第36話
「そういえば、博士は何でここに?」
僕が問いかけると博士は顔を挙げて表情を変えていった。
「暗くなっている場合じゃなかったです。 用があってここに来ました」
どうやら回復したらしい。
僕はそう思い、続けた。
「ここに用って……?」
「黒田さんにお願いがあります」
南雲博士は身体をまっすぐにするとこちらをしっかりと見つめて、言った。
「は、はい……」
僕も、同じように姿勢を正す。
「貴方があった男がどんな様子だったか教えてほしいんです」
南雲博士はまっすぐにこちらを見ながら言った。
「様子……ですか…」
僕はなんといえばいいかわからず、どもってしまった。
「些細なことで構わないんです。父がドンナ状況か知りたいんです」
南雲博士は真っ直ぐにこちらを見ながら、言った。
「えーと……、僕はあまり詳しく離せるかどうか分かりませんよ」
僕は彼女に確認した。
正直、敵の状態について話せと言われても、なんて応えていいのか分からない。
戦闘中の記憶なんて、完全ではないし。
僕は一息はいた。
しかし、南雲博士は真剣にこちらを見ているため、無下に分からないと応えられなかった。「大丈夫です。 黒田さんが見たままの事を話して頂ければいいんです」
南雲博士は微笑みながらいった。
僕は息を吸い、どこから話そうかと考えた。
「えーとですね……」
僕は自分が見たまんまの事をありのまま話した。
できるだけ分かりやすく、伝えるつもりで話した。
人間をやめた南雲博士と呼ばれた男の事。
僕が話して居るあいだ、南雲博士は、ただ相づちをうち聞いていた。
口を途中で挟むことなく、ただありのままを聞いてくれていた。
博士は聞くのが上手いから、僕はつっかえながらも、話すことができた。
本当は話すこともかなり苦手なのだが、今日だけは違っていた。
そして話すことで僕自身、見たことの記憶を呼び起こすことができ、敵の状態を思い出すことができた。
一通り、話すと僕は溜息をついた。
「以上がこの前に、僕が見た南雲のことです」
「…………」
南雲博士は黙り、口を真っ直ぐに、結びながら、外を見ていた。
「…………博士?」
僕はなぜ彼女が黙ってしまったのか分からなかった。
博士は一度、下を向くと、こちらを向いた。「ごめんなさい。昔の事を思い出してしまって……」
昔とは、南雲、父親とのことだろうか?
僕はあえてそこには触れないようにした。
「博士、気分を害したなら申し訳ないです」僕は申し訳なく思い、謝罪した。
「いえいえ、とんでもない。 むしろ話して頂いてありがとうございます」
博士は首を横に振り、口元を緩めた。
「話していただいてありがとうございます。私は人間の頃の父の幻影を追いかけました」南雲博士は身体を真っ直ぐにした。
「父が死んだと言われたあの当時は信じられませんでしたから。でも時が経ってなんで今頃現れたのかわからなかった。でもなんとなく黒田さんの話を聞いて分かりそうな気がするんです」
南雲博士は表情を険しくする。
「やっと決心がつきました」
南雲博士は瞼を一度、閉じるともう一度、上げる。
「黒田さん、私の父、いえ南雲を殺していただけますか?」
南雲博士はまっすぐに落ち着いた声で、言った。
「…………」
僕は何となく黙ってしまった。
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