第28話 ナキミル、霧の森調査

 俺はナキミル。

 現在は緊急で集められた冒険者達による、霧の森の調査を行っている。

 最近、ここらで種族の違うモンスターが群れを成していると言う情報が手に入ったらしい。

 その具体的な調査を任されたのだ。


 「ドキドキしますね!」


 ルナアがそんな事を言うが、コモノもマゾもそのような事はない。

 霧の森は名の通り濃い霧に覆われている森である。

 ここら辺に出現するモンスターは決して弱くないし、この森に適応している。

 なので、単体のモンスターの実力ランクよりも一段階上だと判断される。


 「コモノ、良く警戒しておけ」


 「もちろんだ。マナ感知が使えないのが嫌だな」


 それから数分進んでいると、二体のオーガを発見した。

 調査を優先したいが敵が居ると安心して出来ない。

 オーガ二体だけなら問題ない、か。


 「コモノ、右を頼んだ」


 「分かった」


 「ま、魔術の準備をします!」


 魔術か。

 本来なら魔術士が魔術発動のタイミングを見て仲間に合わせるのだが、コイツの場合は俺達が合わせないといけない。

 マナで身体強化を行い、一気に加速する。


 「一撃で決めるっ!」


 背後は取っている。

 首を一撃で落とす!


 俺が全力で振るう大剣を持ってすれば、オーガなぞ雑魚だ。


 「なにっ」


 しかし、相手はすんでのところで気づき、武器である槍で防御する。

 片手で持っているにも関わらず、俺の大剣を防ぐか。


 「ならばっ!」


 大剣にもマナを流して火力を上げるのみ!

 正面を向いている今ならば一気におしきる事も可能だ。


 「ナキミル下がれ!」


 「ッ!」


 だが、その邪魔が入る。

 オーガ? 違う。

 ルナアの氷魔術が俺が相手をしていたオーガに向かって来たのだ。

 巻き込まれてはたまったもんじゃない。

 バックステップで回避する。


 氷の魔術がオーガを拘束する。


 「チャンスか。そっちは放置で俺の手助けを。マゾ、筋力強化だ」


 「あいよ!」


 マナでの身体強化にさらに、攻撃力を上げる為に強化魔術を頼む。

 身動きが出来ない今がチャンスだ。


 コモノが相手をしていたオーガに煙玉をぶつけてこちらに向かって来る。

 俺は突きで奴の首を狙い、コモノは薙で後ろ首を狙う。


 「させないよ!」


 確実に倒せるポジションだった。

 しかし、颯爽と現れた伏兵により俺達の攻撃は同時に弾かれた。

 パーティメンバーの場所に戻る。


 「おうおう。アタシの仲間と遊んでくれたらしいねぇ。アンタら逃げるっすよ」


 『うごおお』


 『ブルル』


 「邪魔だから消えろって言ってんだよ。聞き分け良くしろ」


 その言葉にオーガ達はビビり散らかして、脱兎の如く森の奥に消えていく。

 先程の雰囲気とはうってかわり、明るい雰囲気となる。


 角の生えた人間⋯⋯鬼人か。


 「人間共、アタシの練習台になるっすよ。あ、安心して欲しいっす。殺しはしないっすから」


 「どうするナキミル?」


 コモノが小声で話しかけて来る。

 オーガを逃がしたので奴らの仲間だと思って間違いない。

 鬼人、オーガの中に稀に生まれる希少種か。

 Bランクのモンスター⋯⋯この場合はAランクと見るべきか。


 しかも人の言葉を話す所を見るにかなり知性が高い。

 もしかしたら何十年と生き延びている個体かもしれない。

 オーガとの会話を見るにアイツは上の立場。

 今回の異常事態に関わっている可能性は高いか。


 「戦う気満々だ。簡単には逃げれない。殺るぞ」


 「了解」


 「おっけー!」


 「が、頑張ります!」


 俺は身体強化して一気に駆け出す。


 「敏捷強化、筋力強化、感覚強化!」


 三つの強化魔術が連続でかけられる。

 同時構築は出来ないので、連続である。


 「でりゃあ!」


 強化された俺の動きは簡単には捉えられない筈だ。


 「ちぃ!」


 「なかなかっすね」


 少しだけ鞘から刀身を出して防ぎやがった。

 なんつー力だ。マナでの強化も行っているのか。

 刀に込められる力が上がった。抜刀術か。


 「ふんっ!」


 強く放たれる攻撃を防ぐ。

 その隙にコモノが肉薄した。


 「速いっすね!」


 鞘を捨てて袈裟斬りが飛ぶ。

 しかし、その程度ならコモノはミリ単位で避けれる。


 「死ね!」


 「おー器用器用」


 双剣が奴の首を捉える⋯⋯だが、一瞬で後ろに移動して避けやがった。

 動作に対する反応速度が異次元だ。


 「煙袋だ!」


 「なんだこれっ! げふ」


 コモノが煙玉を放った。

 あれはモンスターにだけ分かる強烈な悪臭を放ち、相手の感覚を阻害する。

 直接攻撃は防がれる可能性がある。


 「マナブレイド!」


 空を斬り、斬撃の衝撃波にマナを乗せる事によって起こる、マナの斬撃。

 高度な技術だが、剣士としての中距離攻撃と成っているので扱いやすい。


 「がはっ!」


 大剣ならばその威力も申し分ない。

 振るう力がこのマナブレイドの火力を上げる。

 腹を深く斬られた鬼人からは大量の血が漏れ出る。


 「はは。痛てぇなおい! これりゃ楽しめそうだ!」


 「なんだこれ」


 「凄いマナ」


 鬼人が纏う気配が変わる。

 同時に開放されるマナの量はAランクモンスターに匹敵する。

 まずい。想定以上の強敵だ。


 「アイスエイジ」


 氷の魔術が鬼人を氷漬けにしようと迫る。

 冒険者としては全然ダメなルナアでも、魔術士のカテゴリだけで見たら一流だ。

 その魔術もしっかりとしている。

 ルナアには前々から伝えてあった。


 少しでも苦戦した場合は攻撃魔術ではなく、相手を拘束する魔術を使えと。

 これなら俺達が被弾する恐れもなく、尚且つサポートも出来る。

 ただ、氷なので足を奪われないかが心配だ。


 「温いぞ人間!」


 奴の持つ刀がマナにやって黒く変色する。


 「絶!」


 「まずい! 皆俺の影に隠れろ! マゾ!」


 「肉体強化!」


 「シールド展開!」


 魔術は苦手だが、防御範囲を拡大するために結界魔術は覚えている。

 全員を守る為に、黒き斬撃を受け止める。

 何たる重さ!


 「あああああああ!」


 結界が壊され、大剣に斬撃が上達する。

 押されてしまう。


 「負けるかああああ!」


 根性で俺は斬撃を投げ飛ばす。

 黒い斬撃は弧を描いて空に向かって飛んで行く。


 「まずいな。このままだと、負ける」


 強い。

 霧の森の奥地にはこれ程のモンスターが潜んでいるのか。


 「もっと全力を出せ人間! もっと、もっと楽しもうぞ!」


 狂気の笑みを浮かべる鬼人。

 だが、次の瞬間遠吠えが聞こえる。


 『ワオオオオオオオオオ!』


 「な、なんだこれ」


 遠くから聞こえるその遠吠え。

 しかし、のしかかるプレッシャーが鬼人よりも一段階大きい。

 離れているにも関わらず、だ。

 狼のような遠吠えなのに、三年前のドラゴンを思い出す。

 アメリアを殺すために利用した、黒龍のダンジョン。


 「まじか。悪いな人間。アタシは野暮用が出来た。そんじゃ」


 奥に消えて行く鬼人。


 「助かった、のか。一体なんなんだアイツは。実力が高すぎる」


 「追いかける?」


 「調査したいのは山々だが、流石に危険だ。奥には行かずに他の所を調査しよう。あの鬼人についての情報をまとめておいてくれ」


 「へいへい」


 マゾが紙とペンを取り出して報告資料を作成して行く。

 その間に俺達は休む。


 一時間、再び調査を続行したが特にそれらしいモノはなかった。


 「人語を介す鬼人か。実力も相当に高い。それ以外に報告出来そうなモノはない、か」


 「そうでも無さそうだぞナキミル。お客だ」


 そう言われて大剣を抜いて警戒する。

 正面からゆっくりと来たのは二足歩行のカマキリだ。


 「昆虫系のモンスターか」


 厄介だな。

 しかも、感じる気配があの鬼人と同等。

 あの場所からはかなり離れている筈だが、こんなにも強いモンスターがここにはゴロゴロ居るのか。

 最悪、誰かを犠牲にして逃げるかないか。


 『ジエエエエエ!』


 喋らないだけましか。

 俺達は攻撃に備えた。

 モンスターがブレる、刹那モンスターは俺の横に移動していた。


 「なっ!」


 「ぐはっ」


 回復魔術が使えるのがバレていたのか、マゾが先に狙われた。

 吹き飛ばされたマゾは奥に木に衝突する。

 追撃に行きそうなモンスターに俺とコモノが同時に迫る。

 カウンターで振るわれる鎌。


 「重い⋯⋯だが、これなら!」


 俺はその攻撃を止める。

 その隙にコモノが奴の首に迫る。


 「ぐべっ!」


 だが、二足歩行の利点をしっかりと活かして顎に膝を突き出した。

 驚き、力が緩んだ俺は吹き飛ばされる。


 「コモノさん! ナキミルさん!」


 まずい。

 残っているのはルナアだけだ。


 「逃げろ、ルナア!」


 俺の叫びは虚しく霧に消え、モンスターはルナアに鎌を振り下ろす。

 死んだ⋯⋯そう思った瞬間だった。

 金属音が響く。


 「おいおい。遂に侵略行為を始めるか虫類派閥!」


 ルナアを攻撃から守った存在。

 そいつは一時間程前に戦った相手だった。


 「悪いが、ここら辺での人殺しは禁止だ」


 『ジエエエエエ!』


 「き、鬼人」


 「先程ミケと言う名前を貰った。種族名で呼ぶな!」


 モンスターを弾いた。

 そこから俺達はただ、モンスター同士の戦いを見るしかなかった。

 いや、それはもう戦いとは呼べない。

 一方的な虐殺。

 たったの一時間で鬼人は絶大な力を得ていた。


 「アメリア様から頂いたこの力、お前で試させて貰うぞ!」


 その言葉を聞いた俺達は、誰もが言葉を失った。

 なんで、コイツからアイツの名前が出るのだと、皆が疑問に思った。


 鬼人から放たれるマナが大きい。

 額からもう一本の角が生える。


 「月夜流抜刀術、月星」


 一閃、それしか見えなかった。

 だけど、カマキリのモンスターは粉々に切り刻まれていた。

 ついでと言わんばかりに奥の木も一緒に粉々だ。


 「これがアメリア様のお力か。⋯⋯と、人間共そろそろ帰れ。これ以上奥に来るなら敵対行動とみなすぞ」


 そう言って、俺達とは戦わずに鬼人は去っていく。

 殺す気のない戦い、そしてモンスターから俺達を助けてくれた。

 奴から出された名前『アメリア』。

 俺達は今、何に遭遇しているんだ。

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