第15話 隣人はよく話せば、実はすごい人だったりする。

敬欄高等学校、放課後————————


(本当に外れくじ引いたな)


 本日の終了に浮かれる者、部活動の開始に喜ぶ者で賑わう廊下にて、沢野先生に頼まれた回収物を運んでいた両助はそう心の中で独り言ちていた。

 最初の授業には形式上、担当教員と生徒の中を深めるため、自己紹介シートなる物が配られた。全く、小学生でもあるまいし。


 だが、それもあくまで形式上だ。

 沢野先生も適当でいいと言っていた。まあ、一番上の足立さんは真面目に書いているが。

 手元の集めた上から二番目の奴は安土あづち平唯ひらゆいと名前だけ書いて、特技は特になしときた。

 うん、適当。


 好奇心からちらりと一枚下の紙を見る。

 どうせ適当だ。たいしたことは書いていない。だから見てもさして問題のない物だろうとページをめくるように紙を持ち上げた。

 見てみると、意外にも文章が多かった。


 悪いとは思ったが、ここまで多くを書く内容に興味が引かれ、確認する。

 伊藤いとう天音あまね、特技はダンス、更に書いてある内容を確認すると、両助でも知っているほどのダンスグループのバックダンサーの経験があると書かれていた。


(ええ~、もったいな)


 伊藤さんってあの人だろ?いつも窓際で一人いるあの人だろ?あまりにもしゃべらない近寄りがたさから皆から孤立気味なあの人だろ?


 こんなおもしろい内容があるなら、これを皮切りにいくらでも話題は上げられるだろうに。黙っているなんて非常にもったいない。

 いつも黙っているからあまり人と話したがらない人なのかと親近感を湧かせていたが、ここにそれを書くぐらいなんだから多分自分とは違う人種だろう。おそらくただの恥ずかしがり屋だ。


 それも非常にもったいない。クールな見た目に反してその属性まで付与されれば、騒ぎたがりの奴らはいくらでも食いつく。特に男共は。


 もう手遅れだと思ったが、それ以上見るのはなんだが罪悪感があるので目的地に向かう。教室のある別連棟から渡り廊下を経由して職員室のある本校舎に移動する。

 渡り廊下を向けた三階から職員室のある一階へ階段を下りる、

 そこは三年の校舎なので、一人ネクタイの色の違う両助の居心地と肩身は狭い。

 場違い感がね、凄いんだこれが。


 そこにいるのは辛いので、少々歩調も早まる。

 小走りになりながらも、ようやくそこに着いた。

 実際には一分にも満たない時間だったが、凄く長く感じた、これが相対性理論!

 ………何を馬鹿なことを言っているのか、俺は。


 そうして目前にある扉をノックして、職員室へと足を踏み入れる。

 ノックに返ってくる声を確認して、扉を開き、「失礼します」とその場に自身の存在を知らせる。


 沢野先生に提出物があるという旨を伝えて、彼のデスクに向かう。

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