エピローグ

僕はチタンブレードを振り下ろした。

”ノー・ネーム”はギャッと声を上げてその場に倒れた。

赤い水たまりをつくる。

「”ノー・ネーム”をすべて討伐しました」

僕は後ろをふり向いた。

十体以上地面に横たわり、屍の山ができていた。

『よくやった、黒田隊員。ヘリが其方に到着次第、サンプルを回収しひきあげろ」

「了解」

短く増原教官に答え、通信を切る。

「行こう、イリス」

僕はイリスに向かい言った。

イリスは短くわかったと答え、銃をしまう。

僕は再度、後ろを向く。

そこには内臓、、目玉、脳漿、骨……。

元々、人間、名前のあった人達の物があちらこちらに散らばる。

今では名前がなくなり、怪物となったなれの果て。

帰るところはどうせ一緒なんだなと僕は思いながら、チタンブレードについた血を払い、鞘に収めた。

それと同時に遠くでヘリの音が聞こえた。


 エレベーターが振動し、目的の階へと到着したことが分かる。

僕と現場の管理者、案内の隊員の三名でエレベーターを降り、分厚い扉の前にたつ。

地下何メートルくらい掘ったらこんな物ができるのだろうかと考えながら、見上げる。

管理者が扉の横に取り付けられたパネルを操作する。

すると扉が重々しい身体を揺らし、動き始めた。

扉が完全に空き、僕ら三名は中に踏み入れる。中に入ると巨大な空間で真ん中に一カ所だけガラス張りでできた部屋があった。

巨大な四角い水槽みたいな感じだ。

部屋は大人が三人以上は入れそうなほどの

広さでその真ん中に椅子がとりつけられそこには両腕右脚にチューブを取り付けられた南雲が拘束されていた。

彼は全員が部屋に入ってくるとニヤニヤしながら見渡す。

彼は全員を見まわすように見ていたが、意識は確実に僕に向いていた。

「やぁ、久し振りじゃないか」

南雲はガラス越しに言った。

僕は溜息を付き、彼の方を見ないでおこうと別の方をむいた。

すると広い部屋の奥で数名の研究者と一緒に何か作業をしている南雲博士の姿が見えた。

こちらの視線に気がついた南雲博士は顔をこちらにむけて視線があう。

南雲博士は眉間に皺をよせ、こちらを少しだけ睨むとすぐに手元の資料に視線を落とした。「娘は君のことが憎いらしい」

南雲は僕の方を見ていった。

「憎まれるようなことはしてないぜ」

管理者は首をかしげながら、部屋の近くに置かれたコンソールを確認する。

「君じゃない。黒田くんだ」

南雲は溜息を付き、いらだったように言った。管理者は肩をすくめながら、コンソールを弄る。

ぴぴっと音が鳴り、南雲につながれたチューブのに緑やら、カラフルな液体が流れ込む。

僕は気になり、付き添いの隊員に問いかけた。「何をしてるんです?」

「ああ、あれは対象のナノマシンの力を弱める薬を投与してるんです」

「そうなんですね……」

短く答えると僕は薬が流れていく様をみた。

南雲はあいかわらず僕の顔をみて笑う。

「君と合うのは一ヶ月ぶりくらいかな?」

「会いたくもなかったよ」

「そういわないでくれ。私がどれくらい管理してる彼に駄々をこねたとおもう?」

管理者はこちらを、むいて、肩を落とす。

「それで呼ばれたのか」

正直、今日、僕がなぜここに呼ばれたのか分からなかった。

しかし、彼が管理者にさんざん何かをいい、ここにくる羽目になった。

僕は管理者と隊員は睨む。

二人はどこふくかぜで視線を合わせようとしなかった。

「で、僕に何のようだ?」

僕は南雲に問いかけた。

正直、顔を見たくなかった。

僕はこのときにチタンブレードを持っていたら、確実に殺しにいっていた。

「別に、話がしたいから呼んだのさ」

「それだけか?」

「そう、それだけさ」

僕は彼の顔を見ていると気分が悪くなる。

「なら帰る」

「まぁ、そういうなよ。世間話をしようじゃないか。 どうだい、世間は?」

彼はまた笑いながらいった。

「イカれはじめてるよ」

僕は溜息を付きながらいった。

世間での状況は悪化し始めていた。

”ノー・ネーム”になる人数が多くなり、そして、それによる被害も多くなり初めているのが現状だ。

多分このまま行けば、人類は完全に、ナノマシンが進化する前に絶滅してしまうのではないかと思うほどだ。

「そうか……。私も予想していなかった状況が起きている所もあるわけだ」

彼は感心したようにいった。

正直、もうここから出たかった。

頭の中で稲葉の顔がちらつき、怒りで腹がおさまらなくなりそうだった。

「で、黒田くん。君はこのさきどうするつもりだい?」

「……?」

「私は一つだけ聞きたかったんだが、君はこの先も、自分が名前の知らないものを斬っていくのかい?」

南雲はニヤリとこちらをみていた。

その笑顔は冷ややかで、現実を突きつけられた気がした。

僕は答えることなく、隊員に、いった。

「もう帰ります。 くる必要は無かったみたいだ」

隊員と、管理者は顔を見合わせ、しょうがないといった様子で頷いた。

管理者がすぐに後ろの分厚いガラスをあけようとしていた。

僕は踵を返して、その場をあとにしようとした。

「黒田くん、彼女は残念だったね」

南雲は笑いながらいった。

僕は拳をにぎり、後ろをむき、南雲の部屋のガラス近づき、叩く。

「アンタをちゃんと殺しに来るから覚えてろ」僕は怒りの気持ちを彼に向けたのち、すぐに出入り口に向かった。。

彼は小さく、クククと笑うのが聞こえていたが気にしなかった。

もう自身の気持ちは固まっていた。


 遠くでサイレンがなった。

僕は自身が手にしたチタンブレードを足下で脈動して、死にかけている”ノー・ネーム”の背中に突き立てていた。

僕はチタンブレードを引き抜き、そのまま足下の”ノー・ネーム”の首をはねた。

後ろではイリスが銃撃で何体か駆除していた。

あれから数か月たったが稲葉の顔が何度も頭に出てきていた。

そのたびに眠れない。

今もそうだ。

けれど僕は続けていくしかない。

いずれ化け物と同じになるときまで。

きっと足下で絶命している怪物も元は人間で名前があった。

だからいずれ、名前がなくなるそのときまで、僕は”ノー・ネーム”を切り続けるだろう。

それに稲葉、彼女のことは忘れない。

彼女の名前は記録から抹消されても僕が覚えている。

いつか彼女と同じになったとき、誰かが僕の名前を覚えてくれているといいな。

僕はそう思い、叫び声が聞こえた後ろにふりむいた。

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