第7話 開始と奴は

増原教官は僕とイリス、全ての《チルドレン》にとっては教官であり恐怖の対象だ。

普通に通学している高校での生活で絶対に出会うことのない人物だ。

だって見た目が確実に危ないそっち系の人に見えるもん。

そして増原教官は《ダスト》に所属する《オプション》、兵士をまとめる指揮官、全てを統括する隊長でもある。

教官であり、指揮官っていつ寝てるんだよとか思う。

現場に出てきてわかったが増原教官は《チルドレン》の間では恐れらる人物だが《オプション》達にとっては頼れる指揮官なのだろう。

そんなことを考えながら僕は足を進める。

いかん、作戦に集中しなければと僕は頭を切り替える。

辺りはオレンジ色の街頭に照らされ、廃倉庫の輪郭がぼんやりと照らし出される。

風が少なく、近くの海は穏やかに波をつくっていた。

僕の隣にはイリス、後ろには武装した《オプション》が三名いた。

作戦は車を降り、直ぐに始まった。

僕とイリス、他三名は港に近い倉庫を捜索することになった。

暗闇が広がっているが拡張現実のおかげで視界は昼間の明るさに近いといってもいい。

その為、何処になにがあるか分かるから便利ではある。

付属するかのように右端に数字が表示されていてこの場所にいる“ノー・ネーム”の数だ。特殊な装置で“ノー・ネーム”からでるナノマシンを感知しその濃度で大体の数を測定するらしく、ほぼ正確に感知する。

そして“ノー・ネーム”が近づくと感知するというすぐれものだ。

僕らはそれを使いながら“ノー・ネーム”を捜索する。

港に近い倉庫のドア前に着くと僕らは一度、立ち止まる。

この倉庫内に“ノー・ネーム”は潜んでいるみたいだ。

僕は手に持っていた竹刀袋から鞘に収まったチタンブレードを取り出し、鞘についている特殊なホルダーに腰の近くに着いているフックに引っ掻ける。

それぞれが気を引き締める。

先陣をきるのは《オプション》の一人。

それにもう二人の《オプション》が続いて中へと進む。

最後に僕とイリスが入っていく。

倉庫内に入るなり、拡張現実に表示される数が浮かびあがる。

“十六”と書かれていた。

要は倉庫内に十六もの“ノー・ネーム”が存在することになる。

他の倉庫にも多分、存在しているのだろうが数は不明だ。

どうやら倉庫内は学校の体育館ほどの大きさで天井は約十メートルちょっと、というとこだろう。

僕とイリスは暗視ゴーグルと同じ視界の中、足を進めるが“ノー・ネーム”が潜んでいるのが嘘だと思えるほど静かだ。

僕を含める五人は辺りを警戒しつつ“ノー・ネーム”を索敵。

《オプション》のリーダーが止まり、手で合図をだす。

散開しろという合図だ。

二手に別れ、“ノー・ネーム”を探す。

僕とイリスは前後向後になり倉庫内を捜索する。

拡張現実にはまだなにも反応がない。

視界が昼間と同じだからといって油断できない為、僕らはゆっくりと一つずつ確認するように辺りを見回す。

通信が入る。

『目標がいないぞ。誤認じゃないのか?』

一人の《オプション》が無線を通してポツリと言った。

『それはない。“ノー・ネーム”を感知する装置は動いている』

聞いていたのか増原教官が否定するように言った。

『しかし、指揮官。拡張現実で明るいとはいえ、流石に姿が見えないのはおかしいです。なにかあると考えます』

『……………。まだ装置は反応している。くまなく捜せ』

そういって通信は切られた。

僕も《オプション》の意見に賛成だったが彼の意見は増原教官の言葉で一蹴された。

通信機はまた黙ったかのように音もしなくなった。

僕はイリスを背に構えていたチタンブレードの構えをときため息をつく。

もし本当に“ノー・ネーム”がいるならばアラームが鳴るはずだ。

しかし、それすらないということは完全にいないことに等しい。

僕は何気なく倉庫の天井近くにつけられた窓の方を見る。

倉庫の窓からは真っ黒に染まった空と近くのクレーンの先が見えていた。

ふとクレーンの先、一番の天辺に何かが見えた。

僕は目を凝らせクレーンの一番上の何かをみようとする。

全体像は見えても流石に肉眼ではハッキリとした形が見えない。

僕は拡張現実のズームを使い、対象物を拡大し、はっきりと細かいところまで把握する。拡張現実により写し出されたのは一人の黒い布を体にくるんだ若い男。

男は風が拭くなかクレーン車のてっぺんに立っていた。

クレーン車の上はかなりの強風のはずなのに男はしっかりとたっている。

男はどこか遠くを見つめ、何かを思案している顔。

ふと男の顔が動く。

そしてこちらを向き、目が合う。

この世界全ての時間が止まったかのように感じられた。

男は確実に僕を見ていた。

僕はみいられたかのように男を見る。

そして男は何かに気が付いたのかふと笑った。

嘘だろ。

そう思った刹那、耳をつんざく音が聞こえ、意識が現実に引き戻される。

僕は一瞬、顔をしかめ、耳を押さえる。

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