワーウルフに意識を向けてマナを流す。

 空気に霧散してしまうのは仕方がない。


 「私の三分の一を与えれば良いかな? ファフニールの真似事だな」


 紅桔梗色のマナがワーウルフを包み込む。

 その体が徐々に引き締まり、より人間に近い見た目と成った。

 ⋯⋯と言うか、見た目が完全に獣人だ。


 「ワーウルフからは獣人族に成った! 人間のマナを与えると人間に近い存在になるのかな? それとも蘇った影響?」


 『主様?』


 「喋れるよにも成ったの! にしても女性⋯⋯いやメスだったのか」


 私の独り言に疑問符を浮かべてらっしゃる。

 と言うかなんで言語能力が普通にあるんだろうか?

 やばい。色々と調べたくなった。


 「人間に成ったから問題は⋯⋯ダメだな。私達の住んでいる国は人間を優遇する傾向があるし、身分もない君が行ったら不便か」


 と言うか通行料を払う金が無いわ。


 「すまんけど、さっき言った事を守りながら自由にあそこで生きてくれ」


 『畏まりました! 主様のお陰で我は新たな境地に辿り着けそうです! それでは、いつでも我をお使いください!』


 「あーうん。そうだね。頑張ってくれ」


 『はい!』


 ワーウルフが再び先程のような姿に成って行く。


 「変えられるのか」


 『ガル!』


 そして森に向かって走って行く。

 アレが戦闘スタイルって感じで見れば良いのかな?

 身体能力が見るからに変化してたし、マナの質も少しだけ違った。


 「気になる事が増えたな」


 気になると言えば、別れたルルーシュは今何をやってるんだろ。

 取り敢えず帰って換金して、昼食は豪華に行くぞ!


 「このローブは絶対に金貨2枚はする!」


 金貨1.5枚で換金出来ました。やったね。

 そこから税金諸々が引かれるクソルールがギルドにはあり、私の予定していた金額よりかは少しばかり下がってしまった。

 金貨1.3枚。金貨一枚と銀貨三十枚である。


 「ま、これだけあれば二日は豪華に食事が出来る。待ってろ皆。美味いもんシャルに作って貰えるからな!」





【あとがき】

普通に攻略していたら金貨10枚は稼げていたと言う事実は神のみぞ知る。

あまり描写されてませんが、この世界結構文明は発展してます。

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