第29話 ハザール

 自分はハザール。ただのハザール。

 剣の腕が全てと言う変わった村で生まれ、生物として存在するマナが自分には存在しなかった。

 それ故に家族からも見捨てられた。

 周りを見て、自分なりに剣の腕を磨いた。


 村を追い出されて、色々な場所を放浪した。

 傭兵として対人戦を学んだ。

 時には暗殺の仕事も行っていた程だ。

 とんだ悪党だったので、殺した事自体には罪悪感は無かった。


 段々と無気力感に刈られ始めた。

 何故自分は剣を磨いているのだろうかと、自分に疑問を投げかけていた。

 そんな時に自分は悪の組織に利用されそうになった。

 それが無性に腹が立ち、殲滅してから自分は今の国に来た。


 悪の組織、具体的に何をしていたが知らないが、子供達を実験用として拉致しろと言われたら味方をする事は出来ない。

 今は冒険者として活動している。


 「ん〜やっぱり筋肉痛かな。強化魔術での体の酷使は筋肉痛に繋がるのか」


 そんな事を呟きながら自分は街道を進んでいた。

 昨日の霧の森での出来事はかなり驚いた。

 仲間のアメリアがあそこまでモンスターを従わせていたとは⋯⋯本人は自覚がなさそうだったが。

 そこで自分はミケと言う鬼人と同じ刀での戦いを行った。

 肉体性能が圧倒的に違くて、苦戦した。そもそも攻撃が当たっても肉体を斬れなかったけど。


 「誰か、助けて」


 「ッ!」


 微かな声が聞こえた。

 自分はすぐさま声のする方へ駆け出した。

 路地裏、一般人の気配はしない。


 「誰か、助け⋯⋯」


 「全く。暴れがって」


 「ようやく睡眠薬が聞いて来ましたね」


 自分を悪の組織に誘って来た奴らと同じ服装。

 男が二名。子供は眠っている。

 会話的にあの子を拉致しようとしているのは間違いない。

 なら、容赦の必要は無いな。


 「ぬっ!」


 一人と男がナタを取り出して自分の初撃を防いだ。

 確実な奇襲。音も気配も出していなかった。

 なのに、何故気づかれた。


 「なんだお前」


 感じる気配。

 こいつ⋯⋯強い。


 自分は距離を取った。

 自分が近接戦闘の技術での戦いで実力者と認めているのは我が父と母、そして鬼人だけだ。

 その人達と比べると彼はそこまでの実力はない。

 だから、負けてはならない。


 「何故子供を誘拐する」


 「喋る義理はねぇな。行け、アイツは異質だ」


 「へいへい」


 逃がさない。

 私は加速する。

 力まず、肩の力を抜いて自然体のままに走る。

 子供を運ぼうとしていた男の背後を取り、刀を振るう。


 「なっ!」


 「お前、何もんだ!」


 確実に仕留められた一撃、だと言うのにナタの男が攻撃を止めた。

 コイツ、自分の存在を認識しているのか。


 「しゃらくせえ!」


 「くっ!」


 マナでの身体強化か。

 まともに攻撃を受けたらこちらが不利だ。空気を蹴って離れる。


 「一旦止まれ、逃げたら先に狙われる。まぐれが続くとは思えね。先にアイツを殺す」


 「ふっ」


 構えを解いて自分は歩く。

 それは悠然としており、とても隙だらけだ。

 呼吸を一定に収め、空気の流れに自分の身を完全に混ぜる。

 相手の後ろに移動し、そのまま刀での攻撃を繰り出す。


 「ここかっ!」


 「何っ!」


 またしても防がれた。

 何故だっ!


 「俺の勘は当たるんだよ!」


 ナタへとマナが流される。

 刀が砕けてしまう。

 相手の力を利用してナタを弾き、懐に飛び込む。


 「お前の動き、見切ったぜ」


 「ッ!」


 振るわれるナタをギリギリで受け流し回避する。

 だけど、身体能力の差がありすぎた。

 自分の防御を完全に上書きしてはみ出た力が全身を襲う。

 軋む骨。


 「お前の動きを例えるならそうだな⋯⋯空気だな。呼吸、歩行、殺意、その他諸々、お前は全てを駆使して自然体過ぎる動きをしている」


 「⋯⋯」


 「だがなぁ。未熟だな。お前の技術は凄いかもしれないが、焦りがあるな。お前の動きは焦っていると少しだけ綻びが出来る。その綻びさえ見えれば⋯⋯対処は簡単」


 再び攻撃が防がれる。

 連撃での攻撃のぶつかり合いはこちらが不利だ。

 純粋な身体能力で押し負けてしまう。

 これがマナのある存在とない存在の違いだ。


 「子供を離せ!」


 「出来るかよ!」


 建物の壁を利用して相手に接近する。

 自分の動きが見切られてしまったら次はフェイント合戦だ。

 戦いながら自分の心を落ち着かせる。

 相手はまだ完璧にこちらの動きに対応出来ている訳では無い。

 だから、その間に勝機を作り出して倒す。


 「ちぃ。段々と冷静になり始めたか」


 「ちょ、どうすんだよ。ボスに怒られちゃうよ!」


 「黙ってろ! この俺が居るんだ。それはねぇよ。安心しろ、あと少しで慣れる」


 わざわざ会話して状況を知らせてくれるとは。

 歩行を少しだけ変える。

 先程まで薙だった攻撃方法を突きに切り替える。

 皮一枚でなんとか防げていると言う状況だった。


 「クソっ! 器用なヤツめ」


 薙と突きをランダムに繰り出して相手に対応させない。

 だけど中々攻撃が通らない。

 全てナタで防がれる。


 「そろそろ、決める!」


 次に繰り出すのは首を狙った突き。


 「ここかっ!」


 相手は塞ぐためにナタを間に挟み込む。

 だが、この攻撃はフェイントであり本当の攻撃は足を狙った薙。


 「はっ!」


 「しまっ⋯⋯あぁ?」


 「そう来たか」


 ローブなら斬れると思ったが、内側に仕込みの甲冑がしてあった。

 だが、それだけなら斬り方次第でどうにでもなる。

 問題は、それにマナが流されると確実に斬れないし、自分の力がバレてしまう事。


 「あぁ?」


 すぐさま距離を稼ぐ。

 だが、遅かったようだ。

 相手の顔に嫌な笑みが浮かぶ。


 「お前、かの有名な生外剣姫か」


 「なんだそれ?」


 「対人戦負け無しの盗賊スレイヤー、そしてマナが存在しない。それが生外剣姫だ」


 「へー」


 「分かってねぇな。マナさえ全身に巡らせておけば、負ける事はねぇんだよ。ま、そんなマナの無駄使いはしないがな」


 最悪だ。

 このままだと攻撃の度にマナを全身に流され、こちらの攻撃が通じなくなる。


 「どうやってマナがなくて戦えているのか分からなかったが、こんな小細工が使われていたとは」


 「子供を解放しろ」


 「断る!」


 仲間を守る為に受け身に転じていた男が攻撃に動いた。

 マナでの身体強化を発揮して動かれたら⋯⋯自分では見る事も出来ない。


 「ぐはっ」


 「防御も間に合わないのか!」


 全身に来る衝撃。

 逆流する血。

 手から刀が離れる。

 まずい。

 たったの一撃で意識が薄れて来た。


 「行くぞ」


 「へーい」


 「待て、行かせない。実験なんて、許さない」


 「⋯⋯小細工に免じて見逃してやろうと思ったが、それを知っているならダメだな。殺す」


 「はぁ、はぁ」


 武器がなくとも手があり足がある。

 体術は使える。


 「はああああ!」


 「ふん。歩行術の無いお前なんて、雑魚だろ」


 「があああああ!」


 伸ばした右腕が切断された。

 痛みに悶えそうになる。熱い。痛い。

 でも、今後の為に動かないとダメだ。こんな所で止まってなるモノか。


 「未来ある子供を助けるのは、大人の役目だああああああ!」


 自分が暗殺者として仕事をしてしまった時に、家庭を持った男を殺した。

 ソイツの葬式をたまたま見てしまい、目に焼き付いた光景がある。

 泣き叫ぶ子供の、顔である。

 それ以降、自分は暗殺を辞めた。盗賊も殺さずに捕まえている。


 でも、今回ばかりは、再び殺しに戻るしかない。

 全力を持ってしなければ、この子は守れない。

 他人の子だから、そんなのは関係ない。

 子供は皆、弱い人達を自分は守りたいんだ!


 「ぐうう」


 「無駄だ」


 首の肉を噛みちぎろうとしたが、マナを流されて止められる。

 自分の歯は、奴の肉に届かない。


 「死ね」


 「がはっ」


 腹を深く裂かれた。

 大量に飛び出る血。


 ごめん、アメリア。

 自分は先に地獄に行くようだ。


 「な、なんだお前ら!」


 薄れた音の中で、男達の悲鳴が聞こえた気がする。

 自分の目の前に男の首が転がって来る。


 「君はまだ死なないよ」


 口の中に流れてくる液体が体を癒してくれる。


 「ケホケホ」


 溜まった血を吐き出した。


 「体が⋯⋯ポーション」


 「ハザール」


 「ッ!」


 視界に、子供を持った顔の分からない人と、男達の処理をしている人達がいる。

 自分の目の前には黒髪の人が見下ろしていた。


 「何故、自分の名前を。その子は⋯⋯」


 「子は家に返す。ハザール。力は欲しくないか。貴女に必要な力が、欲しくないか」


 自分にそう問いかけて来た。

 技術が高いのは自分でも自覚していた。そうしないと戦えなかったから。

 でも、やはりただの初見殺し。

 バレてしまえば勝てるはずの無い勝負。

 その技術も勘で塞がれてしまう。


 「⋯⋯条件は?」


 「我々の仲間に成れ。貴女の技術を教えて欲しい。こちらは力を与える。そして、あの男のような邪神教と戦って欲しい。奴らを殲滅する。それが我々の目的だ。来るか、ハザール」


 手を伸ばされた。

 アメリアの顔がチラついた。


 自分は⋯⋯剣士だ。

 自分の限界を越えられると言うのなら、どんな道でも進みたい。

 何よりも、このまま負けるのは悔しい。

 そして、奴らの行いは許せない。


 「君達の見る先は?」


 「邪神復活と言う世界の破滅が訪れない世界にする。奴らの行いで悲しむ人をゼロにする。それが我々の到着点」


 「⋯⋯こんな自分の技術で良ければ、いくらでも教えるよ。だからお願い、自分に、『普通の強さ』をちょうだい」


【後書き】


昨日は更新を休みました。すみません。

今日は更新が遅れました。誠にすみませんでした

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