第47話 乙女の約束と青年の嘆息

「ありがとう!おいしかったよ!」


 結局デザートをとられた両助、

 真菜は空になったカップをゴミ箱に捨てた。


「さっきの話だけど、わたしより学校の女の子に聞いた方がいいよ」


「仲良い子とか」と付け足した真菜に、両助は風呂に向かう。


「そうするわ。というか真菜に聞いてもわからないことだったな」


 後頭部をぽりぽりと掻いて、

 楠木さん辺りにでも聴取を行おうと考えた両助。


 ドアノブに手を掛けて、

 風呂場へとつながる真っ暗な渡り廊下に出た時だった。


「〝仲良い子〟……いるんだ?」


 両助は、おかしな錯覚を覚えた。


 両助が向かおうとしている目前は、間違いなく何も見えない暗闇で、

 背後が電灯に照らされた明るい場所だ。


 しかし、両助には、目前に見える闇と同様に、背後も闇に思えた。


 首筋、後頭部ちょっと下の、脊髄をきゅっと掴まれた。

 とてもつめたく恐ろしい、生娘の細指だ。


「ねえ、どんな子?」


 耳元で囁かれた声が、こちらの魂を奪い取る鎌に思えた。


「た、只の友達だ。そんなまさかまさかあはははは」


 違う違うと何度も誤魔化しながら、風呂場に向かった。

 しかし、真菜は両助の背後をぴったりと追尾した。


 背後で何度もかけられる疑問が、とても怖かった。



—————————————————————————————————




 風呂から上がった両助は、ベッドに寝転んで暇をつぶしていた。

 明日の準備も終わって、スマホをいじっていると……。


「両助~」


 ノックもせずに開かれた扉からは、真菜が現れた。


「これから体育祭あるよね?わたしこれ行くから」


「は?」と口角をひきつらせた両助は、


「いや、俺のプライバシー……」


 彼女の手には、両助の部屋に置いてあったはずの学校パンフレットが、

 つまり部屋から持ち出したものだ。


「大丈夫大丈夫。両助の秘密は、大事そうにダウンロードしてる動画のことしか知らないから」

「ちょっと待て!それは一番重要な秘密だぞ!ていうかいつ知った!?」


 どうやら両助の最重要機密情報は、すでに知られているらしい。


「もうちょっとロックは工夫しようね♪

 でもわたしの誕生日だったのは嬉しかったから変えないでね♪」


 茶目っ気に言った真菜に両助は「怖いから変えるに決まってるだろ!」と最後の抵抗を試みた。


 もう誤魔化しようもない羞恥に頭を抱えながらも、


「来るって、本当に?」

「両助のカッコイイところ、見たいな~」

「まだ全然さきだぞ」


 今は五月上旬、体育祭は六月上旬だ。

 一か月以上もさきのことだが、彼女は「予約」と言って部屋に戻った。

 


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