第14話

バックにいれていたタオルを広げ口元に当てる。

口元は隠れ、認識しづらいだろう。

僕は学生服の上着を脱ぎ、カバンにいれる。そしてそれを地面に起き、駆け出す。

姿勢を低くして次の行動に移せる体勢をとりながら走る。

標的は三人。

奇襲ならまず中心人物となる奴を叩く。

僕はおもいっきり駆け、取り巻きの間をすり抜けるようにおもいっきりジャンプした。

竹内の顎を目掛け、ふりかぶった右腕を前に付き出す。

一瞬、自分の右の拳に固い感触。

竹内の顎に拳が入る。

勢いがついていたため竹内はおもいっきり吹き飛んだ。

僕は着地すると勝手に次の行動に移っていた。

姿勢を低くしし片足を軸にして身体を反転させながら後ろ回し蹴りの容量で足を出す。

呆気にとられていた二人の内一人の足を、出した足で刈り取るように蹴り飛ばす。

取り巻きの内一人は足が地面から離れ、受け身もとれずに背中から地面に叩きつけられる。

僕は直ぐ様立ち上がり、地面にダイブした片割れに拳でトドメをさす。

そして残った最後の一人。

彼は何が起こったのか理解し身を構える。

「なんだ、テメェ」

声をあらげ、拳をふりかぶる。

僕はすかさず最後に残った一人と間合いを詰める。

残った一人がおもいっきりなぐりかかってきた。

僕はそのまま一人の懐に踏み込み、片方の腕で相手の腰を抱えこみながら身体を反転させる。

相手は勢いよく宙に浮き、地面に落ちる。

ぐぁと空気の漏れたような声が聞こえた。

すかさず、相手の顎にパンチを入れる。

相手は倒れた勢いで頭がバウンドし動かなくなった。

僕は竹内のほうを見ると竹内も気絶し、倒れていた。

全員動かないところを見るとこれで制圧した感じだろう。

僕はフジマキのほうを見る。

フジマキは腹を抱えながら身をちぢこませ、こちらを見ていた。

僕はフジマキに近づく。

フジマキはビクッと脅えた反応をする。

僕はできるだけ、刺激しないように彼に言った。

「大丈夫?立てるかい」

フジマキはきょとんとしながら短く頷く。

僕は手を差し出す。

フジマキは戸惑ったような顔をしていた。

「ここにいるとまずい。この場から離れよう」

僕はフジマキを立ち上がらせ、彼の手を引きながら鞄と制服をとりその場を後にした。

僕は彼の手を引きながら早歩きで少し離れた第三校舎の 影で足を止めた。

「ここまでくれば大丈夫かな?」

僕はのした彼ら以外の人物が追いかけて来ていないかを確認した。

フジマキノボル、彼のほうをみると目があった。

彼は直ぐに目をそらし、僕に腕を掴まれるままうつ向いた。

「大丈夫?」

「…………」

彼は答えず下を向いたままだ。

「いきなりごめん。手を離すよ」

僕は彼の手を離し、一歩後ずさる。

こんなときコミュニケーションが上手い人間ならどういうふうに対応したのだろうか?

疑問と不甲斐なさを感じた。

「き、キミは同じクラスの黒田君だろう?」そう言われ、僕は顔をあげ彼のほうをむく。すると彼はおずおずとしながら僕を見ていた。

「なんで、わかっ……」

「いつも教室で見かけてたし、すぐに気がついた」

フジマキノボルはただおずおずとそして淡々に言った。

「バレてたのか……」

僕はできるだけ平静を装ってはいたものの動揺と落胆は隠せない。

僕はコミュニケーションが上手く無いため、クラスの人物とは関わりを避けていた。

その方が楽だし、彼らもそうだろうと。

しかし、ここで僕が暴力沙汰を起こしてしまえばクラスの人たちは奇異な目を向けるだろう。

かまいはしないけれどめんどくさいからだ。それに《ダスト》では訓練兵や兵士は任務や緊急時しか武力を扱ってはならない。

だからこの件がバレたら訓練兵も外され、僕は完全にはぐれものになってしまう。

この年で失業とか冗談がすぎる。

などと余計なことを考えていると横のフジマキは口を開いた。

「た、助けてくれて、あ、ありがとう」

フジマキはおずおずとしながら言った。

「ど、どういたしまして……」

僕も同じように答えた。

お前もおずおずしてるんじゃないと言われそうだ。

「とりあえずさっきの彼らに殴られたところは大丈夫?」

「大丈夫だよ……。こんなのいつものことだから」

フジマキは力弱く答える。

本当に大丈夫かよとか思ったが口には出さない。

「……」

僕はいたたまれない気持ちになった。

彼はなぜさっきのような状況になったのかきになった。

「なんであんなふうな状況になったんだ?」僕はたまらず聞いてしまった。

「…………」

フジマキは動揺しながら僕をみる。

そりゃ突然、親しくもないやつに聞かれても驚くだけだ。

フジマキは一度目をふせると口を開いた。

「僕はなにもしてない。ただ彼らが一方的にきただけなんだ」

「一方的に?」

「何ヵ月か前の昼休み、教室で本を読んでいたんだ。そしたら教室に彼らが表れてたまたま近くに居た僕に声をかけてきた」

「それから、彼らに呼び出されて……」

暴力を振るうための対象になったということか。

どこにでもありえる話だが実際、目の前にはそれで苦しんでいるフジマキという人物がいるわけで。

「その……、お金とかも請求されてたりとか?」

「そういうことは常にあるし。当たり前のようにお金をとられていたし親のお金もせびられてるよ」

なんというか僕が生まれる前にそういうことはいくらでもあったみたいだが流石にそれを実際に聞くとヘビーだ。

しかも現在進行中というから厄介だな。

「抵抗はしなかったの?」

「最初は抵抗はしたさ。でも彼らはそれが気にくわないのか抵抗するたびに何かがエスカレートするんだ」

フジマキは力なく呆れたように笑う。

「それに先生や友人にも助けを求めたさ。けれど先生はそんなことはないだろうと言ってただ見ないフリをし、友人たちも離れていったよ」

彼は表情をつくることなく無表情で淡々と語るがなにか悲しみを抱くように思えた。

まるで、活性型ナノマシンに侵食され《リザーブ》となった人逹と同じだ。

僕はかわいいくらいで中にはさらにひどく言われたり蔑まれたりしている《リザーブ》もいる。

たとえ活性型ナノマシンに侵食されず、通常の人間であっても同じようなことが起こる。「親には?」

僕は単純に聞いた。

「親には……、親には言ってない」

彼は苦しそうな表情をする。

心配をかけたくないのだろうか?

それで言わないとすれば彼は人がいい。

「もうこんな生活嫌だよ……。これから先もこんなのが続くのかな……。なんども殴られたり蹴られたり……、終わりはあるのかな?」

「………………」

正直、僕は何も言えなかった。

というよりなんと言えばよかったのかわからなかった。

「ごめん、黒田君」

「な、なんで謝るんだよ?フジマキくんはなにもしてないだろ」

「話をきいてもらったし……、助けてくれた」

「たまたまだよ。助けたというかあの三人が気にくわなかっただけだよ。それに……」

彼らをぶん殴っても多分、フジマキに対する暴力は終わらない。

むしろエスカレートするだろう。

それに拍車をかけてしまうことに申し訳なさを感じる。

「フジマキ君に対する暴力は終わらないだろう?」

「でも毎度のことだから。痛いけど少し我慢すれば終わるよ」

「我慢って……。そんなことしていたら君の命の危険に関わるよ」

「仕方ないんだ。抵抗したところで何も変わらない」

フジマキは絶望していた。

でも僕にはまだ彼の内心では変わることを期待しているように見える。

「………………。そうかな?抵抗すれば何か変わるかもしれない。君はこんな生活が嫌だって言ったよね。嫌なことを我慢しつづけるの?」

僕が口にすると彼は瞳を大きく開いた。

そして口をつぐんだ。

「黒田くんは強そうに見えなかったけど、結構、強いんだね」

「えっ?」

「僕は何かを変えられる力がない。誰かに頼りたくても頼れない。苦しいんだよ」

「それはわかってる。でも今、状況を変えられるのはフジマキ君。君自身でしかないよ」「本当に黒田くんは強いんだね。羨ましいよ」

「僕は……」

強くなどない。

未だに色々と迷っている。

「僕は強くないよ」

「僕には君が強い人に写るよ。羨ましいと本当に思う」

「でもそういう君だって独りで我慢してきたんだろ?充分、強いじゃないか」

「つよかったらこんなに苦しんでないよ」

「ならこれから変わればいい。本当に苦しいなら変わるべきだろう」

僕は自分の素直な意見を言った。

本当に苦しんでいるなら楽になる方法を模索すればいい。

そう思った。

「………………。そうだね……。黒田君の言う通りだね」

フジマキは力なく笑いながら言った。

「黒田くんは不思議だね。初めて関わったのに初めてじゃないみたいだ」

「そうかな?」

「少し落ち着いたよ、ありがとう」

お礼を言われてしまった。

「何もしてないよ。ただ僕は…………」

僕は状況を悪化させただけだと言おうとしてやめた。

「どうしたの?」

「何でもない。ただ本当になにもしてないなと思っただけだよ」

「そっか……。でも僕にとっては助けてくれたのも同然だから」

フジマキは真顔で言った。

「黒田くん、ありがとう。このことは黙ってるよ」

「わ、わかった」

「黒田くん、僕は君の言う通り、変わってみるよ」

「なれるといいね」

「ありがとう」

僕とフジマキはそういってこの場を離れた。

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