第2話 お早いご帰宅で……
そうして数分後、そこでまた会話が再開される。
『ねえ』
数分前まで会話をしていた画面に新たな文字が浮き上がる。
それは、なんだかの力持ちになるだとほざいていた者と、それを冷静に見守っていた者の会話だ。
『ねえ』
さっきまで返しが来ていたのに今回は遅い。
ねえ、寂しいじゃん。話相手になってよ…。
そう願ったところで、返信が来た。
数分ぶりの帰還を特に驚いた様子もなく、自然と返す彼女。
『何?眠いんだけど』
おっと寝ていたのか。だがそれはいただけないのではないか?昨日夜更かしでもした?睡眠不足は美容の大敵だぞ?
若いうちは良いが、年を重ねるごとにその習慣が抜けきらないと顔のしわが凄いことになるというではないか。
いや、そんな事を考えている場合ではない。俺はコイツに抗議しなければならない。
『正門閉まってるんだけど……』
学校に着いた彼は入校すべく、門に向かったが、誘導のため出迎える教師はおろか、人っ子一人いなかった。
外から見た校舎内部も静けさが支配していた。
うちの図書館は少しお洒落で一部の壁が全面ガラス張りなのだ。図書館内部より見渡す景色は、それはもう綺麗で目前には綺麗な河川が流れている。
しかしそんな洒落た図書館にあるのは椅子と机だけ、人の気配など微塵もなかった。
時間が早すぎたのかと思い、少し待つが変わる様子は一向に訪れなかった。
『当たり前じゃん』
それを見た瞬間にスタンプを連投する。
溢れる動揺を隠せなかったからだ。
そのスタンプの内容は古代文明に生活していたシュメール人のような黒目の大きな人物がこちらを凝視し、「どういうこと?」と言っているものである。
シュメール人がわからないという人はテ○フォー○ーズのゴキブリのような目の形をした人と考えればよい。それがじっとこちらを見つめているのだ。
連想したか?気持ち悪いだろう。俺もそう思い。インパクトがあるので気に入ってはいるがね。
まあひとまずそれは置いといて、その文字の羅列に嫌な予感がした。
まあ、薄々気づいてもいたが、そんな馬鹿なことを認められずにいたのだ。
俺は別の回答を願ったが、容赦なく答えは下された。
『だって入学式明日じゃん』
その返信に肩の力が抜けた。
先程まで気張っていたのが、馬鹿みたい…ではなく馬鹿だ。
俺は自尊心を保つため、己に非が完全にあるとわかっていながら抗議する。
『言ってくれても良かったじゃん…』
『正直、カモがどうたらって言ってたところで気付いた』
『ならやっぱり言ってくれても良かったじゃん……』
俺やっぱりこいつのことキライかも…。
なんて意地悪な女なんだ。
こんな扱い、ゾクゾクす———じゃない屈辱的だ。
だが彼女はそんな八つ当たりなどどこ吹く風と言うように、文字を浮かべるのであった。
『世はなべてこともなし』
どういうこっちゃ……。
俺は肩を落としながら、一時間半かけて来た道を戻るのであった。
帰った俺を見た母は大変呆れたものだ。ひん‥‥‥‥。
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