第9話 待機
「コウスケ様にご迷惑を掛けたことは本当に申し訳なく思っております」
「違う。謝罪がほしい訳じゃない。俺はどうして追われる立場になっているのか、理由を知りたいんだ」
「はい。その件に関しては私からは申し上げられません」
「どういうことですか?」
「それは鈴蘭お嬢様から止められているからです」
「止められているって何で?」
問おうとすると磯部は口を尖らす。自分の中で何かと格闘しているようにも見えた。何か理由があることは間違いないが、聞いてしまったら磯部の身が危ないようなそんな感じだった。
俺が九条鈴蘭から大事なものを奪ったと言うのは本人から聞いた方が良さそうである。
「なら九条鈴蘭と会わせてくれ。話を聞くならそっちの方が早い」
「鈴蘭お嬢様にですか。本日はやめられた方がいいかと」
「何で。さっき会えたぞ。チラッとだけど」
「今頃、ヘリに乗られている頃かと思います」
「ヘリ?」
「はい。空中散歩です。こちらへ戻ってくるのは二日後になると思います」
金持ちのお嬢様のすることはよく分からない。
「せっかくここまで来たのに二日も待てだと? 今すぐ呼び戻してくれ。俺がいるって聞けば飛んで戻ってくるだろ」
「それが出来ないんです」
「出来ない?」
「鈴蘭お嬢様の行く場所は電波が入らない場所です。こちらからの連絡手段はありません」
「何だよ、それ。じゃ、どうすればいいんだよ」
俺はなかなか話が進まない現状に苛立ち声を荒げてしまった。
「でしたらお嬢様がお戻りになるまでお待ちになりませんか? 最高のおもてなしをさせて頂きますので」
「おもてなし?」
九条グループのおもてなしとなれば想像以上のことが期待できる。
「分かった。その前に一本電話をさせてくれ」
「はい。どうぞ」
俺は迷いもなくある人物に電話を掛けた。
『はい。もしもし』
「あ、先輩。俺です。雑賀です」
『おう、雑賀。どうだ? 目的は果たせたか?』
ところどころ、電話先の先輩の声が途切れている。
それに周りの雑音がうるさくて聞き取るのがやっとである。
「先輩。どこにいるんですか?」
『どこってパチ屋だよ。今、良いところなんだ』
上機嫌に先輩は鼻を鳴らす。
おそらく勝っているのだろう。
「すみません。先輩。ちょっと俺、少しの間、帰られそうにないので先に帰って大丈夫ですんで」
『帰れないってどういうことだよ』
「とにかく彼女に会えるまでこっちで粘るつもりです。なので職場には……」
『分かったよ。職場には俺からうまく言っておく』
「助かります。先輩」
『だが、何も目的を果たせずにノコノコ帰ってくるんじゃないぞ。その時は俺がお前に鞭を打ってやる』
「はい。絶対に果たしてきます。それに今のところ順調ですから」
『何か掴んだのか?』
「えぇ。ですから心配いりません」
『……そうか。じゃ、俺は適当に遊んだら帰るからな』
「はい。気をつけて帰って下さい」
『お前もな』
通話を終えた俺はスマホをポケットに入れた。
「磯部……さん」
「磯部でよろしいですよ。コウスケ様は大事なお客様です」
「磯部。とりあえず今日は疲れた。ゆっくり出来る場所はないか?」
「それでしたら最上級ホテルの一室をご用意しております。そこでゆっくりなさって下さい。そこまでお送り致しますので」
話は流れるように進み、俺は高級車に乗せられて一流ホテルの前で降ろされた。
「では鈴蘭様がお戻りになったらお迎えに上がります。それまでこちらのホテルでゆっくり羽を伸ばして下さい」
「あぁ。それより良いのか? こんな高そうなホテルに泊まって」
「構いません。大事なお客様なのですから失礼があっては困りますからね。ホテルのサービスを存分に使って下さい。では私はここで失礼します」
磯部はそう言い残して高級車を走らせた。
どのみち九条鈴蘭に会えるまでは帰れない。
だったらここで時間を潰すしかない。
そんな軽い気持ちで俺は一流ホテルの正面へ進んだ。
「それにしても腹が減ったな。ずっと移動と動きっぱなしだから余計に腹が減る。一流ホテルってどんなものが出るんだろうか」
少しワクワクする自分が抑えられずにいた。
せっかくのご恩だ。存分に楽しませてもらおうか。
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