第33話 BBQでデザートを持ってきてくれたM君は女子に大人気でした。
そうして準備を終えた俺達(二人を除いて)は支給された食料を焼いて行き、昼食を取っていた。
焼きあがった肉を口に運んだ彼女は第一声を上げる。
「おいしー!」
焼きあがったお肉を食べた佐伯さんの声がテラスに響く。
白石さんの尽力あり、いち早く昼食にありつけた両助達。
他より早いものだから、様子を見に来た沢野先生が「なんだ、出来たんだ。ちぇ、知識ひけらかしたかったのに」と言って別のグループの所に消えていった。ちょっと沢野先生、あなた大人でしょ…。
啓介も肉を焼き始める頃には鍋を持って戻ってきていた。
時間が運よく噛みあったようだ。
啓介は要望者の紙皿に米をよそう。
「ん?おい啓介」
俺も白米を貰いたかったから紙皿を受け取った。
啓介は笑顔で両助に差し出した。
差しだされたものだから、よく確認もせずそれを受け取った両助。
両助もそこまでのアホではない。すぐにそれに気づいた。
紙皿から感じる質量があまりにも軽かったのだ。
「啓介、俺の、なんか少なくないか?」
「……いや、気のせいじゃないか。同じだ、同じ」
「ふざけんじゃねえ!明らかにお前の方が多いじゃねえか!」
「何を言ってるんだ両助。お前も普段の俺を見てるだろ?俺はたくさん食べるんだ。お前より量が多くても不思議じゃない」
「限度ってもんがあるだろ、限度が!これじゃあ、ネタ抜きの寿司米じゃねえか!」
その通りで両助の紙皿には親指より少し大きいぐらいの量しか乗っていなかった。
なんでこれが通用すると思ったんだよ……。
こんなふざけた量が納得できるはずもなく、啓介に言葉をぶつける両助。
「どうせここにあるやつ全部食ったとしても、お前腹空かせるだろ!じゃあ、せめて俺の腹を満たせ!」
そう言って鍋から米を強奪しようとしたが、啓介は頑として譲らなかった。
両助が伸ばした手から鍋を庇うように啓介は体で守る。
「嫌だ!これは俺んだ!」
友でありながらなんと食い意地の張ったことか。それを抜いたら無個性になるのだとしても執着し過ぎだぞ。
「このままだと二人とも死ぬんだ。ならせめて片方を生き残らせようとは思わないのか⁉」
「盗られるくらいならその方がマシだ!俺と一緒に死んでくれ両助!」
「お、お前、俺を道連れにする気か⁉」
「何バカやってんの、あんたら…」
白石さんの言葉で正気に戻った両助と啓介、両助は大人しく啓介から米をよそってもらい、ベンチに腰掛ける。
そこで食事は進む。
少しの雑談を交えながら、皆昼食に勤しんでいた。
俺達は米を紙皿で食べていたが、啓介は鍋を皿として食べていた。こいつおかわりさせずに全部一人で食う気だな…。
基本的には俺と白石さんが肉と野菜を焼き、皆は食べる専門。
この焼き係は、自身の食うタイミングが中々難しく、気づけば食べるタイミングを無くしてしまう。しかも、食べられる頃にはもう肉は冷めてると来た。
なんとか自分の物を確保しながら、会話に混ざる。
「昼からはどこ行くー?」
「まだ回ってないところはありましたかね?」
佐伯さんと楠木さんが話す。楠木さんの質問に佐伯さんが携帯で調べ始めた。
「じゃあ、私次ここ行きたい!」
佐伯さんは自身のスマホの画面を皆に見せる。そこは紅葉が綺麗な景色の公園だった。
そこから少し調べると、なんでもこの島の有名な観光名所だった。
「結構島の奥地ですね。時間までに帰ってこれるでしょうか。それに季節が…」
「あ、そっか。でもさ、この季節でもきっと綺麗だよ。ほら、赤い景色じゃなくても、なんだが乙じゃない?」
「ふっ、誰がそんな馬鹿なことを…」
「でも君はそんな馬鹿だろ?」
「ああ、そうだ!だから行くね!」
「たまになるお前達のその空気はなんだ?」
両助が啓介と佐伯さんの不思議なやり取りを訝しんだ。
目的地も決まったことだ。次はそこへ行くルートを決める。
地図を見ていた佐伯さんは島を横断する直線コースを提案する。
「この自然道を使えば、すぐ行けるみたいだよ。ちょうど対角線上に街もあるし、そのまま下るだけでフェリー乗り場に戻れる」
確かに佐伯さんの言う通り、そのルートは最短だ。時間を考えれば最善と言える。
しかし、その道には俺達にとって問題があった。
その問題は楠木さんも気づいたようだ。
「…この道は山道ですね。私は問題ありませんが、白石さんはヒールサンダルです。歩くのがきついと思います」
「こっちに来た時と同じように海岸の整備された道を通って表側に戻ろう。そっちの方が山道を通る距離も短いし、安全だ」
楠木さんと両助の提案に佐伯さんは納得する。さすがに彼女も危険を冒してまで時間を優先したいわけではない。
「そうだね。そっちがいいか……」
そうして次の目的地と行き方が決定したところで、皆が昼食を食べ終えた。
皆が後片付けをしようと腰を上げた時、啓介が「待って!」と全員を止める。
「デザート食べる?」
「「「食べる」」」
啓介が来た時より軽くなった鞄から果物の入ったタッパーを出してこちらに差し出す。
彼はフェリーの時と同じく寿司のざんまいのようなポーズで差し出し、顔には皺を寄せて小太りの店長ポイ顔になっている。それ気に入ってんの?
それに秒を置かずに答えた佐伯さん、両助、淳也はそれを戴いたのだ。ついでに流れで残り二人も。
啓介、なんていい奴なんだ。自分は空腹なのに、それを俺達に分けてくれるなんて…。
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