第4話 リザーブ
「それはそれとして唐突なんだけど聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい?」
「アンタって《リザーブ》なの?」
本当に唐突だな、おい。
僕はこの手の質問には慣れてるし、正直ウンザリだ。
人の好奇心ほど面倒うなものはない。
“リザーブ”。
訳すと“予備”だ。
要は“ノーネム”になる可能性を持った人間のことを指す。
ナノブレイクで発生した活性型ナノマシンに感染し、体内に残留したまま、組織などがまだ正常な状態の奴のことだ。
必ず毎年に一回、検査を義務づけられ反応が陽性であれば適切な処置を受けさせられる。それがわかったとなればただごとではならない。
身体の変化だけでなく、周囲の反応も変わってくる。
完全に疎外されることは間違いないだろう。周囲は“リザーブ”という言葉を聞いただけで冷たい反応をする。
簡単にいえば差別用語のようになりつつある。
本当に厄介だよ。
僕はため息をつきながら返答した。
「ああ、そうだよ。化け物に見えるかい?」僕は皮肉をこめて淡々と言った。
「……………………」
稲葉は目を見開いてこちらを凝視する。
そして驚いた顔が崩れると笑いだした。
困惑した僕は問い詰める。
「い、いきなりなんだよ?笑いだしてさ」
「ごめん、ごめん。アタシが聞いたイメージとは違ったからさ」
彼女は煙草を地面に押し付け消すと吸い殻を放り投げる。
「“リザーブ”って言葉が意味することがわからないわけじゃないし嫌なことだと知ってるよ」
「じゃあ、なんで聞いたんだ?」
「アンタに関する噂で“それ”についても聞いてたから本当かと思って」
「余計なことから聞かれたくないことまで話の種にされてるわけだ」
僕はため息をついた。
正直、こういう噂とかどうでもいいのだが教室に入ったときに気まずい思いになるのは否めない。
それが嫌な部分でもあるし本当に面倒くさい。
「でも話してみてアンタって噂のイメージとは違うんだなってわかった」
稲葉はさっきまでのワルい顔ではなく一人の女の子の笑顔になっていた。
「それにアンタ、おもしろいね」
「僕が面白い?」
また僕はあっけにとられる。
「そうそう。面白い」
稲葉は笑う。
彼女はこの表情のほうが似合っているんじゃないかと柄にもないことを考える。
「ぷっ、そんなこと言われたの初めてだ」
「そう?」
僕は稲葉の笑顔につられ自然と笑っていた。不思議な奴だ。
「稲葉はいつもこの時間にいるのか?」
「さっきも言ったしょっ。アタシはよくここにいるって」
「そうか。なら暇な時、話し相手にでもなってくれないか?」
「アタシでよければ」
こうして僕は稲葉葉子と友達になった。
久しぶりに学校で同年代とまともに話した。自然と話しやすい人物に出会ったのは初めてかもしれない。
そんな感覚を覚える奴だった。
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