第37話 孤児院魔術士、霧の古龍に戦いを挑む

 ナキミルを拾ってから四ヶ月が過ぎ、ファフニールのマナの三分の一を完璧に操れるようになり、新たに少しだけマナを貰った。

 現状、孤児院には危害はないが、周囲の貴族達は孤児院の利権を奪おうと躍起になってるらしい。

 上から脅しをかけて、私と言う力を使いたいらしい。


 「にしても、国王陛下が手を回すのはびっくりだわ」


 コモノからの情報によると、国王にも実力が認められたらしい。

 まぁ、孤児院に手を出さないのらなんでも良いけどね。


 そんな私は今、霧の森に来ている。

 勝てるかは不明だけど、今の所神に近づく情報がないのだから、力を伸ばさないといけない。

 今の実力を試すなら、広大な森を霧で覆うマナを放出する存在と勝負するのが一番だ。


 「行くか」


 中心に向かって進む。

 ここにはウル達が居るが、今日は私一人で戦いたいと事前に連絡はしてある。

 シャルには猛反対されたが、これは私自身の好奇心であり、探究心である。


 シャルも止めても無駄だと分かってくれたのか、私を快く送り出してくれた。

 森の中心に行くと、そこには大きな湖があり、中心には祠が浮かんで、真っ白なドラゴンが寝ている。

 マナを放出しながら寝るなんて、とても器用だな。


 『何者だ』


 「人間だ。霧の古龍ミスト・エンシェントドラゴン、私と戦え!」


 『断る。無駄な殺生は好まん』


 「それは同じだ。勝負だ。命は奪わない。ただの力の比べ」


 『それには我のメリットが存在しない』


 「まぁ確かに」


 これは私の一方的な気持ちだ。


 「ふむ。じゃあ、私が君を殺そうとしたら、戦ってくれる?」


 『我を殺せると思うか?』


 「殺す気で行くさ。その為に来た」


 私は一瞬で術式を構築した。

 ドラゴン相手に手加減無用、寧ろしているとこちらが死ぬ。

 だから、最初から高火力で攻める、先手必勝、これが強者への戦い方じゃああ!


 「電龍!」


 『霧伊吹ミストブレス


 白いブレスと電気の龍が衝突する。

 湖の水が打ち上げられるのを同時に、私達は空に飛んだ。

 私は飛行魔術を使っている。


 「タイムストップ!」


 相手の時を数秒止める魔術を使うが、予想通り逆鱗によってマナが分散、簡単に魔術が砕けて襲ってくる。


 『白き爪!』


 「マナでの射程強化かよ!」


 マナだけで武器のような物を爪に被せるとか、相当な技術だな。

 でも、そのくらいなら私も出来るよ。しても意味無いけど!


 「テレポート!」


 相手の上に一瞬で転移。

 同時に構築していた術式を展開する。


 「天雷剛撃!」


 雷撃がドラゴンを襲う。

 黒い煙の中からヌルりと出て来る。


 「夜明けを示せ、黎明!」


 ファフニールのマナによって扱いかま上手くなった炎の魔術の最上位クラス。

 黎明、太陽と見間違える巨大で高温な炎の球体をドラゴンに放つ。


 『ドラゴン、クロー!』


 マナで放たれた爪の斬撃が炎の粉々に切り刻む。

 強いよ。


 「ワクワクするね」


 私が目指しているのはこんな奴よりももっと強く、私に力を与えた、見方的には師匠にも思えるファフニールよりも強い存在。

 だから、こんな奴に恐れを持っていたらダメだよな!


 「雷撃炎風!」


 『幻影刃!』


 幻の刃だけど形が存在するそれ如何に。

 私の魔術が如く如く打ち砕かれて切り刻まられる。


 私に肉薄するドラゴン、突き出される爪がとても太い。

 普通にやってたら負けるな。


 「テレポート!」


 『面倒な。霧の世界!』


 「ぬぉ!」


 ドラコンから大量のマナ霧が溢れ出て、私達の周囲を囲んで行く。


 『アメリア』


 「⋯⋯ッ!」


 脳内に響くシャルの声⋯⋯これは幻影を見せる霧か。

 ドラゴンの姿が全く見えない。

 だけどなぁ、耳を向けなければなんの問題もない。


 こっちは既に龍眼になんのデメリットもなく使える状態になっているんだよ。


 「開眼!」


 そして龍眼を使えば幻影などすぐに見破る事が可能なんだよ!


 「え」


 『吹き飛べ!』


 絶句した。

 龍眼を使って幻影を破った瞬間、目の前にはドラゴンがブレスを溜めている状態だったのだ。

 放たれる純白のブレスが森の地形を変えて行く。ブレスの先端にはこの私が居る。


 「痛いじゃないのよ。雷帝!」


 ブレスを遮断して脱出する。頭が割れたか?

 額から血が流れてくる。

 あの一撃でそこそこのダメージを受けてしまったが、まだ問題は無い。

 ポーションを取り出して飲む。別にアイテムを使わない気はなかったからね。


 「そんじゃ、人間らしく戦いますか」


 『我の霧がある所では、どこに隠れようとも無意味だ!』


 子陰に隠れて居ても意味が無いってのは言われなくても分かるっての!

 私もそこまでの馬鹿じゃない。


 「電光石火!」


 強化魔術で一気に加速して、飛行速度も超上昇する。

 ドラゴンに迫り、相手も攻撃に転じて来る。


 「へっ。鼻からこっちは一人で戦う気は無いね。ファフニール!」


 私の脳内にファフニールの声が響いた。


 「転送、樽爆弾!」


 ファフニールとの協力で、アイテムを取り出す事が可能となった。

 ファフニールのダンジョンに置いたアイテムを、私とファフニールを点にしてゲートを繋いでアイテムを送るのだ。


 「くらえや!」


 『くだらん!』


 樽の中にある大量の火薬が火を吹き、ドラゴンの正面で強く爆発する。

 大したダメージには成らないとは織り込み済み、その先の攻撃のための布石に過ぎないんだよ。


 『なに!』


 「多重分身ってね」


 私が数十人、ドラゴンの制空権を入手した。

 マナだけの分身なら簡単に見破る事は可能だが、そこに私の血を混ぜる事により気配などが本物と近くなる。

 ハザールさんとの研究により編み出された技だ。

 少しだけ血を必要とするので、そこだけがデメリットと言える。


 「まぁ、一番の特徴はこれだよな」


 気配を誤魔化す為にも確かに使用する分身の技術だが、それよりもこれには重要な役目がある。

 血が含まれると言う事は、その中にあるマナを使用出来ると言う事。

 分身体と私の体は連動しており、同じ動きをする。つまり、同じ術式を構築する。

 血の中に含まれたマナを使う。


 その血は当然私の。

 同質のマナが同じ術式を構築して発動する。

 連鎖する魔術は同じ物を取り出す。


 「ドラゴンの鱗は硬くて、マナを分散させる効果がある。だけどなぁ、普通の火薬を詰めた樽爆弾ならマナじゃないから分散しない。後はお前の鱗を貫くだけだ!」


 ファフニールのところではルルーシュ達が手を貸してくれている事だろう。

 私達から一人二つの樽爆弾が転送で送られて来る。

 マナを流せば中にある魔道線が熱を帯びて、中の火薬に引火する。


 「綺麗な花火を見せてくれよ!」


 『ミストシールド!』


 「結界なんて真似すんなよー! 電磁砲撃!」


 私の魔術で結界を貫き、ドラゴンの周囲に落ちた樽爆弾が激しい轟音を鳴らして爆裂する。

 火花が森を燃やすかもしれないが、それはこの霧が守ってくれる。

 真っ黒の煙から出てくるドラゴンの目はこちらをしっかりと睨んでいた。


 「ようやく戦う気になったか」


 分身体は魔術を使うと自然と消える。


 「どうだい、人間が作り出した過去の兵器の産物は」


 『あぁ、懐かしい味がしたよ。久しぶりだ、ここまで気が高ぶる事なんて、ほんとに懐かしいよ!』


 ドラゴンが咆哮をあげる。

 腹に響くその音は⋯⋯伝説の名にふさわしい威厳を感じた。


 「良いね! 私のちゃんとした立派な踏み台が、予想以上に立派でさ!」


 『その減らず口、どこまで叩けるか見ものだな!』


 「ああ、見せてやるよ。人間ちゃんの底力を」


 私とドラゴンは互いに突き進む。空気すら置き去りにして。


 「天雷紫龍、二重の構え!」


 二つの術式から禍々しい電気が紅桔梗色の龍が出現する。

 今では完全に制御が出来る。


 『古龍式霧幻影伊吹ミスシャル・ドラゴンブレス!』


 対する相手の攻撃は純白の霧のブレスだった。さっきまで使っていたブレスとは火力が全然違う。


 白いブレスと紅桔梗の龍が衝突する。


 「ブレスはなぁ、ドラゴンの専売特許じゃないよ」


 私は口の中にマナを溜める。


 「これが人間のブレスだ!」


 マナを口に溜めて放つだけの純粋な技術。

 しかし、二つの魔術でブレスが完全に止められており、ブレス攻撃は完全に相手の意表を突いた。


 『ぐああああ!』


 地面に激突する。

 そしてゆっくりと飛んで来る。


 『はは。まさか我がここまで力を使おうと思うとは』


 こっからが本番、そう言わんばかりに体の骨格が変わって行く。

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