第5話 入学式
敬欄高等学校、下駄箱前————————
初々しさの残る生徒とはしゃぐ生徒が蔓延る敬欄高等学校下駄箱前。
前者は新入生、後者は在学生。
青と黄、二種類のネクタイをつけた在学生達は、張り出されたクラス分けの警告板の前で一喜一憂していた。おそらく二年生だろう。
彼らとは対照的に三年の面々はスムーズなものだ。各々理系と文系、はたまた両方を修学するクラスに向かう。繰り上がりでクラスメイトも変わらないのだ。目新しさもなければ、楽しむ要素もない。
対して我らが同胞、一年生諸君の可愛らしさの何たることか。初めて相対する面々に喜びを露わにすればよいのかわからず、不安で震えているではないか。
思わず大丈夫だよ、と肩を叩きたくなるものだ。
恐れるなかれ、若葉の君よ。
君達の学園生活は希望に満ちているよ。なんたってこの俺がいるのだ。
まあ、その俺もこれからの不安で震えているんですけどね、ブルブルブル。
敬欄学園の校門を抜けた両助はそのまま張り出された紙の前に来ていた。
クラス分けの張り紙だ。
両助は合格通知表に記載されていた番号を探し、問題なく見つけることが出来た。
そこで横で同じく番号を探していた女生徒に問いかける。
「お前、何組だった?」
「私は……八組ね」
「おお、同じか。よろしくな」
「………」
「その面倒くさいって表情やめてくれない?」
少なくとも一年間は共に過ごす仲間なのだぞ。
そんな邪魔者を見るような蔑む目線、思わず昂って————違う。落ち込んでしまうではないか。
「なんでそう思われないと思ったのか…お願いだから教室ではあまり話しかけないでね」
それはもはや懇願に近かった。
彼女の目は、後生だからとこちらを見ていた。
しかし、それは両助もそのつもりだ。
何より、高校で掲げる信条に反する。
皆が楽しく、幸せな学園生活。俺だけが楽しむなんて、とんでもない。
和を以て貴しとなす。その心情は大切にしなければならない。だってそれはきっと尊いモノなのだから。
「安心してよ。俺もさすがに初日から仲良いですよアピールはしないから」
「仲良くないから!あと初日じゃなくてもやめて!」
ええ、そんなに嫌……。俺が一体何をしたって言うんだ。
ん?自分の胸に手を当てて考えてみろ?ちょっと何言ってるかわからないな。
生徒が吸い込まれ、溢れかえる下駄箱で靴を履き替える。
ローファーから一年生のイメージカラーである赤いサンダルに。
初めはこんな形式もあるのかと驚いたものだ。
まあ、機動力を落とした分、涼しさと快適さを重視しているので過ごしやすくはあるが。
行く先々が同じで嫌気がさしたのか、彼女の足取りも早いではないか。
誘導の張り紙に従い、教室を目指す。
新築の校舎はなんとも清潔感があり、差し込み反射した朝日がさらにそれを強調する。ほらフロアなど輝いているではないか。
そんな光り輝く階段を登る二人。
目的の階に着き、教室の扉上部につけられた一年八組の札が目に入った。
彼女は我先にと突き進む。
そんなに一緒に入るの嫌?まあ、わからないことはないけど。
そこまでされてはついて行くわけにもいかず、両助は気遣いから一度手洗い場に行き、教室へと引き返したのであった。
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