第9話 感じ方

チタンブレードを振り抜き、次の時には僕はサイドステップの要領で横に抜ける。

ちらりと横目で一瞥する。

“ノー・ネーム”化した男の喉元からは血が吹き出す。

“ノー・ネーム”化した男は僕らを襲いかかろうとした状態のまま、静止する。

僕は一度の攻撃で止まることなく“ノー・ネーム”化した男の背中に斬撃を加える。

男は痛みに身体が反応しのけ反る。

イリスは容赦なく、男の頭部に向かい、引き金を引いた。

男は額の辺りから一瞬、血を吹き出す。

眉間を撃たれたのがわかる。

そしてゆっくりと“ノー・ネーム”化した男はその場に膝をつく。

僕は男の背に立ちチタンブレードを振りかざし、そのままふり降ろした。

チタンブレードの刃は男の肥大化した身体を貫く。

肉を貫く感触が振動で手に伝わる。

半分近くまでチタンブレードを突き刺すと男はガックリと項垂れた。

完全に絶命したのか死後硬直意外では動かない。

僕はチタンブレードを引き抜き、刀身についた血液を振り払う。

化け物とかした男の身体はそのまま地面へと倒れた。

ドスンという小さく重たい音がした。

僕はなんとなく化け物とかした男の遺体から目を離すことができなかった。

なんて脆いのだろうと思った。

そっと肩に手が置かれる。

僕は振り向くとイリスが心配そうな顔で見ていた。

そんな彼女の顔をみて僕は口角をあげ、わざとらしく微笑んだ。

「大丈夫だよ、イリス」

僕は彼女を心配させたくはない。

自分で嘘つきだとわかっていても嘘をつかずにいられない。

僕は彼女の目をみて言った。

「残りの“ノー・ネーム”を始末しよう」

イリスは数秒間、僕の目を心配そうに見つめ黙る。

そんなに見つめられるとなにか見透かされそうな気分になる。

僕は目をそらし拡張現実に意識をいこうする。

どうやら味方はすでに半分近く“ノー・ネーム”を始末しているみたいだ。

残りは十体以下か。

僕は感傷に浸りそうな心を切り替え、戦闘に意識を集中させる。

僕はチタンブレードの柄を強く握りしめる。拡張現実に“ノー・ネーム”が近くにきているという表示される。

「ぎぃやあああああ」

近くで人間の叫びに似た声が響く。

意識を戦闘に向けても思ってしまう。

つくづくこの仕事は嫌だな。

僕は胸にチリチリとした感じながら、チタンブレードを構え、声がした方へ走っていく。

港の倉庫に潜んでいた“ノー・ネーム”は一時間も立たずに駆逐された。

僕らはサンプルを回収し、撤退した。

ああ、ちゃんとやりましたとも。

嫌なことにはかわりないけど。

任務は無事に終ったかのように思えていたがイリスから話を聞く限りではそうではなかったことがわかった。

負傷者は重軽症関係なく隊員全員の半分にのぼっていた。

“ノー・ネーム”と何度も戦ったことのあるベテランの《オプション》も負傷するし、増原教官が乗っていた指揮をする車も襲われたこともわかった。

こんな事態に陥ったのもあの戦闘地域に民間人がいたこと、それにその民間人がナノマシンに感染し隊員たちの目の前で“ノー・ネーム”化したことが要因にあるんだろう。

普通、活性型のナノマシンに感染した人間は二三日の間に細胞に異変が起きる。

そして最後には“ノー・ネーム”という化け物になる。

昔のくだらない映画に出てくるゾンビのように感染すれば後は悪化の意図を辿るだけ。

そのはずだった。

けれどあの男を含む人たちは僕らの前で肉体が肥大して“ノー・ネーム”化していた。

まるで期をてらっているかのように。

他の隊員たちも同時刻、一斉に肉体の肥大化に立ち会っている。

偶然にしては出来すぎているように思える。なんとも言えない違和感を僕は感じていた。

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