第23話

「わかった……」

イリスは答えた。

「何をごちゃごちゃしてるんだい。早くかかってきなよ」

フジマキは苛立ったように言うと右手を後ろにして構えた。

「いくぞ、イリス」

「………………」

イリスは頷いた。

彼の意思、そして呼吸を止めるために。

一呼吸置いた後、僕は脚をけりだす。

イリスは僕が走り始めた瞬間、フジマキに向け、引き金を引いた。

弾丸の群れがフジマキに向かう。

フジマキはそれを肥大化した右手で防御。

すかさず僕はフジマキの間合いに踏み込み、彼の首を狙いチタンブレードを真横に一閃。しかし、フジマキは身体を低くし、かわす。僕は降ったチタンブレードの勢いでそのまま身体を一回転する。

そしてそのまま、チタンブレードを斜め下にふりおろす。

僕に攻撃を仕掛けようとしたフジマキは隙をつかれたのかとっさに右手でチタンブレードを防ぐ。

「オラァァ」

フジマキの空いた脇腹に前蹴りをいれる。

蹴りを入れた衝撃が身体に響き、傷が痛む。しかし、今は隙を作ってはいけない。

フジマキは後ずさりをするが脚で踏ん張っていた。

すかさずそこに追撃をかける。

彼の首を狙い、チタンブレードを右斜め上に振り上げ斬りかかる。

フジマキはすぐに体勢を整え、バック転をしながら後退。

バック転で後退しつつも彼は、地面から離れた脚で僕の持つチタンブレードを蹴りあげた。

僕はチタンブレードを蹴りあげられ腕が上がり、体勢が崩れる。

フジマキは着地し、すぐに僕のほうに接近する。

そこにイリスが狙いを定め、フジマキの額に狙撃する。

気が付いたフジマキは途中で身体を止め、右手で銃弾を防ぐ。

「邪魔すんなぁぁぁぁぁ」

フジマキはイリスに攻撃対象を変えようとする。

体勢を直した僕は背後からフジマキに斬りかかる。

「あぁぁ」

斜めにふりおろしたチタンブレードの刃はフジマキの背を切り裂く。

彼の変形した皮膚からは血が流れる。

「ぐぁぁ」

フジマキは痛みで声をあげる。

「やりやがったな」

フジマキは怒声をあげる。

そこにもう一度、イリスがライフルを連射し頭部を狙う。

フジマキは怒りに狂っていたが放たれたライフルの弾を右手で防ぐ。

彼はイリスの方に意識がいっている。

すかさず僕はフジマキにもう一度、斬りかかり脇腹にむけ一閃。

今度は深く刃が通った。

彼の脇腹はチタンブレードによって肋骨、あるいは浮遊肋を断ちきり、背中と同じように血が流れでた。

これなら奴を……。

そう思ったときだった。

彼のすぐ横を通過し振り返りチタンブレードを構え、見たとき僕は唖然とした。

フジマキの背中の傷はいつの間にか塞ぎ、瘡蓋のようになっていた。

「嘘だろ……」

僕は痛みにあえぎながら思わず呟いてしまった。

「あがぁぁぁ」

フジマキは涎をたらし怒り狂う獣のように咆哮する。

彼が叫び大気が振動しビリビリと響くような声。

そのまま、僕のほうを向くとこちらに向かって猛スピードで走ってくる。

彼は腕を振り上げるとジャンプする。

「ガァァァァァ」

叫びながら落ちてくるのを見た。

僕はすかさず、その場を離れた。

ドンという腹に響くような轟音がし、コンクリート片が飛び散った。

コンクリート片から顔を守り、すぐにフジマキのほうを見る。

僕のいた場所は小さなくぼみを作り、穴が空いていた。

フジマキは顔をこちらにむけジロリと睨んでくる。

完全に頭にきている。

だがそんなことは関係ない。

「クロ」

イリスが叫び、フジマキに引き金をひく。

フジマキは素早くイリスの方に向くと右手を盾にしながら彼女の方へ走っていく。

「イリス、逃げろ」

僕はフジマキを追う。

イリスは走りながらフジマキにアサルトライフルの引き金を引く。

しかし、彼女の攻撃はまったく通じない。

フジマキが跳躍し、彼女へ飛びかかろうとする。

イリスは横に前転する形でジャンプした。

フジマキは右手を降りかぶりイリスめがけ降りおろすが外れる。

イリスは間一髪で逃げ、フジマキの腋にむかいライフルを撃つ。

ライフルの弾がフジマキの腋に着弾し皮膚を裂き体内へと侵入する。

フジマキは苦痛に顔を歪める。

しかし、すぐにイリスに向き直る。

「このアマがぁぁぁぁ」

フジマキは叫び、イリスに向かって行こうとする前に僕は彼に斬りかかった。

フジマキは右手でチタンブレードを受け止める。

すかさず僕はチタンブレードを握ったまま彼の足にローキックをいれる。

フジマキは膝を崩し、膝を地面につく。

その隙にフジマキはチタンブレードを放す。すかさず振り上げ彼の首を狙う。

その瞬間、身体にドンという衝撃。

フジマキが右手の爪を立て、僕の身体に突き刺した。

見ると傷口の近くを刺していた。

「ぐあぁぁ」

痛みで声が出てしまう。

「御返しだ」

フジマキは力を込めていった。

痛みで意識が遠のきそうになる。

だが……。

「イリス、今だ。やれ!」

僕はライフルを構える彼女に言った。

彼女は察したのか、すぐに左手を腰に回し、取り出したものをこちら近くの空へに投げた。僕はすかさず拡張現実を展開。

フジマキはそれを黙って見ていた。

次の瞬間、イリスが投げた物が破裂し、ピーという甲高い音、そして太陽の光より明るい光が発生した。

閃光弾は暴動鎮圧や強襲に使われる物だ。

炸裂した音と強力な光で相手の視角、聴覚を一時的に奪うことで隙を作る。

僕は拡張現実の遮光モードとヘッドセットについた防音機能で甲高い音は少しだけ遮られた。

光が収束し音が鳴りやむ。

あたりが暗闇に包まれる。

目の前ではフジマキが目元を押さえ、悶えていた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ヘッドセットの隙間からフジマキの声が小さく入ってくる。

僕はゆっくりとチタンブレードを構え、脚を踏み出した。

目を押さえ、もがくフジマキの首を狙いチタンブレードを降り被った。

これで彼を終わらせる。

僕は友人と呼ばれる人物を手にかけるのは初めてだった。

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