第二章 肉体改造と音楽の祭日

第44話 戻った学園生活

「あ!今朝男子生徒に暴行を加えた影峰両助君だ!おはよう!」

「イヤイヤ、シラナカッタンダヨ」


 いつもとかわらない様子の啓介が、両助を出迎えた。

 時間はホームルーム後の一限開始前だ。


「両助って、先走るところあるよね~」


 こともなげに告げる啓介の様子から、そこまで悪い印象はなかった。

 生活指導室で説教をくらっていた両助は、澤野先生がどんな説明をしたのかわからなかったが、問題はないのでそれでいいことにした。


「リョッチー!女の子助けたんだって、やるねえ!」

「麗奈ちゃん、先生が言ってたじゃないですか。勘違いだったって。

 ……最初に聞いた時には心配しましたが、元気そうでよかったです」


 佐伯さんを嗜める楠木さん、二人は席に着いた両助に寄ってきた。

 そこからは何の気なしに、会話を続けた。

 啓介が最近、部活で腕が落ちて来たから食事を増やしたことだとか、「食べるだけじゃ意味ないじゃん」という佐伯さんのツッコミ、佐伯さんと楠木さんが昨日放送されたドラマの話に移ると両助もそれに混ざる。啓介は「何それ?」という感じだったが、「昨日一緒に見たじゃん」と玲が加わる。

 啓介は興味はないなりにも、知ろうとはしており、佐伯さんのおおざっぱなあらすじにも、適度に反応を示した。


 そんな窓際五人の朝の風景の反対側、教室の入り口付近の席で、二人の男女も会話を始めた。

 校則ギリギリまでスカート丈を上げている白石さんは、これから寝始めようと、組んだ腕に突っ伏す淳也に言葉を投げた。


「デカ男。あっち、行かなくていいの?」

「良いよお。どうせ昼で一緒になるし。それじゃあ、おやすみ~」


 腕に頭を預けて、夢の世界へと旅立とうとする淳也。


「あんた、寝てばっかじゃん」

「寝る子は育つ」


 捨て言葉を最後に、寝息を立て始めた淳也。

 授業のほとんどを睡眠で過ごす淳也、事なかれ主義の彼。これまでの彼の学業ボイコットがなんとかなっているのは、白石さんの存在が大きい。


 当てられれば、足先で太腿を蹴って、答えを教えてくれる。

 そんな献身性の高い、白石さんなのである。


 そこから、教室の前方右側。

 入学式以後、両助と関りが激減した星野内海がグループで談笑していた。しかし、その内容は、それほど平和的ではなかった。


「影峰くんって、今朝二年生に襲い掛かったんでしょ?

 佐伯さんたち、危なくない?」

「わたし、あんまり話したことないな。

 正直、わかんないからちょっと不気味。」


 他ふたりが両助たちの方向に不安を向ける、その様子を見守っていた内海は、安心させるようにフォローした。


「考え過ぎだよ。あいつ、手を出すようなヤツじゃないよ」


 その擁護に、首を傾けた友人は、


「あれ?うっちーって、影峰くんと面識あった?中学一緒?」

「ああ、うん。でもそこまで長くない。たまたま受験期間で知り合っただけ、数か月の付き合いだよ」


 内海が両助と初めて会ったのは、図書館だ。

 受験勉強で訪れた時に、偶然知り合った。そこから、友に勉強する(一方的に教える)関係になった。


 しかし、内海の発言にも、ふたりは納得はしなかった。

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