第33話

南雲の声が聞こえた。

それを合図に、“ノー・ネーム”が別の現れた。

逃げ場なんてない状態だ。

完全に僕の周りを包囲していた。

本当に南雲のいう通りだ。 

僕はチタンブレードという暴力がなければなにもできない人間だ。

フジマキノボルの気持ちがわかった気がした。

たしかに“ノー・ネーム”化し、人を殺めることはいけないことだとわかる。

しかし、力を欲した気持ちはわかる。

彼には悪いことをしたと思った。

もしここで死ぬならば、彼や今まで切った“ノー・ネーム”化した人間たちに地獄で責められるのだろうか?

僕はふとそう思った。

そう、もうここで終わり。

そんなのは嫌だな。

イリスともう一度、会話したいし。

けれどこれではもうそんなことはできないな。

僕はあきらめていた。

どこか自分が、愚かでおかしかった。

おかしくて笑ってしまった。

そのときだった。

「クロ!」

耳なじみの声が聞こえた時だった。

すぐ近くの“ノー・ネーム”に上空から何かが落ちてきた。

落ちてきたものによって“ノー・ネーム”が崩れ落ちた。

「…………」

呆然と、僕は光景を見ていると斜め前の“ノー・ネーム”の頭部が勢いよく破裂した。

そのまま頭の肉片がこちらへ飛んでくる。

僕の身体は“ノー・ネーム”の血で染まる。

「クロ!」

僕が呆然としていると腕を突然つかまれる。

僕が横を向くと、そこにはイリスがいた。

彼女の手にはアサルトライフルが握られていた。

「イリス……」

僕は彼女の顔を見て安堵した気持ちになった。

「おやおや、お姫様、いや騎士さんのご登場かな?」

南雲が首を傾げ、笑う。

「閂イリスさんだね。 私は南雲。以後お見知りおきを」

南雲はわざとらしく一礼した。

「耳をふさいで」

イリスがすかさずいうにで僕は彼女が何をするのかわかり、耳に手を当てる。

そこにイリスは躊躇うことなく銃口をむけると、引き金を引いた。

ダララと破裂音がし南雲に銃弾が数発あたる。

南雲の身体に銃弾が当たるが、すべて、固い金属に当たったかのようにはじかれた。

「無礼なことをする子だ。人が挨拶しているのに。 ちゃんと挨拶はしようって言われなかったかい?」

南雲の雰囲気が変わり、まずいと思ったときだった。

『そこまでだ、南雲』

空から大音量で声とサーチライトのまぶしい、明かりが周囲を照らす。

僕は空を見上げるとそこにはヘリが、旋回していた。

『次は二十ミリの機関砲を当てるぞ』

多分、増原教官の声だ。

僕は南雲の方に顔をむける。

彼も同じように上空を見ていた。

「ふん、つまらないな。 せっかく、君と遊べたのにな」

南雲はヘリの飛行音に負けないくらいの声で僕に言った。

僕は中指を立てる。

南雲はにやりと笑うとまるで、そこから一瞬で消えた。

 それと同時に、どこからか“ノー・ネーム”がさらに数体現れた。

『黒田訓練兵、武器をとれ』

増原教官が、ヘリから檄を飛ばす。

死にかけたのに、働かせるのかよ。

僕はそう心のなかで、ごちる。

イリスの方を向くと彼女は僕にペン型の注射器を差し出す。

僕は無言で受け取り、そのまま足元に突き刺し、中に入った物を入れる。

眠気覚ましにはちょうどいい。

僕はため息をつく。

もう一度“ノー・ネーム”がいたところに顔をむける。

目の前に立っていた“ノーネーム” に僕のチタンブレードが刺ささり、オブジェのようになっていた。

僕は近寄り、チタンブレードを抜く。

ジュルっという音とともに“ノー・ネーム”は崩れその場に倒れる。

僕はチタンブレードについた血を払うように振る。

ふと先ほど、襲われた民間人の方を見る。

無常に首元を噛みちぎられ、変な方向に首が曲がっていた。

僕はそれをみて、小さくつぶやいた。

「ごめんな」

僕はただ口を閉じて、チタンブレードを構え、残った“ノー・ネーム”に視線を向ける。

すでに、イリスがアサルトライフルで何体か倒していた。

あたりは血の海になる。

しょうがないことだ。

僕は息を吐く。

近くの“ノー・ネーム”が腕を振りあげ、顔をつきだしながら迫る。

先ほどの恐怖は紛れもないものだった。

僕は自分の愚かさを感じながら、チタンブレードを振り上げた。

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