第36話 記念撮影

 何か複雑な雰囲気の二人に疑問を憶えた前列組は鳥居が一番近くで見える岸を目指す。続く道は永遠ではない。夏へと続く道を彼らは歩く。


 日差しはまだ眩しくて、本気を出すのも憚られる。

 足立はやり直せたらと考えたが、どうせそれでもまた同じことをすると。意気地なしの自身を貶す。


 一行は進みにくくなることなく、肌を焼かれながら道を歩く。

 目的のモノはさっきからずっと見えている。

 浜辺にポツンと立っている。まるで地平線の上にのっけたように離れていても見えるのだ。


 歩くうちにそこに着いた。鳥居方向の道が途切れたのだ。

 それ以上道なりに行けば、左に曲がり離れてしまう。

 そこは元々撮影スポットとなっているためか、波から道を守るように植えられていた木々がない。


 その間に見えるのは、波などどうしたとばかりに直立する鳥居。

 何もない海にたつそれは絶景だった。

 そうして撮影を開始する。

 だがここで困ったことに気付いた。


「あ」


 進藤もうっかりしていたようで撮影者の存在を考えていなかったようだ。

 いや、今回も通行人に依頼しようと考えていたのか、しかし、運の悪いことにそこには人っ子一人いない。


「撮影者がいないや」


 意外と抜けているところもあるんだなと苦笑する。しかし、これではいけない。ここまで来たのにせっかくの写真が撮れないではないか。


「全員で無理なら二人ずつ撮る」

「そうした————————ええ、そうしましょう」


 新井田の提案に、大きな声でそうしたい!と叫んでしまいそうになるのを堪えて、冷静に言う足立。

 そうして進藤と足立、新井田と七坂、寺田と野田のツーショット写真を撮った。


「でもやっぱり全員でも取りたいね」


 写真を撮り終え、お互いに送り合っている所で野田が言った。

 確かにどうせなら仲良くしたモノも欲しい。記念なのだ。


「やってみるよ…」


 その要望を受けて、進藤はなんとかスマホを立てかけようとするが、画角が悪い上に鳥居が見えにくくなってしまう。

 その後も何度か試行錯誤したり、別の場所に置いたりしたが中々いい角度が見つからない。

 そうしているうちに時間は刻々と無くなっていく。


「仕方ないよ。撮れなかったわけじゃないんだし…」

「う~ん、そうだね…」


 振動は残念がりながら諦めて携帯を仕舞った。

 ここで粘って他の生徒を困らせるわけにはいかない。

 でもどうせなら自分が撮影者となるので皆に鳥居を背景に立ってもらおうとした時に、彼は現れた。


「あれ?進藤達じゃん。何してんの?」

「原田君」


 そこには食料が買えなかったうえに山下りで少し疲れ気味な原田啓介とその班の人達がいた。

 合流した二つの班、話し合ったところ彼らも鳥居を背景に撮影氏に来たらしい。

 進藤もその胸を伝え、今直面している問題を啓介に話した。


「ほへー。そうか、ヨシ!じゃあ、俺が撮ってやる。饅頭のお礼だしな。お土産だったんだろ?これ」


 進藤はあまりにも啓介がげっそりしているものだから持っていた饅頭を与えた。

 焼け石に水であったが、空腹から少し回復した啓介は、その恩を返すべく撮影者に名乗り出る。


「いや、それは自分用に買ったものだから別にいいんだ。写真の方はお願いできるかな。…あ!それなら…」


 じゃあ、どうせならと啓介達の班も交えて、皆で鳥居を背景にして写真を撮った。

 思わぬ結果、予想外にもにぎやかになった写真に全員満足したのであった。

 ちなみにさすがに仲間外れはかわいそうということで、進藤と啓介が入れ替わった写真も撮ったのだった。


 そうして時間も迫った彼らは本日の思い出と宝を胸に携えて帰路についた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る