第3話 彼女は

ふと給水塔の近くに人の気配がし、どうやら僕と同じアウトロー的考えを持った人がいるようだと思いつつ目をやる。

そこには煙草を吹かした同じ制服の女子。

どう考えても同じ制服を着た人しか見れないのだが、あからさまに違和感ありありだった。

ボブカットにした髪を茶色く染め、制服は着崩れていて自分なりにアレンジされている。

薄く化粧をしたのか唇も自然だったら血色が良すぎだと言えるほど赤く染まっていた。

名の知らぬ彼女はその赤い唇で煙草をゆっくりくわえるとその後煙りを吐き出す。

あからさまに私はワルですっていう感じだ。

僕としては関わりたくないタイプだ。

絡まれたりしたら面倒うだから僕は視線を外そうとする。

その時、空を見上げていた気の強そうな目は此方をむく。

お互いに視線があう。

うわぁ、目があっちゃった。

僕はすぐに目を逸らそうとしたが相手はそれより早く反応する。

「何見てんの?」

気が強そうな目で僕を睨む。

面倒くさいな………。

僕はそう思いながら彼女の様子を伺いながら答える。

「別に見てないですよ」

敬語になっちゃったよ。

彼女の胸元のリボンは青色で二年生と判断できる。

どうやら同級生らしい。

「っていうか、普通にこっち見てんじゃん」

突っ込まれた。

「いや、人の気配がしたからなんだろうと思って」

僕はしどろもどろになりつつ答えた。

彼女は僕の返答に考えつつ品定めするかのようにこちらを見る。

数秒後、興味なさそうに答えた。

「あっそ。ならいいけど」

そっぽを向くとまた煙草を吸い始める。

偉そうに……。

なんとなくこの手の人達って反骨精神ありそうだけど自分より強い人間とかに弱いんだよな……、きっと。

彼女から視線を外し、空を見上げる。

あぁ、今日も何事もなければいいな。

僕はささやかな一日を祈りながら瞼を閉じた。

「ねぇ、アンタってさ、二組でしょ?」

突然、暗闇の中、声が聞こえる。

せっかく寝ようとしたときになんだよと思いながら瞼を開ける。

声がしたほうをみる。

さっきつっかかってきた見知らぬ同級生が煙草の煙りをはきだしながらこちらを見ていた。しかもはやく言えよコノヤローって目付きをしてるし。

「に、二組だけど……」

対人関係におけるコミュニケーションをとる技術がゼロに近い僕はたどたどしく答える。ようは人見知りが著しいのだ。

「やっぱり、アンタ、二組だったんだ。確か黒田って名前じゃない?」

ムッツリとした顔がほんのわずか崩れ女の子らしい表情に近づく。

「なんで知ってるんだい?」

「なんでってアンタ。相当のワルって有名だよ」

「僕がワルだって?なにか可笑しい気がする。なんにも教師に嫌われることはしてないぞ」

平静を装いつつ、知らない彼女に反論する。

「アンタが知らないだけでいろいろと噂は出回ってるよ。ヤバい奴だって」

「ちょっと待ってくれ。唐突に明かされた事実にかなり驚きを隠せないぞ。そんな噂、誰が言うんだ?」

「うん?クラスの奴だけどほとんど女子かな……」

「その女子達は一体、どんな噂をしてるんだ?内容について気になるぞ」

「ああ、内容。たとえばだけどアンタのクラスにいる閂イリスとかいう女子にに夜な夜なイヤらしいことを教育してるとか」

「そんな噂どっから出てくる?」

「だってよく授業フケたり、下校時に閂の手を引いてたりするの目撃されてるみたいだし」僕は愕然とした。

夜な夜な化け物、“ノーネム”と命がけで戦っているというのに関わりのないクラスメイトからはそんなふうに見られていたのか……。

ショックだ。

確かにクラスメイトとはコミュニケーションが希薄だけれど。

「僕がそんな奴に見えるか?」

「アタシはそうは見えないけど。想像していたのと少し違うし」

見知らぬ同級生は興味なさそうに答えた。

「ところで君は誰なんだ?僕は君のことを知らないぜ。名前くらいは教えてほしいな」

「アタシ?アタシは一組の稲葉葉子だよ」

初めてあった彼女はそう答えた。

「稲葉葉子さんね」

「友人からは葉子とかって呼ばれてるよ。まぁ、勝手に呼んでよ。たださんづけは無しにしてくんないかな。他人行儀なのは好きじゃないんだ」

稲葉葉子はサバサバした感じで言った。

「じゃあ、稲葉でいいかな?」

「別にいいよ」

「ところで稲葉はなんで僕なんかに話しかけようと思ったんだ?」

「ん、理由なんてないんだけど」

「理由ないのかよ」

「いちいちうるさい奴だね、アンタ。そんなに理由が必要かな?ただ単に面白そうそうな奴だなと思って話しかけたんだけど」

「そんなあっさりと……」

人間として最底辺にいる僕としてはそのコミュニケーション能力には脱帽する。

「それにアタシ、ここにはアンタがいるときも毎日のようにいたし」

「えっ、いたの?」

「いたし。っていうかアンタぐっすり寝てたじゃん」

毎日確かに授業をふけて、ここで寝てた。

けどこの屋上には誰もこないもんだと考えていた。

「意外や意外だ」

「まぁ、別にいいんだけど。アンタも授業フケてんだなって思いながら見てた」

「くそ、それは恥ずかしいぞ」

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

「良くない、寝顔をみられるとは!大切な人に見られるならまだしも」

「アンタは女子か?」

突っ込みを受けたぞ。

稲葉を見るとさっきのようにムスッとした顔ではなく、笑顔になっていた。

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