第20話

「フジマキ……、ノボル」

僕は彼を見つけギョッとする。

暗示モードでいるためある程度近くなら視野がきくので全体を把握出来てしまう。

僕は嫌な胸騒ぎは当たってしまったと彼の姿を見て思った。

彼は普段と変わらない制服姿だったが、問題は手に何かを掴んでいることで彼が掴んでいたのは以前から彼に対して暴力を加えていた竹内という男子生徒の首から上、頭部だった。

それだけでなく、竹内の取り巻きらしき見覚えのある顔も彼の手にはあった。

「見てよ、黒田くん。僕、力を手にいれたんだよ」

そういうと彼は掴んでいる複数の頭部を僕にみせるように掲げる。

さっきまで生きていたのだろう、切断された部分から血か滴っていた。

「僕、さっき知らない男の人に会ったんだ。その人は黒いマントを着てた。面白い恰好してるよね。その人が言ってたんだ。君に力をあげようって。僕はすぐに頷いたよ」

フジマキノボルは嬉しそうに笑う。

乾いたような笑い方をしていて、人間見のない笑い方に見える。

「そしたら身体の内側が熱くなってきて力がみなぎるような感じだったんだ。でたまたま近くにいた三人に力を試してみたんだ。そしたらほら、三人、いっぺんに倒したよ。見てよ、この顔。コイツらみんな、僕を見て驚いた表情してたんだよ」

フジマキは何かに取りつかれたかのように片手にもっていた人間だった頭部を掲げた。彼の眼球は赤く濁り、瞳孔が開き、明らかに興奮しているのがみてとれる。

「滑稽だと思わない?こんなに人のこと散々、グズだのゴミだと言っていたのに結局、みんなこの様だよ。ほら今はドッチがゴミなんだか」

フジマキは笑いながら、掴んでいた頭部をその辺りに向かい、無造作に投げ捨てた。

三つの頭部は転がり、こちらのほうにもひとつ飛んできた。

どんな顔をしているのかこちらからでも見えたが無惨にも苦痛の表情を浮かべていた。

どんな気持ちで死んでいったのかは想像がつかない。

僕はフジマキノボルに向き直る。

「なぁ、なんでそんなに力を欲した?」

僕は低い声で問いかけた。

彼をみていてどうしようもなく悲しい気持ちになった。

だから彼に聞きたくなってしまった。

「はぁ?どうしたの、黒田くん?」

オドオドしていた以前の彼と違い、ふてぶてしい顔をして僕をみる。

力を手にして溺れる人間はこんな顔をしているのだらうか?

「なんで力を欲したか?そんなの簡単な答えだよ。僕を笑った奴ら全員殺すためだよ!」彼は残虐さを含んだ笑顔を見せる。

「君は僕のことを助けてくれただから逃がしてあげるよ」

フジマキノボルはそう言った。

「ほら、逃げなよ」

フジマキは僕のことを興味なさそうに言った。

僕の考えは間違っていた。

彼は力に溺れてこうなったんじゃない。

元々の性格がこういう性格なんだ。

僕は黙って下を向いた。

「あれ、どうしたの?」

フジマキは不思議そうな顔でみた。

「早く逃げなよ」

その言葉に僕は反応し、顔を上げた。

彼は一瞬、驚いた顔をした。

「嫌だね」

僕はきっぱりと言った。

「誰が逃げるか。僕も一応、《ダスト》の人間なんでね。引き下がるわけにはいかない」いつの間にか彼を睨んでいた。

フジマキは一瞬、止まるとニタリと笑った。「せっかく助けてあげようと思ったのに」

彼の右腕が変な動きをすると肥大化する。

徐々に人間の胴体ほどありそうなくらい彼の腕は肥大した。

「恩を無駄にするんだね」

彼の瞳は血走っていて赤々としていた。

フジマキノボルはやはり《ノー・ネーム》化していた。

僕は覚悟を決め、チタンブレードを鞘から抜く。

「なにそれ?もしかして日本刀ってやつ?本物?あはは、黒田くんもしかして戦うつもり」

「…………」

僕は無言でチタンブレードを正段に構える。「答えを聞く必要なんてなかったね」

フジマキノボルはニヤリと今まで隠してきた凶暴性を含んだ笑顔をした。

「あはは。遠慮はいらないみたいだね」

フジマキノボルは突然、踞ると小刻みに震えだした。

「ううぅ………」

うめき声をあげながら身体を小刻みに振るわせる。

段々、揺れが大きくなるにつれ、身体が膨張していく。

あの時と同じ、意識を一定に保ったまま身体の一部が肥大していく。

彼自身の顔の形を保ったまま、身体が変わり、まるで想像の生物の様な形になる。

彼の右腕は人間の胴体ほどあるような形になり、爪も人を切り裂くには容易いような形に。

完全に人の理性を保ったまま化け物とかしていた。

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