第6話 だるいな

バンの中は狭く、走る振動が尻に伝わる。

しかし、ナノマシンなんて高等な代物が出来たにも関わらず、人間を乗せる機械は変わらないらしい。

昔、呼んだSF小説で面白い乗り物があった。

飛行機なんだけれど人工的に育てたイルカやクジラから採取した筋肉を使い、その力で動く飛行機。

なんてエコでユニークな乗り物だと思ったが流石に現実では出来るまで時間がかかりそうだし、あり得ないかもしれない。

昔、誰かが思考は現実化すると言った。

しかし、無茶があるだろうに。

快適な乗り物が出来そうだがそんな現実逃避をしても意味がない。

僕はチラリと目線を上げた。

目の前には横ならびに《ダスト》の兵士が座っている。

僕の両脇にも《ダスト》の兵士が何人か座り、僕の右側にはイリスが座っていた。

「おい、任務にビビってんのか?」

体格のいい一人の兵士が笑いながらちゃかすように僕に言った。

僕は何も答えずに首をふる。

「あまり足を引っ張るなよ」

兵士はニヤリと笑いながら吐き捨てるように言った。

正直、僕はビビっていない。

強がりや虚栄心からではなく別のことからだ。たしかに端から見れば落ち着きがないように見えるだろう。

けれど作戦に対して動揺してるのではなく、隣にいる閂イリスに対してだった。

彼女は終始無口に近い。

僕は彼女とバディを組んでから半年近くになるが深く彼女のことを知っているわけではない。

バディを組んだときから閂イリスに対して深く干渉すること僕は実質、避けてきた。

お互いに気まずくなるのも嫌だったし、それで任務に支障がでるのもダメだと感じていた。けれど今では彼女の微かな変化を気付くことが出来ている筈だ。

だからお互いに傷つくこともなく、今まですごしてこれたと思う。

そう思っているのだけれど今日、なんだかイリスの雰囲気が違う気がした。

僕はイリスに耳打ちする。

「ねぇ、イリス。君、なんか今日あった?」揺れる車内でイリスは僕を見る。

無表情と言っても過言でもない彼女の顔、一瞬、目が細まり僕を責めるような目をした。しかしそれもすぐに普段の表情に戻り、彼女は首を横にふる。

「そ、そっか……」

僕は彼女をいぶかしみながらも、返事をした。

イリスは僕の目をみるとプイッと無表情のまますぐに自分の手元に視線を戻す。

怒ってらっしゃるのでは?

僕はそう口にしようと思ったがこれ以上、言及すると傷口を広げてしまいそうなので、チャックをしめるかのように口を閉じた。

しかし、なぜ僕は彼女が怒っているなどと考えたのだろうか。

やましいことなど一切していないし、僕にはそんなことをできるだけの肝は座っていない。

あぁ、気まずいな。

と思っていたら耳につけた小型無線に通信が入る。

『全オプションへ。目的まで後、三分で到着する。準備だ』

増原教官の声だ。

と思いつつ周りを見ると《オプション》たちはすでにヘルメットなどを被り、到着に備えていた。

そして車内の雰囲気も気が抜けるような感じではなくピリピリとした感覚。

僕はめんどくさいと思いつつ、辺りの雰囲気に乗っかるようにして準備を始めた。

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