第43話 NTRとBSSを撲滅するためには彼方君が巨根になるしか………。

敬欄高等学校、通学路————————


「彼方~、待ってよ~」

「…ああ、静香」


 桜の花びらが舞い落ちて、薄い青葉が咲き始めた今日この頃。

 俺、末藤すえどう彼方かなたは高校二年の新生活への期待に未だ心躍らせていた。


 今俺に手を振り、走り寄って来たのは波風なみかぜ静香しずか、俺の幼馴染であり恋人だ。

 彼女は俺の横に来ると笑みを浮かべる。

 付き合って一年になるが、彼女を可愛くないと思った時は一度もない。

 なんたって十四年来の初恋を成就させたのだ。特別感も段違いだ。


 俺達は少し照れながらも互いの手を重ねる。

 その照れた顔も、またこちらの胸を締め付けてくる。

 なんの変哲もない通学路、それが彼女の存在が加わるだけでこんなにも輝いて見えるのか。

 俺はその素晴らしき光景に鼓動を速めながら、彼女と共に道を進む。


 初めは幼馴染という関係を壊したくなかったから中々告白に踏み込めなかったが、勇気を振り絞った甲斐があった。

 少し間に鬱屈とした日々とは一転して晴れやかな日々を送っている。


 お互いに今日の予定や談笑をしながら仲睦まじく歩いていると、背後から俺達を肩で抱き寄せる大男が……。

 それに驚きながらも、振り返ると彼がいた。


「よっ!お二人さん!今日もお熱いね!」

「猛………」


 彼の名は佐藤さとうたける、バスケ部の次期主将だ。

 体格も見上げるほど大きく、見た目のチャラさも相まって怖い印象を憶えるが、話してみると良い奴だ。


「やめろよ、ビックリしたじゃないか…」

「すまんすまん、あまりにも仲がいいもんだから思わず茶々入れちまった」


 その言葉に静香は彼方の腕に絡みつき、猛に言葉を吐く。


「仲が良いのは当たり前だよ!だって私達付き合ってるもの!ねえ、彼方」

「う、うん」


 付き合ってからなんだか静香のボディタッチが増えた気する。

 自分だけだと思っていたが、彼女も抑えていたモノがあったとわかるとなんだかうれしい気持ちになった。


「あーあ、畜生ッ!やっぱ、妬けるねえ、二人とも!」


 俺たち三人は親友だ。猛とだけは高校来の付き合いだが、まるで幼少からの付き合いのように仲が良い。

 俺達が付き合い始めてもそれは変わらなかった。

 猛も俺達に見切りをつけなかったあたり、やっぱりいい奴だ。


 瑞々しくも歩きなれた通学路を俺達三人は今日も歩く。

 おそらく俺達は離れ離れになっても、この絆がなくなることはないだろう。

 大人になっても、三人手を取り合ってる光景が容易に浮かぶ。


(見ていてくれ猛、静香は必ず俺が幸せにするよ…)


 そう決意したところで、重要なことを思い出した。

 今朝鞄に体操服を入れるのを忘れていた。

 猛に借りることは出来ない。なぜなら俺達は三人とも同じクラスなのだ。


 幸運なことに敬欄から自宅はほど近い。

 走れば遅刻することなく間に合う距離だ。

 俺は二人に忘れ物がある胸を伝えて、先に行ってるように言った。


「…………」

「…………」


 静香を離れることは苦痛であったが、どうせまた学校すぐに会えるのだ。

 その上、なんたって俺の彼女だ。

 俺はこんなにもかわいい女の子が自分の彼女である幸運を噛みしめて自宅に戻った。



敬欄高等学校、通学路————————


 欠伸を噛みしめながら通学路を歩く両助。

 彼は昨日から調べものばかりでろくに眠っていなかった。

 青菜が芽吹こうとしている活気ある道の真ん中に何とも、身の締まらない男が歩いてる。

 両助は桜が散ったことを寂しく思いながらも、学校へと向かっていた。


(さて、うちにいるとすれば……)


 初めにどう動くのか…。と考えた。

 だが、この前のような事態になる可能性は低いだろう。

 さすがに学校敷地内に強姦魔など送れるはずがない。

 何より学校の警備システムが作動して、即刻ブタ箱行きだろう。

 あるとしても、その時、その状態で対処可能なモノのはずだと、両助は考えていた。

 平凡な学校のど真ん中で突然、尊厳を失わせるようなことは早々起こらない。


(その……はずだよな?)


 枯れた桜の花びらが少し見える道で、自身の考えに疑問を持ってしまった。

 何を言おう、最悪の光景が良き出来てしまったのだ。

 想像してみてくれ、もしも主犯が彼女の昼食に下剤を混ぜて、その屈辱的な姿を皆に晒す結末を。

 俺だったらもう学校来れねえな。つか、どんだけ恨んでるんだよ。そいつ。いや、まだ起こったわけじゃないけど……。


「ん?」


 朝から汚い妄想をしながらも足を動かしていた両助は、傍らで何やら異常を感じ取った。そこは家と家の間、薄暗い外れ道だ。

 そこから何やら男女の声が聞こえる。何やらもめているようだ。


 両助の中で警鐘が鳴る。これはまさか……。


この前の事もある。間を置かずに一気に攻めに来た可能性もあった。

だが両助ははやる気持ちを一旦抑えて、様子を見ることにした。


もしかすれば相手からボロが出るかもしれない。さすがに不味くなればすぐにでも飛び出すが、相手が使い捨ての駒で無かった場合は収穫になる。

だが両助の心配は必要なかった。


顔を少し覗かせて目に入った光景は、不審者に襲われる女生徒の姿ではなかった。

どちらも敬徳の制服を着た生徒同士のいざこざだった。


それを見た両助はなんだかがっかりした気持ちになってその場を去ろうとした。

ただの色恋沙汰なら両助の知ったことではない。それは本人たちの問題だ。むしろ部外者は関わるべきではない。

そう考えて、再び学校へ向かおうとした両助だったが彼は耳に入った会話に足を止めた。


「だ、だめ……わ、私には彼方が……」


 その言葉に再び視線が外れ道に引き戻される。

 見ると男の方が女生徒を壁に押しつけて迫っていた。


「そう言って、抵抗してるようには見えないぜ?」

「ち、違うのッ!」


 抵抗したがその力に押し負ける。女生徒は男子生徒にもっと壁に追い込まれる。


「本当はこれが欲しいんだろ?昨日だってあんなに……」

「あ♡」


 男子生徒が股間の膨張したそれを女生徒に押し付けると、彼女はまんざらでもなさそうな声を上げた。むしろ喜んでいるとさえ思える。

 そうして直後、二人の生徒は野外で乱れる。

 おっと、これは……。


 うん、余計なお節介だろうが関係ない。ていうか俺が見てて気分が悪くなってきた。様子するに、これはあれだ。


 ヨシッ!飛び込むことにしようッ!


 だが策もなく飛び込むはずはない。襲われた女の子を助けるという体でいこう。それなら後から言い訳が効く。

 どんなに誤解を解いてこようが、大声を上げて黙らせてやる。沈黙するまで殴り続ける。

 学校から事情を聴かれようが、「いや、俺は襲われてると思って、助けようと必死で…」と通せばよい。


 まずは個人的な理由であるが、皆を支える者として純愛をNTRする輩を排除しよう。

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