第23話 不必要なまでの善意は相手を不愉快にする。

 八組の面々は続々と測定を行い、最後であった両助と啓介もともに終わらせた。

 そうして一限が終わる数十分前、当然、二人だけとなった更衣室で制服に着替える両助と啓介。

 先程のことは気にしたら負けなので、ちゃっちゃっと着替えることにした。


「ん?……両助」


 彼はシャツを着ようとした両助に気になることがあったので、呼びかけた。

 「なんだ?」と振り返ると、啓介は自身の右肩後ろを指さした。


「それ、どうしたんだ?」

「……ああ、これか」


 両助は別段隠していることでもないので、それの存在を話した。

 それは両助にとっても苦い思い出だ。正直思い出したくもない。


「小さい頃に親父の仕事場でやらかしてな、その時の火傷だよ。箇所が大きいのもあるし、処置が遅かったのもあったのかこうして残ったんだ」


 啓介が見つけ、彼が話した通り、彼の右肩後方には黒く変色した火傷跡が存在していた。


 これが出来てから、この説明にも板がついてきた。

 こんな経験による説明力の向上など、かなり皮肉でしょうがないがな。とは言わず、胸にしまい込む。


 話は終わりだとばかりに、着替えを再開したが啓介は動きを止めたままだ。

 ああ、面倒くさい。これは面倒くさいやつだ。

 なぜこういうやつらはそれが一番迷惑だと分からない。


 両助はそう考えてきたが、その度に仕方がないかと無理やり納得していた。今回もそうだ。

 目前の友は単純な善意でこちらを気遣っている。ほとほと人の心抉る心配りのどこが善意か、彼はそれを抱えてこの方、その疑問を晴らせずにいる。

 だが、今回は特異だ。いつもみたいに周りに人はいない。であれば、少し本心も言えるというもの。


「言っとくけど同情なんてするなよ。これは俺の自業自得なんだ。励ましもいらない。そういうのが一番ダルい」


 それを聞いた啓介は「悪い…」と言ってそれ以上しゃべらなかった。

 そうして着替え終えた俺達は大人しく三階の教室に戻った。

 後は言うも通り、昨日とは変わらない。

 二限から六限まで、通常授業を受けた。


 そこからは別段大した出来事も起きず、二日目も問題なく終えた両助。

 彼は本日の数学の授業で出された課題を沢野先生に提出するなどその日遣ることを終わらせて帰宅した。


 わざわざ自分で回収せず数学係にやらせる、教室の電気を消しといて、ついでにホワイトボードも放置してたから綺麗にしておいてなど、六限の数学で沢野先生にそう頼まれた。

 あれ?この人、結構人使い荒くない?


 そうやって少し沢野先生に顎で使われ気味な両助は何事もなく高校生活を送り、皆が楽しみにする校外学習の日が刻一刻と近づく時の流れを感じたのであった。

 そうしてその日は迫ってきていた。

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