第31話

ちらりと南雲を“ノー・ネーム”が見る。

「いいんじゃないか」

彼が笑いながら答えると、“ノー・ネーム”は声を挙げた。

「ああああああああああああああああああ」

声を震わせ、身体をがくがくと震わせる。

僕はその姿に背筋が走り、恐怖が身体を包む。

次の瞬間、“ノー・ネーム”は僕の足めがけ、噛みついてきた。

「ぐあああ」

鋭い痛みに声がでる。

ふくらはぎと脛の間をかじりつかれ、その部分に何本も鋭い針で刺されるような感覚にとらわれる。

ぐちゅという音が耳に聞こえ、痛みと恐怖がさらに襲う。

「おやおや、痛みには弱いみたいだね」

南雲はおかしいなというように笑う。

その笑いは嘲笑い楽しんでいるように見えた。

「“彼”は死人だった。だから君を殺すほどの力はない。 だがこのままかじられ続けたら死ぬかもしれない」

南雲は“彼”と呼んだ“ノー・ネーム”を見ながら言った。

僕はその言葉が余計に現実に感じられ、寒気と恐怖が襲う。

「すこしだけ話をしよう。その間は“彼”には君を食べるのをやめてもらおう」

南雲はそういうと、“彼”と呼んだ“ノー・ネーム”に合図を送る。

すると足から痛みが引いた。

“ノーネーム”が足を噛みつくのをやめた。

「話をするなら…、足をどけろよ」

僕は南雲をにらみながら、彼の足をどけようと必死になる。

「いったじゃないか、話をしようって。 人の話を聞いていなかったのか」

南雲はそういい、さらに足に力を入れる。

「ぐうぅぅうぅ」

痛みを我慢しようとするが変な声が漏れる。

それほど彼が圧をかけてくる。

僕の様子を見て彼は口を開いた。

「少しは分かってくれたみたいだね」

わかるかよ、このくそったれ。

僕は内心で思いつつ、重さで口を開きたくなかった。

「いいかい? 君らはひ弱だ。だからこそ進化が必要なんだよ」

南雲は笑いながら、言った。

僕は彼の言葉を聞いて、苦し紛れに、言った。

「だから…なんだよ。 あ、アンタの…、せいで、何人、死んだんだよ」

僕は必死で息を吸いながら、苦しさを忘れるために声を挙げた。

「犠牲は進化や前へ進むためには必要なのさ。それを理解しないのは君らだ」

彼の言葉に僕は痛みを忘れ、歯を食いしばった。

「君らってなんだ? アンタは……、いったい何をしたいんだよ?」

僕は思いっきり、叫ぶ。

「別に何もしないさ。ただ今回は面白そうだと思ったから、目を付けたのさ」

南雲は足を載せながら、僕に向けて顔を近づけた。

それは紛れもない僕に向けての言葉だった。

「なんで…」

僕は目を見開きこちらを見る南雲を視界に目いっぱい入れる。

「あの港で君を見かけたとき、必死で戦っているのをみて、少し気になったんだよ。 君はどこか枠から外れたがっているのに、組織に属し戦っている。 なんのためにか知りたくなったんだよ」

南雲はそういうと、僕をみて笑う。

「君は面白い。ほかにも人間はいるが興味を引いた一人だ」

南雲は僕の身体にさらに体重をかける。

「…………!」

胸の痛みが広がり、苦しさで声がさらに出せなくなる。

「私は思ったんだ。 君はこの世界に嫌気がさしているように見えて、心の底では生きたいんだと」

彼は残酷に笑いながら続ける。

「だってそうでなければあの戦いの中で君の必死になっている姿を見せるはずがない」

「そりゃ……そうだろ」

基本、死にたい人間なんていない。

それは生物としての本能だろと僕は内心で突っ込みを入れた。

確かに僕はこの世界に飽き飽きしてうんざりしている。

だからといって

「その姿を見たいんだ。私はだから、君の知り合いを“ノー・ネーム”にさせてもらったよ。まあ、実際のところはなった彼が望んだことだが」

くつくつと笑う。

何がおかしいんだといいたいが、声を出せる状況じゃなし、このままでは本当にまずいことになる。

僕はこれはまずいとおもい、身体を動かそうとする。

そんな僕を足で押さえつけながら、彼はつづけた。

「しかしね、君を見ているのは面白い。だから一度、話そうと思っていた。 やはり面白そうだ。 これからちょっとしたゲームをしようじゃないか」

彼はそういうと、人差し指をたててる。

そのとき、別の方向から叫び声が聞こえた。

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