第31話 話は広げることを意識しましょう。
正午前、広場、BBQ場————————
茶屋から商店街を数か所回った両助達は、島の外側、海岸沿いを進み、太平洋を見渡せる浜辺の広場に着いた。
ここが今日の昼食、BBQをする場所だ。
元々ここはただの広場ではなく、その用途のためのキャンプ場だ。
学校がすでに申請を出しているため、木製のテラスにはドラムコンロ、炭、トングはすでに用意されていた。
海を一望しながら食事を楽しめるとは中々粋ではないか。
キャンプ場に来るため沿岸を通った俺達は、その景色にそれはもう感動したものだ。
啓介と佐伯さんなんてずっとパシャパシャ写真を撮っていた。
左では波打つ海に中天に上る前の太陽の光が反射し、右では生命が跋扈する森林、そんな道を通りながら両助達はここに来た。
そうして自分達の班のテラスに着いた両助は皆のためにキャンプ場の管理局から材料を取りに行っていた。
「影峰」
その道中に伊藤さんと会った。
両助と同じ方角に向かうということは、彼女も目的は同じはずだ。
両助と伊藤天音は自分達の班の材料を取りに行く。
木々が点在する広場を歩く。
ここは栄えている街とは違い自然が多いからだろうか、シカの数が多い。
見ると玲がむしった草をシカの口に運んでやっている。
すげえな、あいつ。普通シカ逃げるだろ。
それともあの個体だけ警戒心が低いのか、玲に触られるがままだ。
ここはキャンプ場だ。これまでの観光客がシカにBBQに添えられた野菜をよく与えるため、それが刷り込まれてしまったのだろう。
あいつらは野菜が食えて、俺達は肉だけが食える。何だこれ、WINWINの関係じゃないか。
平原の中央、整備された道を歩き、両助は目的地を目指す。
本日の天気はとても良好だ。
雲一つない青空、中天に向かう太陽、広がる大自然。
この景色は両助にとっては見飽きたものだが、旅行という要素が加わるとなぜか違うものに見えてくる。
テラスがあるのは両助にとって都合が良かった。
でないと目の前のBBQの熱と上から注がれる暑さにやられていた。
歩くこと数分、両助はそこでちらりと伊藤天音を見た。
(なんで何も話さないの?)
束ねた長髪を肩に掛け、扇情的な私服でいる彼女は両助の横を歩く。
普段は制服で隠れていたが、今回は肌の露出が多い。
ダンサーだからプロポーションも良いせいだろうか、それは高校生が出す色気ではなかった。
あれ?この人俺と歳一緒だよな?
明らかに年齢を偽っているような伊藤と歩く両助、傍から見れば姉と弟だと思われるだろう。
そんな偽の姉弟は目的地を発見し、自動ドアを通過する。
受付からラップの敷かれたそれをひとつ伊藤に渡した両助。
「ありがと」
続いて自身の物を持った両助は伊藤と共に元来た道を戻る。
来た時と変わりなく、日差しが照り付ける高原に歩む二人。
(何か用があって同行したんだよな?)
両助も伊藤と同じく無言で、彼女に疑問をぶつける。
ここまで言の葉ひとつ発さない彼女に、両助は原因を探す。
(え?これ俺が悪いの?)
そんなに重たい空気出してるの?と、いつまで経っても用件を言わない彼女により、そう自身を疑う。
もしかして特に何の用もなく同行した?
そう考えるが、即座に否定する。
そんなはずはない。だって両助は彼女とそこまで親密でもなければつながりもない。俺が何か気に障るようなことをした?
自身のこれまでの高校生活を顧みるが、彼女を激怒させるようなことは行っていない。
啓介に用がある?それとも淳也?
そうかもしれない。両助が知らないだけで、彼ら、もしくはどちらかと何か関係を持っているのかも。
だが伊藤天音は横の同級生がそんなことを考えているとも知らずに無言で歩いていた。
現在の両助はあまりの予測のしようのなさからまるで針山を歩いているような錯覚を覚えた。
だが、その痛みからはすぐに解放された。
もうすでに班のテラスが見える付近に来ていた。
それを見た伊藤天音は影峰に「じゃあ」と言うとそのまま去っていった。
「本当に何も考えてなかったのか…」
両助はずっと考え続けていた自分がバカらしくなり項垂れながら啓介達の下へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます