第30話 変な沈黙で可笑しくなるのはなぜだろう。

 そうして淳也と白石さんが見つけた茶屋を訪れた六人。

 茶屋と言っても本格的な畳とふすまがあるような空間ではなく、赤く光沢加工の施された石膏に座り、先にある庭園を眺める休憩スペースだ。


 内装も完全な和風ではなく、石畳の床に白い壁、白い壁は庭園にのみ意識を向けるようにする工夫だろうか。

 内装に唯一、和の要素があるとすれば、椅子の中央にある生け花だろうか。

 この店の名物はパイ饅頭。なんでもパイの中に饅頭を入れた物らしい。


 当然、啓介はそれを一つと茶を、それにつられて好奇心で皆同じものを買ってしまった。仲良しか!

 饅頭の味は啓介、淳也、白石さんがあずき、佐伯さんと楠木さんがクリーム、両助はチョコだ。


 淳也がトレイで購入したものを持っていき、皆で席に着く。

 パイ饅頭なるものを口に運ぶ。

 外はパイの皮でサクサクの食感、中には饅頭の柔らかな食感とチョコの甘みが口の中に広がる。

 食レポの定型文のような外はサクサク、中はふわふわだった。

 口直しに茶を啜る。甘いものの後に飲む茶は格別だった。


「「「「「「…………………………」」」」」」


 室内にはあの音が響いている。

 ほら、あれだ。名を何だったか…カコーンと鳴るやつ。

 両助は知識を漁るが、中々その名を当てられずにいた。

 ほらあれ、流れ出てくる水を取り込み、その重さで落下した竹が岩にぶつかり子気味いい音を鳴らすあの……あのなんだ?装飾?

 やっぱりどう考えようが思い出すことは出来なかった。

 そのため両助は携帯で調べる。


「……」

「「「「「…………………………」」」」」


(ええ、『茶屋、竹』)


 両助は画面をタップしその文字を検索エンジンに掛けて調べた。

 だが、目的の物は出てこなかった。出てきたのは竹製の壁としきり、後は竹林に佇む茶屋だけだ。


(あれ?出てこないな。…ええ『茶屋、竹、水』)

「「「「「…………………………」」」」」


 今度は近しい物が出てきた。だが惜しい。

 両助が求めているのは軽快な音を出すものだ。ただ竹から水を流すものではない。

 しかし、これを見るに確実に前進している。

 何より形がもうほぼそれなのだ。おそらく次で出てくる。


(ええ、『茶屋、竹、水、岩』)

「「「「「…………………………」」」」」


 すると望ましい画像が出てきた。

 複数枚の組み合わせた画像を見ると、竹の口が上に下に行き来している。そうそうこのカコカコ鳴るヤツ。


(ええっと、名前は……)

「「「「「…………………………」」」」」


 両助はその画僧をタップして記事を見る。

 最初の長ったらしい挨拶などいらんいらんと下にスワイプし、それを探す。

 そうしてようやくそれを見つけることが出来た。

 そこで胸の中のつっかえが取れる。清々しいほどにスッキリした。


 そうか、あの装置の名前は「ししおどし」と言うのか……。

 漢字で書くと「鹿威し」、その漢字を見て、ししなのにしか?、と疑問が浮かぶ。

 ここで話す話題を思い付いたと、仲間たちに会話を振ろうとする。特に楠木さんに。


 先程は相当に無礼を働いたのだ。今度は「あの鹿威しってやつ、ししなのにしかなんて不思議だね!」と、その内容を皮切りに博識少女こと楠木さんとの関係を取り戻そうとしたところでその異変に気付く。


「……」

「「「「「…………………………」」」」」


 皆、茶を飲み、菓子を食べる、しかも無言で。

 なんか皆、浸食されてない?淳也に。


 そこでこの脱力の感染源である淳也の緩み切った顔を見て思い付く、いや思い出した。こいつを初め見たときから、何かに似ていると思ったのだ。

 だが中々に繋がらないものだから、思考の隅に追いやっていたがここでようやく脳裏にその動物の写真が出てきた。


 うん、こいつの雰囲気、ナマケモノに似てるわ。


 ああ、クソ。それよりかは絶対に速いはずなのに、もう速度がそれにしか見えん。お茶を口に運ぶ速度がめっちゃ遅い気がする。絶対にそんなはずないのに。


 こいつこの性格でよく柔道なんて出来るな。何お前?本当に戦ってるの?


 だが、そんなはずはないと理性が否定する。どうにかしてこじつけようとする。

 逆にこの自分を貫くことが強みになってるのか?動かざること山の如し的な?この不動な様相で心も不動である的な?一体どこの拳禅一如だよ。


 両助はこの雰囲気に慣れようとしたが、この独特な空気に耐えきれず吹き出しそうになる。


 そこで一旦心を落ち着かせ、彼らにツッコむのであった。


「…………いや、和み過ぎな」

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