第42話
車に揺られつつ、僕は目を閉じていた。
取りあえず出来ることに集中することにした。下手なことに意識を取られているいると完全に、死に直結しかねない。
僕はチタンブレードの鞘を強く握った。
ふと骨伝導イヤフォンに着信がはいる。
僕は拡張現実を展開し、相手を確認する。
相手は南雲博士からだった。
彼女の顔写真を空中でタップする。
『もしもし』
「はい、聞こえてます」
僕は返答した。
『お久し振りです。お元気ですか?』
「元気ですが、任務中です」
僕はにが笑いをし、言った。
『申し訳ありません。ただ一つお伝えしたいことがありまして』
伝えたいこと、とはなんだろうか。
僕は口を開き、返答した。
「何でしょう?」
『貴方のチタンブレードを改良した物ができあがっています。 隊の者に持たせましたので、病院の近くについた際に、受け取りください。 それと……」
「……?」
「父を殺すための抗ナノマシン剤も用意してあります。よろしく…お願いします」
声のトーンが下がり、決意しているのが分かる。
「……。分かりました。 ありがとうございます」
僕は短く答えた。
すると博士は言った。
「よろしくお願いします」
南雲博士がそういい、通話は終わった。
拡張現実での通話が切れた時だった。
対面に座ったイリスがこちらをむいていた。
「…………」
「問題はないよ。 新しい装備が届いたらしい」
僕は短く、イリスに伝えると彼女は、こくりと頷いた。
車両は速度を出しているため、揺れが伝わっていた。
僕は目を閉じて、拳を強く握るだけしか出来なかった。
十分ほど、車は走り、急停車した。
僕は顔をあげる。
窓の外にみえるには警察の検問だった。
どうやら、辺りを封鎖していたらしい。
運転手が《ダスト》の者だと伝えると敬礼をしてお疲れ様ですと言う。
すぐに車は走りだした。
道中、警察、消防、などが出動しているのがみえた。
そこを境に、静けさが増しているのが、音を聞いていなくとも、人の通りなどで感じられた。
僕は車のフロントガラスからみえる、病院への道先は地獄かなと思った。
そんな事を考えている間に、車は目的地へと、着いた。
「全員、降車してください」
運転席の隊員が言うと、僕もだが、勢い良くドアをあけて、降車した。
《ダスト》の先発隊が病院の周りに、車を停めていた。
先発隊の指揮官らしき、男性は無線を使い何かを話していた。
僕は病院の方に視線を向ける。
病院の周りは静寂につつまれ、中の方は明かりがわずかに灯っていた。
先発隊の指揮官の一人が、こちらに気が付き、歩みよって来た。
「君が黒田訓練兵か?」
僕はすぐに、気を引き締め、敬礼をした。
「はい」
「そうか。事態が大変だが、南雲博士から、荷物を預かっている」
指揮官はそういうと、近くに置いてあった、一メートル以上あるジュラルミンケースを指差した。
「これ……」
僕はそれに近づき、手に取った。
「南雲博士が『チタンブレードはできあがっている」との事だ」
指揮官が、手をだすとその手の平には鍵がのっていた。
「ありがとうございます」
僕は鍵を受け取り、それをみた。
「あとこれも渡すように指示されている」
指揮官は、先ほどのよりちいさいジュラルミンケースを取り出した。
「中身は君だけしか見ることができない」
指揮官はそう言うとずいっとそれを前に出す。僕は受け取りそれを見た。
「南雲博士から言われた物は全て渡した」
指揮官はそう言うと、踵を返し自分の持ち場に戻った。
僕は二つのジュラルミンケースをみて、鍵を使い、二つとも開けた。
長いほうには改造したチタンブレード、そしてもう一つには抗ナノマシン剤がはいっていた。
僕は新たなチタンブレードを手に取ってみた。今までのものとは違う重厚感が、あり重みが増していた。
なによりも、持ち手の部分にトリガーが追加され、鍔にみたてた部分はアームガードのようになっていた。
そして柄の底は空洞になっていて、何かをいれるような形になっていた。
鞘に収められていて、僕は抜き、刀身を見てみる。
刀身には小さい穴がいくつか空いていた。
「これが……」
きっとここから抗ナノマシン剤がでて、切りつけたときに、効くようになっているのだと思った。
そしてアームガードの部分にはトリガーがひとつありこれが何の役割をするのか想像がつかなかった。
僕は本部に、無線で連絡を入れた。
「こちら黒田訓練兵。南雲博士はそちらにいらしゃいますか?」
オペレーターが変わり、お待ちくださいと言った。
数秒して、南雲博士がでた。
『もしもし、黒田さんですか?』
「はい」
僕は短く返答した。
『改良したチタンブレードは受け取りましたか?』
「ええ。ばっちりです。 上手く使えるかはわかりませんが」
僕はにが笑いをしつつ、電話の向こうの南雲博士に言った。
『黒田さんなら大丈夫です』
南雲博士は静かに言った。
周りはせわしくなく動いているのに、音が泊まっているようにかんじた。
「ありがとうございます。期待に応えられるかわかりませんが、やるべきことをやります
」
僕がそう伝えると南雲博士は無線電話の向こうで笑った気がした。
『よろしくお願いします。 黒田さんには
……』
電話の向こうで南雲博士が何かを言いかけた時だった。
足下にかなりの振動と何か巨大な物が落ちるような轟音がした。
「なっ……」
僕は電話から耳を離し、音がした方を見る。
封鎖された病院の入口側が崩落し、煙が俟っていて状況の判断が取りづらい光景だった。
現場の指揮をしていた別働隊の隊長が無線機に向かい、叫んでいた。
「おい、何があった!?」
別働隊の隊長が叫んでいる近くで、僕は光景を目視しながら無線電話に耳をあてた。
『黒田さん、大丈夫ですか?」
「ええ……、すいません、また終わった後にかけ直します」
僕は無線電話を切り、それを机におき、改良されたチタンブレードの鞘にフックとヒモをかけ、忍者のように肩にかけた。
「クロ!」
後ろからイリスの声が聞こえた。
僕は振りかえり言った。
「分かってる」
僕はイリスの方に駆け寄る。
僕はイリスに近づくと共有している拡張現実を展開し、お互いの位置と現在の行進されている状況内容を確認した。
入口が完全に、崩落し、中に入った隊員の安否の確認が取られているが、今のところ被害は少ないようにもみえた。
「クロ」
イリスが拡張現実にアップロードされた画像をみるように言った。
数十秒前に中にいた隊員の拡張現実の記録
映像だった。
映像では隊員が、異変を感じ何か騒いでる。
その瞬間、建物が崩落し始めると共に何かが動いているがみえた。
「なんだ、これ……」
僕が呟いたときだった。
「キャオエェェェェェェェェェ」
人の断末魔のような、金属をひっかくような叫び声が耳に聞こえた。
僕とイリスは声が聞こえた方を見る。
それは崩落した病院の入口だった。
煙が俟っていて何が起きているのかまだわからない。
しかし、そこに何かがうごめいているのが感覚で分かった。
僕は拡張現実のズーム機能を展開し、煙が上がった方へ向ける。
その瞬間、煙の中からビル三階建てはありそうなほど巨大な”何か”が現れた。
それはなんと形容して良いのか、分からない形をし多くの肌色の肉の塊が集合したようにもみえた。
そして何より、その身体の部分に当たるところに、人の顔がいくつか着いていた。
僕はそれをみて少し吐き気を覚えた。
「なんだ、これ……」
僕はその中を見ていたときに違和感を覚えた。「クロ!」
イリスが僕の肩を叩いた。
「どうした、イリ……」
彼女の名前を呼ぶ前に何を言おうとしていたのか気が付いた。
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