第11話 自分の時と違う反応されるとショックじゃない?
いやむしろ、それは悪夢だった。
完成された人形のような足立の表情が一変し、人懐っこいものに変わる。
足立はにかッと笑みを浮かべ、己が相棒となる者を探す。
「それじゃあ、私とクラス委員やってくれる人、いますかー?」
北極圏から南国の楽園へと印象ががらりと変わった。
それはギャップというのか、その笑顔で彼女は万民の心を鷲掴みにしたのだ。
(あれ?足立さん?あなたもしかして俺にだけ当たりが強い?)
昨日とは変わり果てた女性に、その考えが浮かぶ。
確かに初見はこちらの不手際で不機嫌にさせてしまっただろう。少し馴れ馴れしかったとも反省している。しかし、それにしてもだと思うが…。
だが新たな問題が生まれた。
教室の人間(男子)がお互いを目線で牽制し合う。
それもそのはず、ここで立候補すれば彼女とお近づきになれるのだ。
しかし、我先にと立ち上がろうものなら間違いなく残りの学園生活を男共にめった刺しにされるだろう。
それともう一つ男子高生にありきたりな、思春期の男の子が有するお悩みもある。
はたして自分と彼女が釣り合うのか、ここで勢いよく手を上げると皆にこの気を悟られるのではないかとという事だ。
触れればこちらの腕ごと噛みちぎる勢いの張りつめた空気が場を支配する。
見てみろ。啓介なんて歯をむき出しにして威嚇している。
それだけ皆、必死なのだ。なんとしてでもあの座だけは手に入れなければと。
動くことが許されざるその異界で、お互いがにらみ合っていた。
だが、終止符は打たれた。
「じゃあ、俺がやるよ」
全員の視線がそこに集まる。
この状況で手を上げる命知らず、己が立場を弁えぬ不届き者の姿を、その両目で収めた。
しかし、その視線はすぐに自身の手へと俯かせられる。
なぜか?怨敵だぞ?と思われるが、それも仕方がないのだ。
ほら、啓介なんて「殺してやる!」って首を回転させたが、その姿を見た瞬間借りてきた猫のようになり委縮し始めた。
彼らはその容姿を一目見た瞬間から察したのだ。
あれには勝てない、と。
満場一致の敗北宣言、一人椅子から立ち上がる孤高の勝者。
皆、悔しさと憎しみ、悲しみが溶岩のように煮詰まっているのだろう。
一様にズボンの裾を握りしめている。
だがしょうがないのだ。誰だってあれを見た後に立ち上がろうなどと思わないのだ。
もしも立候補したとしても、あれに推薦ないし多数決で勝てるなどという傲慢は湧いてこなかったのだ。
彼らの怨嗟、その発生源たる男子は足立の横へと立った。
なんてお似合いなんだ。まるで結婚式ではないか。
足立の傍らに立つ男子、
「よろしくね。足立さん」
「進藤君……ええ、よろしくお願いするわ」
エンダアアアアアア————————ッ!
思わずそんな音楽すら流れてしまいそうなほど、
その場は完成されていた。
入り込む余地がない。一種の芸術作品とすら思わせる。
絵画のような彼らは共に教室内でその証を刻んだ。
ここで待ったをかける者はなく、出来るのは唇を噛みしめることのみ。
(あーあ、病みそ……)
互いの握手を目撃した両助はその場に新たに誕生したタスクに頭を抱えるのであった。
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