第16話 始まりたての学校生活の帰り道、あの言葉に出来ない切なさって一体何?

 そうして本日の提出物を渡し終えた両助は長い帰り道を進んだ。


 初めは部活動を楽しみにしていたが、通学時間の問題があった。

 ただでさえ帰る時間が遅いのに、部活動なんてやってしまえば、帰るのは夜更けだ。


 だから入学が決まって立地が分かった時は肩を落としたものだ。

 でも、仕方ないじゃん。

 勉学を犠牲にすれば、参加できない事はないが、さすがにそれは親への負担が凄いことになってしまう可能性はあるので諦めることにした。


 職員室から来た道を戻り、教室にある鞄を持って学校を後にした。

 下駄箱でローファーを履き、校門を抜けて桜並木の道を歩く。


 ここで彼方の空が赤く染まっていれば大変すばらしい景色を拝めただろうが、まだ時間が早かったようだ。


 部活に所属していない啓介がそれを拝めるのは寒い冬場だろう。それだと遅い。その時には桜の木は葉を失い、みすぼらしい姿を晒している頃だ。


 まだ、明るさが陰る予兆を感じさせない帰宅路、昼夜の狭間にはまだ早い道を往く。

 零れ落ちる桜の花びら、少しすると青葉を咲かせることだろう。

 そうなれば夏の訪れの知らせ、季節は回る。


(その時には俺は誰かを支えることは出来ているのか?)


 その過ぎ行く時を想像した時、友の問題が思い浮んだ。

 彼らも柔道に真剣。皆が楽しむ一時を犠牲にするほどに。


 未練なく、淳也のように進んで犠牲にしているなら特に言う事はない。

 両助は彼らに望む生活をさせてやりたいのだ。自分からであったなら問題はなかった。

 だが……。


“『い~や~だ~。俺も行きたい~』”


 だが彼は望んでいた。そのただ一度の一時を。

 もちろん、どうしようもなくなれば、大人しくその時を明け渡すだろう。文句を言わないのが何よりの証拠だ。


 しかし、その捨てた後悔は永遠に残り続けるだろう。

 そこで思考を回し、両助の胸の内に不安が駆け巡る。


(本当に出来るのか?今だ、友二人すら支えられぬ自分なんかに……)


 このままでは彼らはその尊い一時を逃してしまう。何か良い手段はないものか…。

 何か……出来ることはないか…。


 両助は思考を巡らせながら、駅まで歩き、長い帰り道に揺られた。

 そうして華々しい高校生活の二日目が終了する。

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