第41話

彼女がなぜそんな事をきいたのか僕には理解が出来なかった。

稲葉とはプライベートな質問などはほぼ皆無に等しかった。

けれど、どこか楽な時間ということはたしかで、彼女がよくわからない質問をするという事は珍しかった。

僕は頭の片隅で稲葉の言葉が繰り返されていた。

目の前のことに集中しようとしているが、上手く、行かない。

それでも僕はチタンブレードを振った。

両腕を子供のように振り上げて襲い掛かってくる”ノー・ネーム”を一刀両断する。

力任せすぎたのか、”ノー・ネーム”の腕がへし折れる。

簡単には絶命せず、僕はすかさず、二撃目を繰り出した。

横に一閃したチタンブレードが肉を切り裂いた。

”ノー・ネーム”はぎゃあという声を上げて、その場で絶命した。

返り血をいつも以上に浴びてしまう。

けれど、稲葉、彼女の顔が浮かび、そちらに意識をもっていかれる。

『周囲の”ノー・ネーム”は殲滅した。別働隊が、回収作業にとりかかる。殲滅にあたった部隊は撤収。以上』

耳から、教官の声が聞こえ、僕はふと顔を上げた。

「終わったのか……」

僕は辺りを見まわす。

今回、”ノー・ネーム”が出現したのは全部で十体以上。

完全に、南雲の思惑に遊ばれているのか、出現数はかなり多くなっている。

「クロ……」

僕の顔を見て近くの、イリスが、心配そうな顔をする。

僕ははっとし、返り血をぬぐい、彼女に微笑み返した。

「終わった」

「…………」

イリスは無言で頷くが、不思議そうな顔をした。

多分、僕が考えている事はきっとお見通しなのだろうか。

僕はチタンブレードを鞘にしまう。

「行こう、イリス。 車がくる」

僕は彼女に言った。

これから支部に戻り、いろいろとやることがある。

そう思うと、僕は溜息がでた。

『アンタは、人に忘れられるってどんな気持ちかわかる?』

稲葉が言ったことはかなりヘビーな事だ。

やっぱり、気持ちはわからない。

ただ想像するにかなり悲しいと思う。

僕にはただそういう考えしか思いつかなかった。

ふと考えにふけっていたときだった。

骨伝導イヤホンを通して、鼓膜にけたたましい、アラームが響く。

『隊に告ぐ。 ”ノー・ネーム”が出現。場所は中央病院。 被害者は多数。近くにいる隊は急行せよ』

ナビゲーターからの指示が聞こえ僕はイリスと顔を見合わせた。

当然、彼女の耳に耳にも届いている。

『黒田訓練兵、閂訓練兵。 聞いての通りだ。君らも至急現場へ向かうように』

教官の声が聞こえる。

言わなくても分かってるし、それ以外選択肢はないだろう。

僕は内心で毒づいた。

稲葉の顔がちらつくが、僕は顔をふり、次の場所へと向かう準備をした。

一分も立たないうちに、車が到着し、僕とイリス、他の隊員が乗り込み、現場へと直行した。

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