第42話 現代かぶれの戦国武将デース!

 そこからなんとか彼女を部屋のベッドで寝かせた両助は自分の部屋に戻った。

 暗い部屋の電気をつけて、おもむろにパソコンを開く。


「………」


 別に暇つぶしではない。しかし、夜更かしはするつもりだった。


 深夜の部屋で彼はそのサイト名を検索した。

 もちろん、目的のものはトップには出てこない。名前は一緒でも全く別のものだ。

 両助は画像欄に飛ぶ。マウスでページの下部へと画面をスクロールする。

 すると指定の画像を見つけた。

 その画像のURLをクリックしてそこにジャンプする。だがまだ足りない。


 画面に映っているのはなんの変哲もない画集だ。特段変わったことは映っていない。そこへ飛ぶにはもう一段階手順がいるのだ。

 画面をスクロールさせる。そうして両助はその画像を見つけ、迷いなくクリックした。次の瞬間、そのサイトへとたどり着いた。


 両助の目に、名前の羅列が飛び込んでくる。

 名前のバーを叩くと、年齢とプレイ内容、場所と日時が浮かび上がる。

 このサイトはマッチングアプリを鋳型とした、そういった趣味の人々が集まるサイトだ。


 ここに登録している人は自ら望んでサイトへと情報を飛ばしている。

 成人した大人であれば、金銭を目的としてなければ問題はない。

 しかし、ここには金銭を目的とした未成年が度々アクセスしてしまっている。


 サイバーポリスの目はまだ届いていない。隠されている上にまだ新設されたばかりのサイトだからだ。

 だが時期に検閲が入り、ここは廃止されるだろう。

 両助は早く調べたかったので、消されないか内心冷や冷やしていたが、まだ残っていて良かった。


 別に両助はそういう感情を発散したいからサイトにアクセスしたわけではない。

 彼の目的は別にある。


 そうして両助はサーチバーにカテゴリー含めてある名前を打ち込んだ。

 そこから数分立ってようやく見つけることが出来た。

 名前を叩いた両助は、「さてと…」とこのふざけたことを行った輩のページへと飛ぶ。


 両助はこいつの別の投稿を見たかったのだ。

 もしも、こいつが名前を知った女子高生を片っ端から登録しているなら、捜査のしようがない。

 しかし、ある程度の法則、つまり区域に指定があるなら足は掴めるかもしれない。


 何?そんな回りくどいことはせず警察に通報しろ?確かにそうだな。だが忘れたか?俺はマントルの下の力持ちだぞ。


 欠落した幸福などいらない。欠員無く掴み取る幸福こそ、輝かしい星空が得られるのだ。

 そもそも清い青春に警察沙汰が混ざるのは嫌だろ?

 悪人すら救ってこそ、俺は俺の目的を達成できる。もう、失うのは嫌なのだ……。

 今度こそ、遍く全てを守ってみせる。

 だがそいつに別の投稿は見られなかった。

 なぜなら……。


『このページは表示できません。ユーザーによって削除されました』


「ハハッ!……」

 その表示に笑いが零れる。


 それもそうだと、己の馬鹿さ加減に呆れを憶えた。

 当然だ。これだけリスクを伴うことをするのだ。警戒して当たり前である。

 その後もそのユーザー名で検索をかけたが、ただ一つの投稿以外は出てこなかった。


 だがこれである程度の仮説は立てられる。


 まずは外部の人間だった場合。しかしこれは可能性が低い。

 こいつはただ一度きりの投稿で敬欄高等学校の生徒を狙った。もしもやたらめったらに女子高生の情報を投稿しているならそれ以前の投稿があるはずだ。


 外部の者であるならば、もう敬欄の生徒が狙われる心配もない。

 ただ一度の事件でピりついた学校に二度の爆弾を投入しようとは思わないだろう。

 何よりことが大きくなり、警察の捜査が苛烈になる。警戒度の上昇も自身の不利益を被る。次に狙うとすれば、他県、それも遠方の生徒だろう。


 …まあ、こいつが警戒心の高い奴で、投稿してはアカウントを消して作ってを繰り返している奴なら話は別だが、それでも、さすがに二度目の襲撃はないだろう。


 警戒するに越したことはないが、さすがに三百六十五日警戒し続けるのはこたえる。何よりこいつが事情あって敬欄を恨んでいるなら、もう無理だ。

 そうであれば、在学中の生徒と教師、加えて過去の卒業生に教師、これから入学するであろう生徒、全ての情報を洗い出さなければならない。

 さすがにその巨大な捜査範囲は両助には手が余る。それこそ警察の出番だ。

 しかし、それは最後の手段にしたい。


 次に内部の人間だった場合。これはちょっとまずい。

 外部の人間に比べて事件の再発が高い上に、明確に学校から欠員が出てしまう。

 誰かがいなくなるのは、もう本当に嫌なのだ。


 両助は原因を過去、現在、未来と区分し、思考を回す。

 まずは未来、これはちょっと、というかさすがに馬鹿げた話なのでカット。

 そんなSF作品でもあるまいに、未来からの復讐者など、原因の探りようがないし、何よりあり得ない。


 次に現在、これは一学年が犯行者である確率が高いと考えた。

 上級生の女生徒は違うと考えた。

 なぜならあいつは入学早々から進藤にべったりだった。

 何をするにもあいつの横には進藤がいた。

 だから上級生に嫉妬にかられた(彼氏の気が移り、振られた)女生徒がいる可能性は低い。

 まあ、その彼氏君が寝取り趣味があったなら話は別だが、それはもう執着せずそのまま別れた方が良いのではないか?

 上級生の男子生徒も違う。そうであるならば対象が進藤になるはずだ。

 宝を手に入れるために、宝を傷つける盗賊がいるものか。そんな人格破綻者である可能性も著しく低い。

 よって一学年の生徒が、進藤を取られたから、または男子に羨望の眼差しを当てられるため、それを良く思わなかった生徒が行った可能性が高い。


 最後に過去、これは正直に言ってあり得るかもしれないがお手上げ出る。

 しかし妙だ。

 ならなぜその時に犯行を行わなかった?

 なぜわざわざ高校入学を待って計画を実行した?

 狙われた対象の過去を知らない両助にとっては、それは迷宮入りだった。

 だが今では、過去の要因より現在の要因である方が納得できるのだ。

 しかし、ここで確定してはいけない。

 今までは準備をしていたのだと、力を溜めていたのだ、という過去の要因であることもあり得るのだ。


「いいぜ、やってやるよ…」


 両助は光るパソコンを見つめ、顔も知らない誰かに宣戦布告する。

 それは罪の贖いであり、後悔の切除であり、守りたいという強欲である。

 だが彼はそれら全てを進む活力に変え、意気込んだ。


「壊せるもんなら壊してみやがれ」


 お前が青春の地盤を壊すというのなら、その下にいる番人が崩した土台ごと支えてみせよう。

 俺が誰かって?俺はマントルの下の力持ちだ。


「フフフ、……フフフ…ハーハァッハハッハハハハッアアアハハッ!」


 バンッ!

 突如、右の壁から音が響く。


「おにいッ!うるさいッ!」


 そんな怒声と共に。


「あ、ごめんなさい」


 両助はみっともなくも素直に謝ったのであった。うぅ~、締まらないよぉ~。

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