第18話 見覚えがないでもない。

 首を回し靡いた髪に、こちらに向けられた優し気な顔に、穏やかなその声音に両助は目を離せなかった。

 ボーイッシュな髪型、印象深い垂れ目、少し瘦せ気味に感じるが整った目鼻立ち、笑った顔などとてもチャーミングだ。

 正直に言おう。ぶっちゃけすごくタイプだったので一目惚れだ。


 両助がその女生徒に戦慄いているうちに背後の啓介が彼女の名を呼ぶ。


「おお、れい。当分は話しかけてこないものだと思ったぞ」

「啓介が影峰君達と話してたからね。少し距離を置いてたけどもういいかなって」

「気にしなくてよかったのに…なあ、別に気にしないよな?」


 目線を向けられた俺と淳也は頷く。俺は頷く時、この気持ちを悟られないように冷静に首を下げたつもりだったが、隠せていただろうか?


「よかった。じゃあ、安心だ」


 こちらの気遣いも出来るなんて、すごくいい子じゃないか。

 安心したのか、ふにゃりとした顔などとても可愛らしい。

 ああ、これは惚れましたわかわいいすき。


「し、知り合いなのか?」


 両助が恐る恐る聞くと、目前の美少女が答える。


「実は中学が一緒なんだ。中学の時も仲良くしてたよ」

「………」


 その発言に両助は背後の怨敵に向き直る。

 本当なら高速で振り返り、こいつの胸倉を掴みながら問いただしたい所だが、彼女の前で荒いことは避けたい。なにより紳士な男でいたかった。


 はやる気持ちがバレぬようゆっっっくりと振り返ったが、これは失敗だったかもしれない。どれだけ取り繕うとも、不自然な動きで目をギラつかせながら獲物を狙うが如く視線を向けるものだから啓介が動揺した。


「あ、ああ、そうなんだ。………ところでなんだ?急に」


 その粗雑な扱いに声が出そうになったが堪えた。

なんだ?とはなんだ。まずは話しかけてくれたお礼を言うべきだろ。

 そんな荒ぶる両助の気持ちなど知らず、玲と呼ばれた少女はこちらにスマホ画面を向ける。


「ちょうど人手が欲しかったんだ。付き合ってよ」


 そう言って俺達は玲さんと共に暇つぶしをするのであった。

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