第43話
僕が向けた視線の先、巨大な”何か”の頭部、そこに稲葉に似た顔があった。
「まさか……」
僕は拡張現実のズーム機能でその光景をみていた。
身体が目の前の現実を受け入れられず、僕は硬直してしまった。
考えが浮かばず、分けがわからなかった。
『各員に告ぐ』
増原教官から連絡が入る。
『病院から出現したのは”ノー・ネーム”と確認できた。 それと、あの病院に足を運んでいた人間がわかった。リストを共有する。
近くに展開している者は直ちに、持ち場につき、対象を排除。 近接で戦闘を行う者は、対象の状態を確認しつつ、直ちに排除へと向かうように』
増原教官の言っていることは理解できたが、分けがわからなかった。
僕は自身の拳を握った。
自動で拡張現実が更新され、目の前に病院の中にいた犠牲になった人たちの名前が記入されたリストが現れた。
犠牲になった人物は全部で二十人以上に登っていた。
そして先ほど、見た光景は嘘ではなく完全な真実だと気が付いた。
リストの中に、顔写真付きで稲葉の名前が載っていた。
もう疑うことはなかった。
僕はただチタンブレードの鞘を強く握った。
ふざけんな。
そう思った。
心の中で南雲という人間をやめた存在に怒りを覚えた。
その瞬間、僕は分けもわからず足が動き出していた。
「クロ!」
後ろから僕の名前を呼ぶ、イリスの声が聞こえたが僕は気にすることなく前へと進んだ。
拡張現実を展開し、巨大な”何か”との距離を確認する。
たどり着けない距離ではないし、”何か”は動いていた。
何を目標にして動いていたのかは分からなかった。
けれど今はそんなことはどうでもよかった。
稲葉の顔が浮かび、彼女を助けようと思った。僕が必死に走っていると、目の前に”ノー・ネーム”が数体、出現した。
僕はそのまま、普段使っているチタンブレードを鞘から抜き、そのまま、”ノー・ネーム”の一体に斬りかかる。
一撃で腕を切り落とし、すかさず、そのまま首を狙う。
「きゅぇぇぇぇ」
子供のような声を出し、こちらを認識する。
僕と”ノーネーム”は目が合った。
けれどそんなことは関係ない。
僕は首めがけチタンブレードをふる。
一体絶命し、僕はすぐに他の個体に向けて、チタンブレードの刃をふるう。
返り血が、足下をしめらす。
僕は容赦することなく、チタンブレードをふるい、最後の一体を倒し、再度、駆け出す。
拡張現実が、巨大な”何か”との距離を算出
し、数字が出てくる。
僕は兎に角、足をうごかした。
『黒田訓練兵!』
無線から増原教官の怒鳴る声が聞こえたが、僕は気にかけず、無線のスイッチを切る。
息が上がりそうになるが、それでもあの巨大な何かを目指して走る。
またすぐ別の”ノー・ネーム”が出現し、目の前をふさぐ。
「またか・・・・・・」
僕はつぶやきつつ、チタンブレードを振りかぶる。
”ノー・ネーム”は藪から棒に、腕を振り回してくる。
攻撃をチタンブレードで防ぎつつ、できる限り当たらないようにする。
攻撃をかわし、”ノー・ネーム”を斬る。
ヒトの形をなくしたそれは血しぶきをあげて、そこに倒れる。
息が上がりつつ、僕は前進を進める”何か”に向かい、視線を向ける。
まだ距離がある。
僕は拡張現実の地図を確認する。
「まだ距離がある」
けれどここで立ち止まるわけにはいかない。
僕は稲葉と話していたことを思い出す。
彼女のどこか悲しげな所に惹かれた。
僕は自身についた血液をぬぐう。
すると声が聞こえた。
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