ノーネーム・オブ・アーカイブ

How_to_✕✕✕

第1話 プロローグ

僕はチタンブレードを降り下ろす。

僕の手には切りにくく固い肉が切断される刃を通して伝わる。

切った目標はギャッと短い悲鳴をあげ絶命した。

返り血を浴びたが感染することはない。

ただ生暖かいぬるぬるとしたさっきまで生きた物の身体の中にあった物を被っていい気はしない。

僕は顔をしかめっ面にしながらブレードを構える。

生き残った目標が此方に向かって突進をしかけようとしているけれど、まるでだだをこねた小さい子が走ってくるように見え、内心、滑稽だなと思った。

そんなことを考えている隙に目標は大きく尖った爪を振り上げていた。

僕は体勢を低くし大きく足を一歩、踏み出す。相手が腕を降り下ろすと同時にそしてチタンブレードの切っ先を弧を描くようにふりかぶる。

グチュッという音が聞こえた後、目標の腕が吹き飛ぶ。

僕は気にも止めず、ブレードを横に一閃し、目標の首をはねる。

はねた頚から動脈を切ったからなのかビュッビュッと鮮血が一定間隔で出る。

返り血を浴びなかったがなんとなく嫌な気分になる。

僕はしかめっ面のまま、ちらりと横をみる。十メートルの距離と満たない場所で閂イリスは無表情で銃を構え、目標へ発泡していた。

彼女はいつどんなとき、どんな状況においても無表情だ。今でもだ。

淡々と感情の読み取れない顔で引き金を引き続け、的確に目標の頭部を撃ち抜いていく。彼女の近くには頭を弾丸で吹き飛ばされた目標の亡骸が何体も転がっていた。

スナイパーライフルなんかの弾丸は人間の頭部など簡単に吹き飛ばす。

一度、そういう死体を見たことがある。

スナイパーライフルに眉間を撃ち抜かれ、目から上はスイカ割りで割られたスイカのように粉々になっていた。

脳髄はピンク色の花を咲かせるように辺りに飛散していた。

目標の脳髄と血液は同じようになっていた。僕は閂イリスの顔を見る。

彼女は返り血を浴びているのにも関わらず無表情に近い。

汚れを気にせずただ淡々と目標、もしくは何かを見据えている。

その時の彼女の姿になぜか僕は惹き付けられる。

もし写真が手元にあるなら彼女の横顔をフィルムに治めておきたかった。

この状況に相応しくないことを考えつつチタンブレードを構え直す。

しかし辺りを見回すと目標の姿は消えていた。

視界に広がる拡張現実に記された辺りにいる目標の数を表した数字は0になっていた。

するとそんな僕に忠告するかのように耳元の無線から声が聞こえた。

「気が抜けているぞ、黒田訓練兵」

低く有無を言わさない声が脳内に響く。

増原教官の声だ。

僕は内心、マジかよと自分の失態を後悔するのと同じく、めんどくさいなと思った。

「わかっています。教官」

「わかっているなら気を引き締めろ。遊びじゃないし訓練でもない。これは実戦だ。気を抜けば自身の死に繋がるだけでなく仲間にまで危険が及ぶ。それをわかっていってるのか?」

僕は内心、何を言っているんだコイツと思った。

仲間と言われてもここには僕と閂イリスの姿しかない。

けれど言われたことは素直に従わなければ規律違反にされるため僕は今、考えたことを飲み込む。

「次は気をつけます。教官」

僕は素直な奴のような口調で差し支えないように答えた。

「作戦は終了だ。ヘリは五分後に到着する。帰還後、二人に評価を渡す。以上だ」

教官は短く言い切ると通信を切った。

僕は短くため息をつくとチタンブレードについた血糊を振り払い、鞘に納める。

僕はイリスのほうにむく。

彼女は無表情のまま、僕を見ていた。

「五分後にヘリが到着するってさ」

「………………」

イリスは何も言わずに僕を見つめ返すだけ。気にも止めず質問を繰り返す。

「怪我はないかい?」

「………………」

イリスはゆっくりと頷くが返事はない。

「そうかい。ならよかった」

僕は思わず笑ってしまう。

別になにもないのだが閂イリス、彼女に怪我がないことがわかるとなぜか笑ってしまう。

可笑しいとかそういった感情ではなく安心するのだ。

「支度しようか、すぐに後片付けの部隊がくるし」

イリスは何も答えず頷いた。

僕はふと遠くの空をみる。

辺りは暗闇に包まれているのに星は瞬いている。なんとなくセンチメンタルな気持ちになりつつ、またため息をはいた。

ふと思い出したことがあった。

明日、授業で提出する宿題を忘れていることに。

「マジかよ……」

呟くがどうにもならない状況に面倒くささを感じつつ帰り仕度をはじめた。

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